黒い執事とウィリアム視点①
執事登場だけだと短かったので、ウィリアム視点①も入れました。
そして約束の時間にユーノは漆黒の髪と瞳を持つ青年と共にロードライト家を訪れた。
レイモンドは青年を見た途端一瞬驚いた様に目を見開いたが冷静な態度で2人を迎え入れた。
「紹介します。ダドリーです。執事としての実績はありませんが、パール公爵家で仕事は完璧だとお墨付きを頂いています」
ユーノはさらりと青年の名前と簡単な経歴を話した。
「そうか、まずは座りなさい」
レイモンドが座るように声を掛けたが、ダドリーは首を横に振る。
ユーノの話では執事経験が全く無く、一週間前にパール公爵家で見習いを始めたばかりだと言うのに、洗練された所作と控えめな態度はパール公爵家の総執事が自ら教育を買って出ただけの事はある。
「ダドリー。私がロードライト家の当主、レイモンドだ」
「初めてお目に掛かります。ロードライト家の名を汚さぬ様、誠心誠意務めさせていただきます」
シルヴィーはレイモンドに挨拶をするダドリーを見ながら、これで黒の執事服を着て片眼鏡を掛けていたら前世の漫画で見た事がある、真っ黒な執事にそっくりだ、と考えていた。
「文句の付けようが無いな。ダドリー、家の細かい事は侍従長に聞き、馴染む様努力しなさい」
「お認めいただきありがとうございます。ご期待に添える様努力いたします」
完璧な挨拶に美しい所作。文句など言える筈が無い。
ダドリーはその日のうちにロードライト家の執事となり、一週間もしないうちに昔から支えていた様な仕事ぶりを発揮し、膨大な仕事量に忙殺されていた侍従長達が泣いて喜んだ。
ウィリアム視点
今日は待ちに待った断罪の日。
内密にだが国王の承認も取れているし、カインや宰相達とも綿密に打ち合わせをしておいたから問題も無い。
「ウィリアム殿下もお人が悪い。この様な楽しい事を隠れて進めていたとは、驚きです」
この計画を実行して直ぐに、突然俺の執務室に来たラリマー宰相が水色の瞳に酷薄な笑みを浮かべ俺を見ていたが、何処で計画が漏れるか分からないからギリギリまで黙っているつもりだったのに、あっさりと今回の計画を見抜いた。
そしてトルマリン侯爵をとっ捕まえてイザベルとの婚約の内諾を毟り取って執務室に戻ると扉の前でラリマー宰相が待っていた。
「万事つつがなく、と言った所ですね」
「ああ、問題はない」
根回しは既に完璧だ。
「私の味方がどれ程優秀か見るのも楽しいだろ」
「本当にお人が悪い」
「今、何も言ってないのに此処にいる者に言われたく無いな」
何も言わないのに俺の計画を察知して俺が動きやすい様に動いているくせして俺だけが腹黒だって言うなよ。
「ですが、殿下のお陰で少々疎ましく思っていた者達の力を削げるのは良い事です」
ラリマー宰相、お前も腹ん中は真っ黒だね。
「じゃあ、当日はよろしく頼むよ」
「ところで、殿下の参謀を務めている御令嬢は当日いらっしゃるのですか?」
御令嬢って言ってる辺りから見て、宰相は既にシルヴィーの存在を知っている様だ。
「彼女は来ないよ」
「はて?参謀であるのに、何故?」
「役職なしだから、と本人が言っていたから」
彼女は本当に賢い。
いくら計画の立案者であっても子供で役職なしだから立場は弱い。自分が居れば今回の計画に難癖をつける者達の格好の餌食になるだろう、と一歩身を引いたんだろう。
もっとも、簡単に餌食になるとは思えないが、一個の断罪に余計な時間は割きたくない。
「情勢を見極める良い目をお持ちだ。剣受式の試験を既に突破しただけの事はありますね」
やたら参謀の時のシルヴィーについて調べている様だが、シルヴィーは何かしたのか?
「ラリマー宰相、彼女が何かしたのか?」
「したといえばしたのでしょう。息子のジェフリーが……」
宰相の息子。ジェフリー・ラリマーは俺と同じ歳で俺の側近候補でもあるから子供の頃から知っている。
銀髪に薄い水色の瞳をした結構ハンサムな奴。
ついでに言えば、ゲームの攻略対象者だった気がする。
ジェフリーも前世の記憶を持っている転生者か?なんて考えていると宰相がため息を吐いた。
「息子が突然、イーリスを手に美しい剣舞を舞ったシルヴィー、と言う令嬢に心を奪われたらしく心此処にあらず、なので」
あーそれ、間違いなくシルヴィーだ。俺も訓練場が見える2階の窓から見ていた。
うん。確かにあの剣舞は綺麗だった。
だけど参謀のシルヴィーとあの剣舞を披露したシルヴィーを同一人物だ、と言うつもりはない。
「その令嬢と私の参謀である彼女がなんの関係がある?」
「ジェフリーの想い人か確かめたいと言う、些細な親心ですよ」
嘘つけ。腹黒いくせして親バカなあんたは、剣舞を踊ったシルヴィーがロードライト伯爵令嬢と同一人物だって判ったら息子と速攻婚約させるつもりだろうが。
「成程。だが、本人が私の事を考え、出ないと言ったのに私が引っ張り出すのはおかしいだろ」
「確かに。いや、私も息子の幸せを願う普通の親である、と言う事ですかな」
確かに息子の想いを叶えたいって考える事はいい事だろうが、シルヴィーは厄介だぞ。
ロードライト伯爵だけでも手強いのにさらにアンバー第一騎士団長もシルヴィーの前に立ち塞がる壁なんだから、ちょっとやそっとの気持ちじゃ無理だぞ。
そんな事を考えながら当日を迎えた。
謁見の間を埋めているのは新アイテムの承認の為の錬成士達や法案審議の役人など大人達ばかり。
シルヴィーは来なくて正解だと小さく息を吐いた。
ウィリアムの黒さが漆黒の輝きを帯びるのも間近ですねー。




