凄い人の周りも凄い人
何故だろうウィリアムがどんどん腹黒さんになって行く。
新しいアイテムの検証に少し時間が掛かったがユーノはカインと大量の嘆願書と共にウィリアムの執務室に来ていた。
「もの凄い量の嘆願書だな」
「今回の検証に協力してくれた勇者や冒険者達全員分です」
「それだけの価値がある、と言う事か」
「はい」
ユーノが少し疲れた顔でカインに目を向ける。
「何か不都合でも?」
「いや、先に謝っておく。カイン殿が街に出たら間違いなく勇者や冒険者に囲まれるだろうから」
「えっ?」
「アイテムが素晴らしすぎて勇者や冒険者達がカイン殿を救世主だと崇めているんだ」
「やめて下さい。アイテムの発案者はシルヴィー様です。僕は……」
「遅くなりました。あれ?カイン、どうしたの?」
ノックの後、遅れて入って来たシルヴィーが青くなって慌てているカインをキョトンとした目で見つめた。
ユーノから街の様子や勇者達の事を聞きシルヴィーは複雑な顔をした。
「ごめんねカイン。錬成士として働いているカインの名前を出した方が勇者さん達も納得し易いだろうって思ってユーノにお願いしたんだけど」
まさか想像の上を行く熱狂ぶりにはシルヴィーも驚いていた。
「いえ、こうなるとシルヴィー様が勇者達に揉みくちゃにされるよりはマシですから」
ごつい男達に揉みくちゃにされるのは、華奢な美少女のシルヴィーより大人の自分の方がいい気がする。
「確かにな。シルヴィーが揉みくちゃにされたら笑い事じゃ無い。俺はアンバー第一騎士団長の青筋立てる姿、見たく無い」
ブルっと震えるウィリアムを3人は頷きながら見た。
エインは優男に見える精鋭の第一騎士団のトップで普段は冷静そのものだが、シルヴィーが絡むと理性が蒸発する。
「アンバー第一騎士団長はシルヴィー様を妹、いえ娘の様に溺愛してますから」
「過保護な親は1人で十分です」
もともとその気はあったが、魅了魔法の事があってから父親のレイモンドはシルヴィーを溺愛し、過保護すぎる程だ。
「明日、紹介する執事が若い男だと知ったらロードライト伯爵はなんと言うでしょうか」
「優秀なら文句は言わないと思いたい」
シルヴィーの言葉にウィリアム達は、はぁーっとため息を吐く。
貴族の婚約は結構早くに決まる事が多いがロードライト家は何故か令息、令嬢の婚約は15歳の成人を迎えてから政略関係の無い家の者と結ばれる事になっていて、嫡男のハロルドは漸く婚約者選びが始まったばかりだ。
シルヴィーも15歳になったら、と言われていたが亡き妻に似て愛らしいだけでなく優秀な彼女をレイモンドは手放したく無いのだろう。
「シルヴィーの結婚相手は私が認め、シルヴィーが望む者でなければ認めない」
と、突然言い出した。
「お父様の過保護も理解できますが、誰を連れて来ても文句を言いそうだし、お父様やエインを説得できる令息が居るとは思えません」
「ロードライト家には王家の威光とやらも効かないしなぁ」
「実力と権力が備わり過ぎてますからね」
軍事顧問なんて軽そうな役職名だが、実際は軍の最高権力者だと言われている。
シルヴィーがその事を知ったのはつい最近で、思わずレイモンドに詰め寄ったくらい驚いた。
「まぁ、私が成人する頃には少しは落ち着いているかもしれませんし、もともと結婚に対してそんなに夢、持ってませんから」
諦めた様な顔のシルヴィーにウィリアム達は複雑な表情でちょっとだけ笑ってみせた。
「さて、うちの事はこれくらいで。で、ウィリアム殿下、首尾はいかがですか?」
硬い話をするのだからウィリアムに敬称を付けて名前を呼ぶとウィリアムはにやっと笑う。
「手抜かりは無いね。一週間後の謁見で旧アイテムの禁止と新アイテムの承認、カインの錬成士長就任とジルコニア伯爵令嬢の婚約を無効に出来る手筈は整った」
再度ニヤリ、と笑うウィリアム殿下の腹は何処まで黒いのだろう。
13歳だと言うのに水面下でこれ程多くの事を根回しできるのだから優秀を通り越して末恐ろしく感じる。
「当日は直接見れませんが、翌日殿下から直接お話を聞ければ問題ないでしょう」
しれっとまるでいってらっしゃい、と言うかの様に手を振ってシルヴィーが笑う。
「なんで来れないんだよ。シルヴィー、君が発端なのに」
「社交界へのデビューもまだの、役職なしの私が謁見の場に居るのはおかしいですよ」
「あっ、忘れてた。俺の軍師ってか、参謀だったから……」
子供らしからぬ行動と言動の所為でシルヴィーの実年齢をすっかり忘れて、ウィリアムは完全にシルヴィーを自分の参謀に任命している気になっていた。
「参謀として見ていただけるだけで頑張った甲斐があります」
言わないが、この2人ならどんな国が攻めて来ても瞬殺するんじゃないのか?とユーノ達は顔を見合わせている。
「ですが、殿下も半月も経っていないのに既に官僚の扱いは慣れた様ですね」
カインが王宮内でのウィリアムの仕事ぶりを話すとユーノとシルヴィーは唖然とした。
「宰相閣下を顎で使うなんて、腹黒い……」
「そこは有能ですね、と」
「えー、ユーノだって腹黒だって思ったくせに」
「否定はしませんが肯定するのは命懸けですよ」
軽口を叩ける程の信頼関係があるからこそ、この場にいる者達は皆、良い笑顔だ。
「腹黒だろうが、有能だろうが俺はイザベルと結婚する為に頑張ってんだよ」
ちょっとむくれた顔をしているが、ウィリアムも彼らとの関係を楽しんでいる。
「そうなると、早めにトルマリン侯爵にイザベルとの婚約を打診した方がいいですね。イザベルの手紙では侯爵様がイザベルの婚約者候補を考えて釣書を揃えているそうです」
昨日届いたイザベルからの手紙にはそう書いてあった。
「なんだって。今からトルマリン侯爵を捕まえて聞き出してくる」
言い終わるより早く、ウィリアムは部屋から飛び出していた。
「はやっ。イザベルは侯爵様に殿下との話なら受けたいって言ってたって……」
伝えるつもりだったのに、とシルヴィーは困った顔をしているが、カイン達は笑いを堪えて震えるだけだった。
「部屋の主人が居なくなってしまったし、用事は済みましたから私はこれで失礼します」
「そうだね。カイン、当日の話、楽しみにしてるね」
「はい。良い報告ができる事を祈っております」
「明日の正午に彼を連れて行きますので、伯爵様にお伝えください」
カインとユーノとはウィリアムの部屋の前で別れ、シルヴィーは馬車に乗り込んだ。
昨日は短かったので、今日はちょっと長めに。




