病院
「じいちゃん、ばあちゃん。」
俺が病院に着くと、父はまだ着いていなかったが、代わりに母方の祖父母の姿があった。
「輝くん…。」
祖母は俺の名前を呼ぶと既に何度も涙を拭ったのか、ぐちゃぐちゃになったハンカチで、嗚咽をあげながら赤く泣き腫れた目元を拭う。
そんな祖母を祖父は支えるように立っているが、よく見ると祖父の眼も赤くなっていた。
二人は俺の姿を確認すると、後ろにあるカーテンの方へ視線を向けた。
恐る恐る近づくと、震える手でゆっくりとそのカーテンを開けた。
カーテンの向こうにはベッドがあり、その上には人型に膨らんだ真っ白い布があった。
俺は頭の方だけ違う小さな布をめくった。
それは間違いなく、つい数時間前に俺のことを送り出した人、母の顔があった。
横たわる母の顔は穏やかだが、少し苦しそうな表情にもみえる。
「…母ちゃん。」
俺は横たわる母の姿を目の当たりにしてもなお、母が死んだということが信じられずにいた。いや、死んだという事実を受け入れることを拒否していたという方が正しい気がする。
俺はまるで眠っているかのような母の頬にそっと触れた。
その頬は、俺の記憶とは対照的に、氷のように冷たくぴくりとも動かなかった。
「今、葬儀屋さんに電話したところだから…」
かすれた声で祖父が言う。
「…うん。」
俺が力ない返事を返すと祖母は再び、嗚咽をあげながら涙を流し始めた。
まだ昼間だというのに、この場所だけは暗く、とても静かだった。