新城という名字
「新城…輝?」
聞きたいこと、気になることはいろいろあるけれど、俺が一番引っかかったのはここだった。
「なんで母ちゃんの旧姓なの?」
俺がそのことに触れると、祖父は少し複雑な表情に変わった。
「…実は私たちは輝くんが誘拐されて初めて、孫がいることを知ったんだ。」
また、理解が遠のいた。
「えっ、どういうこと?」
祖父は重い口を開くとことのあらすじを語り出した。
「輝くんが産まれる前、明子と私たちは…ちょっとしたきっかけがあって、しばらく音信不通になってたんだ。その間心配はしていたけど、まあ…明子ももう良い大人で、その…便りがないのがいい知らせだと思うことにしていたんだ。だけど明子は、音信不通の間に当時交際していた浩一くんとの子、輝くんを一人で産んで育てていたんだ。子供の父親にも、自分の両親にも知らせずに三年間も育児に家事に仕事に頑張っていたなんて…今考えるだけでも申し訳なさで胸がはち切れそうになるよ。」
そういうと、祖父は目頭に生まれた涙を指で拭った。
なぜ、新城という名字なのかはわかった。だけどまだ大きな疑問がある。
「でも、どうして誰にも知らせなかったの。じいちゃんとばあちゃんにはまあ、その時関係がギクシャク?してたからだとしても父さんには知らせても良かったんじゃないの。」
「それはっ…!」
祖母が咄嗟に何かを言おうと顔をあげるも、苦しい表情を浮かべ、再び下を向いた。
祖父は祖母の言葉を受け取り、答えを教えてくれた。
「…すべては赤羽、あの男が壊したんだ。」