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擬態  作者: 杉将
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物事を先延ばしにしている

 夢を見た。ハー、ハー、ハー、と声を出して運転を続ける女のバスの運転手。道に迷ってどんどん知らない場所に向かうバス。そのバスの運転手の娘から心配の声。大丈夫ママ? ハー、ハー、ハー。

 僕は気付くとそのバスの運転手の家にいる。バスの運転手は鍋の段取りを進めているが、一向に作業が進まない。鍋を確認する。冷蔵庫に行く。キッチンで野菜を触る。鍋を確認する。ハー、ハー、ハー。

 帰ります、と言って玄関に行くと、履いてきた靴がない。僕はここにいない友人に電話をする。僕の靴を知らないか? 知らないね。

 

 電車の中で女が電話をしていた。女の声は大きく、誰かの友達が誰かの友達の車に乗ってキャンプに行き、サトルくんのお姉ちゃんが家まで送ってくれた、という話が聞こえてくる。何が面白いのかわからないが女はよく笑った。女には友人がたくさんいるようだった。友人がたくさんいると、気が大きくなって、電車の中でも大きな声で電話をするのかもしれない。一席空けた右隣に男の子が座っていて、何かを熱心に読んでいた。僕が、うるさいか? と聞くと、別に、と声が返ってきた。僕は窓の外を見た。見たいものはなかったが、無意識のうちにそうしていた。ミホは寝坊している、と女の声が聞こえてくる。


 「なんで大学を休学したの?」

 「うまく説明できないんだけど、集中して物事を考えられないんだ。講義を聞いていても、その講義が頭に入ってこない」

 「それはあなたがその講義に興味がないだけじゃないの? そういうのって誰にでもあることだと思うけど」

 「そうかもしれない。けど、なんというか、僕には深刻なことに思えたんだ。意味がないじゃないかって。今は大学に戻ったほうがいい気がしているよ。ずっと講義を聞いていれば、どこかのタイミングで僕は変わるかもしれない」

 「けれど君は、今のところ何もしていない」

 「物事を先延ばしにしている」

 「分かってるじゃない」

 電車を降りて歩きながら、少し前まで好きだった女との会話を思い出した。きっと辺りが静かになったから、こんなことを思い出したのだろう。僕は自分の腿を叩く。足が遅い気がする。

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