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擬態  作者: 杉将
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ナゲット食べていいですか?

 私知らなかったんです、と女が口を開いた。

 「私知らなかったんです。自分が猫背だって。二十三年も生きてきて、今日初めて友達に言われたんです。恐ろしくなりました。同時に怒りも感じました。私は姿勢がいいと思っていたのに、猫背だったんですよ。あんまりじゃないですか? こういう時って、喜ぶべきなんですかね? 猫背だったことを知れてよかった! って。ネガティヴだから、こんなふうに思うんですかね? 今、私、猫背になってないです? あーいやだな」

 女は鞄から薬を取り出して、飲みかけの飲み物でそれを流し込んだ。飲むと落ち着くんです、と女は言った。僕は、薬は水で飲むといいらしい、と言ったが、そんなことは女も知っているだろう。

 高校生の頃、母親が、自分はもうすぐ死ぬ、と何度も言っていたことを思い出した。何の病気で死ぬのか、と僕が聞くと、ちゃんと生きていきなさいよ、と母親は言った。もう何年も会っていないが、母親はまだ生きている。

 こんなことを思い出したのは、片親なんていう言葉を口にしたからかもしれなかった。僕はコーラを少し飲み、机にそれを戻し、また手に取って、少し飲んで、机に戻した。僕は女の方を見た。向こうもこちらを見ていた。

 何かを知るということは、何かを知らないことも明るみになる、もっともっとってなる、と僕は言った。こんなことを言うと、本当にそんな気がしてきて、何か損をしている気分になった。できるだけ損になるようなことはしたくない。

 僕が発言を後悔していると、ネガティヴなんですね、と女は言って、笑った。女はネガティヴという言葉が好きなのだと思った。単純な話。

 女が、ナゲット食べていいですか? と言った。僕達は会ったばかりのはずだった。名前も知らなかった。しかし、こんなことを思うべきのは女のほうだろう。

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