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擬態  作者: 杉将
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それは女の飲みかけだった。

 女の顔は曇ったままだった。僕は、人を安心させるにはどうすればいいのかを考えた。その答えを出すには、自分がどうされたいか考えればいいと思った。僕は人だった。

 片親なんです、と僕は言った。言った後で、この発言は安心させるというより、同情を買おうとしているのではないかと思った。

 僕が言葉を続けようとすると、何かの企画ですか? と女が聞いてきた。何かの企画ならこの女は安心するだろうか?

 そうなんです、と僕は答えた。それから女の目を見た。

 これは僕が僕自身のために考えた企画なんです。人生に対してもっと無責任になってみようという試みで、あ、もちろん法に触れない範囲でということですが。色々考えすぎて行動できなくなることってないですか? 例えば今のこの状況。もし僕が話し掛けたらあなたは迷惑に思うかもしれない、あなたの人生は充実しているから僕が入る隙間はないだろう、とか。僕はこういう考えから一旦離れて、自分の思うままにやってみようと思ったんです。それが正解か不正確、続けていいのか、やめたほうがいいのか、その判断はやってみた後で自分で下そうと。すみません、こんなことを矢継ぎ早に言って、気持ち悪いですよね。昔、友人に言われたことがあるんです。お前酔ったら語りだすよな、って。その時、自分の中の哲学的な部分は、あ、哲学が何かはよく分かってないんですが、哲学的な部分は人に言わないほうがいいと思ったんです。何の話をしているんでしょう。女の子にする話じゃないですよね。女の子は旅行の話とか、映画の話とか、食べ物の話とか、オシャレの話とか、お笑い芸人の話とか、ゴジップの話とか、ね、そういう話が好きですもんね。いや、決めつけはよくないですね、もしかしたら、おばけの話が好きかもしれない。

 僕はこんな話をしたいわけではなかった。話をしながら、もうこんなことを言うのはやめたいと思っていた。しかし本当は、たくさん喋ったからスッキリしただけかもしれなかった。喉が渇いたと思い、目の前にあった飲み物を飲もうとしたが、それは女の飲みかけだった。手を引っ込めて、どうしてソファと机の隙間がこれだけしか空いていないのだろうと思っていると、僕が頼んだ商品が運ばれてきた。男の店員は、僕が悪者だとでもいうように、罪状を読み上げるように、商品の名前を読み上げ去っていった。僕は女に、食べませんか? と聞いた。商品を頼み過ぎていた。自分の腕の毛を見て、人を安心させるためには腕の毛がない方がいいだろうと思った。


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