窓の外を見るべきだった。
パトカーに乗るか、乗用車に乗るか、どちらか選んでいいと若い警官に言われた。どちらに乗っても警察署に行くことに変わりはなかったけれど、パトカーに乗るとなんだか大袈裟だと思い、乗用車を選んだ。僕はできるだけ笑顔で車に乗り込んだが、そうしたのは、なんの心配もいらないと周りに示すためだった。だが、本当になんの心配もいらないのだろうか? その疑問が頭に浮かぶと、嫌な汗をかいた。
肩に力が入っていると思い、背もたれに身を預けた。それから両手を膝の上で組むと、手錠を掛けられているような形になった。僕がこんなことをいちいち意識するのは、警察署に向かって車が動き出したからに違いなかった。もしもしばらく家に帰ることができなければ、猫が死んでしまうと思ったが、僕は猫を飼っていないから、そんなことを気にする必要はなかった。
柴犬、ミニチュアダックスフント、ポメラニアン、チワワ、トイプードル、コーギー、ラブラドールレトリバー、ブルドック、ドーベルマン、パグ、ジャックラッセルテリア、犬の名前。頭がジリジリと痛む。僕は車に酔ったのかもしれない。しかし、本やスマートフォンを見ていたわけでもないのに、車に酔うのだろうか? 酔った時は遠くの景色を見るべきだと思い、窓の外に目をやった。歌の練習をしなければならないと思ったが、僕は歌手じゃないから、歌の練習をする必要はなかった。窓から目を外している自分に気付き、自分は酔っているのだから窓の外を見るべきだと思いなおして、窓の外を見た。雨はまだまだ止みそうになかった。