醒め
目が覚めたとき、隣には女がいた。昨日知り合ったばかりの女。茶色い髪が顔にかかっていて顔がよく見えなかったが、別に顔を見たいと思わなかったから、何もしなかった。眠っているようだった。
僕は肘をついて、身体を少し起こした。ここが女の家で、自分は裸で、裸でベッドの中にいることは悪くない気分だと思った。自分のベッドだと裸でいることを躊躇してしまうから、今のうちにこの感覚を味わっておくべきだったが、何気なく嗅いだ指からは酷い臭いがして、もうその指を洗わないことには何も考えられなくなった。せめて、背中からこの臭いがしてくれたらと思ったが、そんなことを思っても指は臭いままだった。
女を起こさないように注意しながら、ベッドから抜け出た。裸のままキッチンに行き、流しで指を洗った。指を嗅ぐと石鹸の匂いがして、それは僕の気分をよくさせた。しかし、僕は次に何をするべきなのかがわからなくなった。僕は自分の頭を何度か叩いた。水を飲んでも、喉が潤った後はどうする? 腹を満たしても、腹が満たされた後はどうする? 服を着ても、服を着た後はどうする? 僕は、頭がジリジリと痺れるのを感じた。
ベッドに戻り、寝ている女の二の腕を何度か叩いた。僕はそんなことをしながら、女が機嫌よく起きてくれればいいと思っていた。女は何か言ったが、僕にはよく聞こえなかった。
なぁ起きろよ、これからさ、外に出て、カフェにでも入って朝食を食べよう、それから映画館に行ってさ、キャラメル味のポップコーンと塩味のポップコーンを一つづつ買って、シェアして食べよう。映画を見終わったら、ファストフードでポテトでも食べてさ、それから夜の街を散歩しよう。できれば海辺がいいけれど、ここら辺に海辺はなかったよな? 歩いたらお腹が減ってくるだろうから、適当に見つけた店に入って、腹を満たそう、それからまたここに帰ってこよう。
僕は少し前までそんな計画を考えてもいなかったはずだが、口にしてみると、それはとても充実した一日に思えた。女が何も言わないので、二の腕に触れようとすると、ごめん今日は予定がある、と女は言った。僕は、行くな、と言った。行くな、と言ったということは、僕は女に行ってほしくないのだろう。早く起きてくれよ、と僕は言った。女は布団をかぶって、僕という嵐が去っていくのを待っているようだった。僕は少し考えた。自分はこれから何がしたいのかを。少し冷静になるべきだ、とも思った。
こんなことをしても何の意味もないと思いながら、拳を振り下ろした。布団の下にある女の体を感じた。僕は自分の頭がどんどん醒めていき、何も考えなくなっていくのを感じた。
女が泣き、ゴホッ、ゴホッ、と咳き込んでいる。僕は何回拳を振り下ろしたかわからない。気づくと、僕も泣いていた。女がこんな状態では、もう出掛けることは叶わないはずだった。僕は最後にもう一度拳を振り下ろして、それから服を着て、女の家を出た。
ドアを出ると人だかりができていて、何事かと思っていると、警察がこちらに向かって走ってきた。
今まで何を? 近所の方から女性の叫び声が聞こえると通報がありまして、と若い警官は言った。
今日は雨だったんですね、と僕は言った。