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第二章 回り出した歯車― 綾子編―

大森林の中には西国と東国の中継地点としていくつかの町があった。一行はその一つ、北西にある町ヌプカへ向かう。道中綾子は友美について考えていた。


到の言うとおり、彼女は何かある。

友美は金髪蒼眼だ。自分や到は黒髪黒眼、真由美は茶髪に茶眼。それ以外の髪や瞳の色をした人間を、綾子は見たことも聞いたこともなかった。妖精は司る属性によって髪や瞳の色が違うらしいが、彼女は人間だ。突然変異か何かだろうか。

大体到がその容姿にさして驚いてなかったのも変だ。彼は当然のようにそれを受け入れていた。


彼女は何者なのだろう。確かに名前も年も聞いたが、家はどこなのか、家族はどうしているのか、なぜあんなところにいたのかと尋ねても「んーーー、何でだったかなぁ??」という返事が返ってくるばかりだ。

もしや記憶喪失…?だとしたらとんでもない子を拾ってしまった。これからどうしたものだろう…。めんどくさいことは嫌いなのに、なぜかどんどん巻き込まれていってる気がする。


そうこうしているうちに町に着いた。土地の開けている西国ほどではないが、この町はなかなか大きい方だ。綾子も何度か来たことがあるが、スーパーや宿屋は勿論、武器屋や図書館まである。

ずっと歩き詰めだったし、夕べは野宿だったのだ。まだ正午で陽は高いが、今日はここでのんびりしよう。

「じゃあとりあえず宿取るか」


町へ入りホテルへ。フロントの中年女性に部屋の有無を確認する。すると女性は綾子の後ろの真由美を見て目を丸くした。


「真由美ちゃん?!真由美ちゃんでしょ?!」

「え…そうですけど、あの…」

真由美自身は女性に覚えがないようで、怪訝そうな顔で答える。

「やっぱり。若い頃のお母さんそっくりだもの」

「!母を知ってるんですか?」

「あら、真由美ちゃんは小さかったから覚えてないかしら。よく飛竜に乗って、両親と博君と遊びに来てたのよ。博君は二、三年前に『医療都市に行く途中なんだ』ってここへ来たけど、あれから具合の方はどうなの?」


(医療都市?)

というと、西国の要となる五大都市の一つである。五大都市は王都のある物質都市を中心に成り立っている。

物質都市では城下町なだけあって物の流通が目覚ましく、衣類、家具、家電、雑貨、食料、武器などなどそこで買えない物はないと言われるほど。


そして東にはテレビ局や芸能プロダクション、雑誌社、新聞社、国立図書館などで有名な情報都市がある。そこには綾子の実家もある。


南は武術都市。古くから武芸に関する奥義書や記録が残る地で、各種様々な武芸の道場に加え、武術大学や国立武道館がある。武闘家を目指す者の聖地だ。因みに綾子の母は別居後そこに住んでいるらしい。


北は学術都市。武術都市とは対照に、古くから科学技術に長けていた地で、太古の科学兵器や研究所が今もなお残されている。ただし、何のためにどういった研究をしていたのか、科学兵器に使われていたエネルギーは何なのかなど、未だ解明されていない謎が多い。

現在は大陸で唯一飛び級制の国立野薔薇大学院がある。本人から聞いた話によると、到はそこの理工学部を十四歳で卒業したらしい。小学校を卒業後通学していない綾子とは偉い違いだ。大体そんなに急いで卒業して何が楽しいのかと思う。


最後に西の医療都市。ここも古くから医療が発達してきた地で、国立総合病院や介護センター、老人ホーム、それに西国でも数少ない動物病院がある。だが、旅の途中で立ち寄るような場所ではない。

「なに、兄ちゃん体悪いの?」

「ちょっと、心臓がね。昔から入退院を繰り返してるの。病院寄って薬もらうつもりだったんじゃないかな?」

「…っておい!旅してるどころじゃなくね?!」

心臓が悪いのに魔物調査に行くなんて。無茶苦茶やる奴だ。


「男というのは、たとえその身が危険にさらされても探求心には勝てないものだ…って、昔誰かが言ってましたっけね」

到が本能だからしょうがないと慰める。が、本人を知る女性と真由美からは心配する様子が微塵も感じられなかった。

「博君なら大丈夫よ。断言出来るわ。彼の強運があれば」

「あの悪運は驚異的だもんね…。殺されても死ななさそうな感じだし」

(どんな人間だよ…)

だんだん会うのが怖くなってきたのは気のせいだろうか。


「部屋は301号室と302号室よ」

女性から鍵を受け取り、部屋に荷物を置きに行く。

「じゃあ当面の目的は医療都市だな。とりあえず今日は解散して自由行動ってことで」

「異論ありません。それでは僕は図書館にでも行ってますね。ルシフェルも来ます?」

「冗談言うな。前もおまえと来たことあるけど、六時間も缶詰めだったんだぞ」


ルシフェルはあからさまに嫌そうな態度を取った。確かに図書館に六時間もなんて、よっぽどの本好きでないと耐えられない。綾子も特に本好きではないので、到に付き合わされたルシフェルが哀れに思えた。第一、妖精にとって体よりも大きい本をどうやって読めというのか。それはある意味ルシフェルに対するイジメではないか。

「…それは到が悪いな」

「すみません。あの時は最新の小説が出ていたのでつい。でもやっぱり国立図書館にはかないませんね。学生時代も学者になった今も利用しているんですが、一生かかっても読み切れないほどの蔵書数ですからね。退屈しませんよ」

「退屈しないのはおまえくらいだろ。学者のためにあるような場所だったからな」

一般の蔵書はもとより、ありとあらゆる古文書と文献が保管されている。だが歴史的文化財のその書物は学者以外には公開されないのだ。

まぁ、たとえ一般公開されたとして興味のない綾子が読むことはないだろうが。


「私は予備の剣を買おうかなと思ってるんだけど…。真由美はどうする?もし用がなかったら、悪いんだけど、食料とかの買い出し頼めない?」

「うん、いいよ。特に何もないし」

「友も行くーー!!」


真由美一人に頼むつもりだったのだが、友美がせがみだす。それに便乗してリーナや、普段わがままを言わないルシフェルまでだだをこねた。

「私も行きたーい。部屋で留守番なんて嫌だからね!」

「頼むよ真由美。おとなしくしてるからさ」

真由美も初めは渋っていたが、二人を気の毒に思ったのか観念した。「しょうがないなぁ。わかったよ」

「やったぁ!」

手放しで喜ぶリーナだが、おとなしくしろと言って出来る性格じゃない。

「リーナ、迷惑かけんじゃねぇぞ」

「子供扱いしないでよ。あたし綾子と同い年なんだからね!」

言うだけのことが出来ればいいんだが。


「それでは真由美さん、ルシフェルを頼みますね」

「うん、任して」

こうして綾子と到、真由美達は別行動を取ることになった。


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