第一章 それぞれの旅立ち ―ルシフェル編―
導士としての最初の役目を果たす。それは、ローグの解放。
「今から千年以上も昔のことだよ。地球に空からの落下物があったのは」
ルシフェルは少しずつ説明を始めた。
それは真珠のように丸く、ダイヤのように光り輝く玉だった。
当時の国王がその〈光玉〉の研究を学者に命じる。ところが彼らは研究機関に玉を持ち帰ることが出来なかった。
触れようとした瞬間、玉から溢れ出た光と共に吹き飛ばされてしまうのだ。まるで玉が拒むかのように。
その後、何人もの人間が持ち帰ろうと挑戦するが、結果は同じことだった。
けれども数年後、人々は神の存在を見ることになる。
ある時玉の前で、一人の青年と双子の幼子が出逢う。その三人は、なぜか皆玉に触れることが出来た。青年は学者だったこともあり、早速光玉の研究に取りかかった。
研究により解ったこと。それは玉に含まれる莫大なエネルギーの存在だった。そのエネルギーは莫大故にコントロールが難しく、ほんの一握りの特殊な人間にしか使いこなせなかった。また、人によってエネルギーの具現の方向性も違っていた。
青年ノエルは結界を張ることと、異界の幻獣を召喚する力。双子の兄ラファエルは生命の創造と封印。弟ミカエルは物質の創造と変化能力。
国王は痩せた土地や雨の降らない地域を悩みの種としていた。それを聞いたノエルは、自分達の力で自然を守るための存在を創る案を出した。王も賛成だった。
かくしてラファエルが〈風・炎・雷・地・水・光・闇〉の七天使を創ることに成功。ミカエルが西の島に玉を祀る塔と天使の住むための神殿を造る。そしてノエルが、悪しき者が立ち入らないように島全体に結界を張った。その活躍あって、彼らはいつしか人々から神と呼ばれるようになった。
各天使で最も魔力の高い者がそれぞれの長を務め、天界と呼ばれるその島は統一されていた。三人は彼らと玉を守りながらそこで暮らした。
だが異変が起きた。
大陸の西端から魔物が現れ始めたのだ。初めは光玉の魔力の影響で、一時的なものだと思われていた。けれども魔物の勢力は衰えず、むしろ異常なまでに凶悪になっていった。
そんな折、光天使の長シェルが気付く。
〈闇天使ヴァイスの様子がおかしい〉
だが時既に遅く、もはや彼は彼ではなかった。
彼は自らの持つ強大な闇の力に呑み込まれたのだ。闇より生まれし邪念クロウは、ヴァイスの体を乗っ取り意識を奪った。そして闇より呼び出した魔物を使って世界征服に乗り出した。
神ラファエルはクロウを倒すことは困難だと悟っていた。彼はあまりに強大な存在で、自分には千年の封印が精一杯だと。
それでもまだ希望はあった。千年の後、彼の封印が解けた直後なら、完全な力は戻っていないはず…。その時に我々がもう一度力を結集させればあるいは…。
戦いの後、ラファエルは闇天使と光天使を人に造り替えた。二度と闇の力に呑み込まれる闇天使が現れないように。そして、対照の力を持つ光天使が、闇天使亡き後バランスを崩してしまわないように。
ただ一人、人になることを拒んだシェルだけを除いて。
「私は最後までこの戦いを見届けたいのです。だから…私の魂を封印して下さい」
光天使の長が持つ宝具にフューカと呼ばれるものがある。黄金の台座の中央に赤い宝玉がはめられたものだ。
神はその宝具に彼女の魂を封じた。来たるべきその日に、彼女の意志を継ぐ者が眠りを解きに現れることを祈って。
しかしラファエルはクロウの封印、闇と光天使の人への造り替え、シェルの魂の封印、それらに己の精神力と玉のエネルギーを使い果たしてしまった。
ラファエルの命は尽き、玉は十二に砕けた。それは世界に歪みを招き、天界の四分の一は天上へと浮上した。
惑星を変えてしまった砕けた光玉を、人はいつしか〈星のカケラ〉と呼ぶようになる。
地上の守りについていたノエルは浮上した天界に帰ることが出来ず、地上で人として暮らした。ラファエルと共に戦ったミカエルだけが一人天界に残り、今も神としてその地を守っている。
人が千年生きるということは通常考えられないが、天界に残った星のカケラの影響を受けたのだろう。
ルシフェルは一通り語った後、到の方を伺った。
「なるほど…あの科学兵器はやはりその時の…。ですがそんな歴史があったなんて…」
到は納得と驚愕の、二つの心境を言葉にした。
神ラファエルは死ぬ前に、この歴史を人々の中に残すことに反対していた。千年の後、確実に現れるであろうクロウや魔物の影に怯えて生きる、そんな生活を送らせたくはないと。だからその真実を人々から全て隠し、天使である自分達に全てを託したのだ。
「それって…お兄ちゃんはシェルって人を目覚めさせる人間で、その人と一緒にクロウを倒さなきゃいけないってこと…?なんで、そんな…」
真由美は真っ青な顔で呟く。捜している兄がそんな数奇な運命に巻き込まれていると知れば、無理もないだろう。
「…とにかく兄ちゃんを捜さなきゃだな。真由美、辛いかもしれないけど、まだ何も始まってないよ」
「僕も、ここまで聞いてしまったら他人事じゃないですしね。お供しますよ」
綾子と到が口々に言った。ただリーナだけはずっと黙りこくっていた。その沈黙の中で彼女は何を思っているのか。その真意は図りかねたが、今更何を思おうと自分達の進む道は一つしかない。
長い旅が始まる。星の存続をかけた、戦いの旅が。