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第一章 それぞれの旅立ち ―到編―

到は半ば無理矢理彼女たちを自宅に招いた。家は先ほど居たところから数十メートルと離れていなかった。だから、森の中で話をするよりその方がいいと思ったのだ。


初めは彼女達と長話するつもりなどなかった。ただ新しい情報が有ればと思っただけで、それも大して期待していたわけではなかった。


だが状況は一変した。真由美という少女の父が、考古学の権威義信博士だと判ったから。


到は妹の裕美にコーヒーを用意させ、テーブルを挟み彼女達と向かい合わせに椅子に座った。


「あなたのお父様は大変有名な方でしてね。いくつもの価値ある論文を発表しています。おそらく学者の中で知らない人はいないでしょう」

到はコーヒーを一口飲んで言った。

「ええ!?そんなすごい人だったの!?」

娘の真由美はぎょっとしていた。

「学者の論文は国家機密ですから、政府公認の者しか知ることは出来ない…。娘のあなたが知らなくても無理はありませんよ」

それでも真由美はまだ信じられないという顔をしていた。

「あんたは政府公認なのか?」

「学者同士の情報交換のためにね。それで、あなた方を家に招いたのは、今論争を起こしている義信博士の〈消された歴史の真実〉という論文についてお聞きしたかったからなんです。何かご存知ないですか?」


真由美はもちろんだが、妖精二人の目付きが変わったのを到は見逃さなかった。

「やっぱりあの話って、今回の魔物騒動と関係が…?」

真由美もそれについては薄々感じていたようだ。だが綾子という少女は、話が見えない、きちんと説明しろと言った。


「…この世界で、あるべきはずのものがないんです。なんだか解りますか?」

彼女は少し考え込んだが、すぐに首を振った。


「歴史ですよ。今から千年前の記録が、何一つ残っていないんです。西国に古くからある科学兵器は、いつ誰が何のために造ったのか、正確なことは何も解っていません。それどころかそれらの動力となるエネルギーも不明でした。故に僕達科学者は、過去とは違った科学技術を発達させて今まで魔物に対抗してきたわけです。二年前に学者達の研究で疑似エネルギーを造ることに成功するまで。それでもまだ完全に一致はしていません。何かが違うのです」

妖精二人は相変わらず黙ったままだった。それはやはり真実を知っているからなのか。


「技術自体は千五十年前までは特に発達していなかったようです。人々の生活も、王族や貴族が治め商人が暮らしを支えていたとか。しかし歴史はそこでぷっつりと途絶えます。史学者が遡ることが出来たのは、今からたった二百年前まで。ある学者は言いました。単なる偶然とは思えない。意図的に歴史を消されたのだと」

到は一息ついてまたコーヒーをすする。


「それが消された歴史ってワケか…。で、何が魔物と関係あるんだ?」

綾子も難しい顔をした。

「実は義信博士が八年前に、消された歴史の記録が残る遺跡を発見したのです」


その遺跡はおよそ人が登ることの出来ない険しい山の中にあった。彼が飛竜を飼っていなければ見つかることはなかっただろう。

飛竜とは、歴史が消される遥か昔から存在していた生物だ。近年では絶滅したと言われていたが、義信博士がある谷で卵を見つけ、大学の研究チームで孵化させて育てたのだ。記録を取り生態調査をした後彼が引き取ったらしい。


「遺跡の中には一冊の古文書があったそうです。そこには〈神〉と〈天使〉、そして七人の人間が〈魔物〉とそれを操る〈悪魔〉を封じた、とそう記されていたそうです」

「魔物と悪魔…?そいつらが、千年前にも居たって?」

綾子は眉をひそめた。確かににわかに信じられる話ではない。けれど現実に魔物は存在する。


「もしその当時に魔物が居たのだとしたら、西国にある科学兵器もその対策のためだったのかもしれません。そして〈悪魔〉を封印し〈魔物〉が現れなくなったことで、兵器が不必要になり、動力を残さなかったのかも…」

リーナは絶句していた。そんなことまで知っているのかと、目がそういっていた。そんな彼女とは対照的に、ルシフェルは冷静な顔で自分の話を聞いている。


「神についてはわかりませんが、天使とは義信博士の言うように妖精のことではないでしょうか。古文書にも〈風・炎・雷・地・水・光・闇の七つの属性天使がいた〉と書かれていたそうですし。そして七人の人間、魔物。悪魔とは堕天使辺りでしょう」

「なんか神話みてぇだな」

「ええ。この論文が発表されたのはまだほとんど魔物がいなかった頃ですので、学者の間でも余計にそう言われたみたいですよ。けれどこんな状況になってしまったので、さすがにその論文を軽視出来ないという声が挙がってきてましてね。本人と連絡を取ろうにも、僕みたいな研究者ならともかく、彼のように調査が仕事の学者は専ら放浪の旅に出ていて捕まらないんですよ。お父様から他に何か聞いていないですか?」


博士の娘である真由美はどう思っているのだろう。話を振ると彼女は思いもかけないことを言った。

「うん…。私もその話本当だと思う。その古文書見たこと有るんだけど、七人の人間と天使の使っていた武器や宝具のイラストが載っていたの。それで、その中の一つのフューカって首飾りが代々うちに伝わってるものと同じで…」

「なんですって!?」

真由美が静かに語り出すと、リーナが真っ先に声を荒げた。自分もまさかそんな物が存在するとは思っていなかった。


「お父さんが飛竜に乗っていろんな土地を探索してたとき、御守り代わりにつけてたフューカの赤い宝玉が突然光り出して、一本の光の筋が現れたんだって。それでその方角に行ったらその遺跡が…。お父さんは研究機関にフューカを没収されたくなくて黙ってたみたいだけど…。偶然にしてはちょっと…」

「…うそ…。ちょっと待って、それホントに?」

リーナは明らかに動揺していた。

「え、うん…。今はお兄ちゃんが旅に出るときに持って行って、無いけど…」


「…やっぱ知ってたか」

今まで一言も口をきかなかったルシフェルが、ようやく口を開いた。

「そうだよ。ほとんど到が言った通りだよ」


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