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第七章 決戦③

一方。博と真由美兄妹と組んで左手の道を進むことになった幸広は、みゆりと到の不満とは裏腹に、メンバーに彼らがいなくて良かったとほっとしていた。

幸広自身は攻撃も出来るが、これだけ魔物の出没が激しくなってくると、おそらく味方の回復や防御に専念することになるだろう。それも戦闘では欠かせない役割だし、今のところラファエルと自分しか出来ないことなので、引け目を感じているつもりはないが、それでも自分より年下の少女である綾子やみゆりを切り込み役にさせて、自分は陰から援護するというのはやはり気が引ける。

魔法系の味方ならまだ間接攻撃が可能なので少しは気にしないで済むだろうが、導士二人はまだ会って間もないし連携攻撃が図りにくい。かといって到と一緒だと質問攻めにあって、クロウと戦う前に精神的疲労が溜まるだろう。別段答えたくない事情があるわけではないが、消された歴史は一言で語れるようなものじゃない。それこそ一々まともに答えていたら明日の朝になってしまう。自分だって史書を読破し完璧に理解するまで何ヶ月かかったことか。

当然ラファエルと同じチームになるなんて論外だ。自分はラファエルの知らない情報まで握っているわけで、そのことで彼から警戒されている。そういう相手と組んで上手く戦えるとは思えない。

(大体、何で私が睨まれなきゃならないんだ)

確かに睨まれる要因はある。史書を持っているから。彼の知らないことを知っているから。だが史書を書いて残したのは自分じゃない。またそれが前世の自分だったとしても同じことだ。幸広のせいではない。

(まぁ勘ぐりたくなる気持ちもわかるが。史書の件がある上に、魔石まで持っていれば)

魔石を含めた魔力の源は千年前地上から一掃した。それは戦乱が起こった事実を隠蔽したかったためと、クロウを魔石のある場所に封印してしまえば、復活時に力の戻り具合が早まることを恐れたためである。

だからラファエルがクロウをクリスタルタワーに封印した後、地上に残った天界の一部にミカエルが廃墟を造り、そこにネサラの協力の下、クロウを封印したまま時空転移させた。

だが、自分は地上にないはずの魔石をどこからか手に入れている。とくれば、警戒されて当然と言える。しかしそれすらも自分から手に入れたわけではない。

元はといえば、今自分の一歩先を鼻歌混じりに歩いているこの男のせいである。

頭痛を感じこめかみを揉みほぐしていると、彼はふと鼻歌をやめた。

「ま〜た頭痛かぁ?ゆっきー。心配性も度が過ぎるとハゲるぞ」

博は振り向きもせずに言ったが、幸広はさして驚かなかった。彼には目には見えない色々なものが見える。それは超能力というより野生の勘や動物的本能に近い。ともすれば、彼の場合後ろに目があってもおかしくない。

「…誰のせいだと思ってるんだ」

「まぁそーゆーなって。しょーがないじゃん。あれは俺が持ってても無価値だしぃ。それにこっちにはこっちの都合ってものがさぁ」

「『迷路を作る』とかいうやつか?上手くいってるんだろうな?」

「さ〜あね〜?上手くいってるんじゃない?」

まるで他人事のような博のセリフにカチンと来た。

「ふざけてるのか!?」

「いやいやいや。そんなつもりないんだけどさ〜。つーか幸広目がマジこえーんだけど」

「ふざけてないならどういうつもりだ!」

「だってホントにわかんねーんだもんよー。俺が一人で作ってるわけじゃねーしさぁ。そんなに知りたきゃあの人捜して聞きゃいーじゃんか」

幸広は言葉に詰まった。確かに彼のいう通りだ。迷路の大部分を作っているのは博じゃなく、あの人だ。しかしあの人を捜すのは至難の業。それは博が一番わかっていた。

「まぁ、何とかなるんじゃないの。幸広も約束守ってくれたわけだし。ホント、感謝してるよ」

「…おまえのためじゃない」

「別に誰のためでもいいさ。要は俺の望みを叶えてくれたことが大事なんだから」

精一杯の反抗をしてみたつもりが軽くあしらわれてしまった。なんだか自分がすごく子どもに思えて悔しい。

「ねぇ、二人ともさっきから何喋ってんの?」

二人より五、六歩先を進んでいた真由美がこちらをみて尋ねた。

「やだ真由美ったら、男同士の大事な話に割って入るなんてセクハラよー」

「はぁ?!バカじゃないの!?」

「…博さんて変わった方ですね」

シェルも苦笑している。よくもまぁそんなふざけたセリフが出てくるものだと感心する。けれどそれが彼の強みでもある。

「………!」

突然ピタリと博が立ち止まった。そして青い顔をしながら

「やべぇ…ゆっきー超やべぇよ!俺見えちゃった!あれ絶対ドラゴンだってーー!!」

「はぁ?どこにいんのよそんなモン…」

真由美が博の騒ぎっぷりにうんざりしながら言った時、グルルッと喉を鳴らす音が聞こえてきた。

「………まさか」

恐る恐る前方に視線を戻す真由美。果たしてそこにいたモノは。

「グアァオーーッッ」

雄叫びを上げるドラゴンゾンビだった。

「ぎゃああーーっっ」

眼前に現れたドラゴンゾンビに真っ先に阿鼻叫喚する博。

「俺はもうダメだー死ぬっ死ぬーー!!」

「俺は死なないって言ったのはどこの誰よ!」

真由美は魔物に対する恐怖よりも先に兄の情けなさがたった。

「こーろーさーれーるー!!!」

「ダメだ、錯乱してる。こうなったら二人で戦うしか…」

「嫌だーっ。死にたくねぇよっ。まだ世界のドラえもんグッズ全部集めてねーのに!」

「………戦わなくていいからせめて黙ってろ」

(……全く、どうしてアイツは肝心な時にこうなんだ)

聖戦士と一口に言っても強さにはバラつきがある。みゆりや到、自分達年少組は他の4人の足下にも及ばない。彼らは王都の四牙と呼ばれるほどの実力者で、王直々に魔物退治等の依頼を受けることもある。その中でも心臓が悪く長期戦が不利だというハンデを除けば、博の強さはダントツだ。今までの戦闘でも彼は全く本気を出していない。敵の強さを瞬時に見抜き『このくらいの力で戦えば倒せる』と相手のレベルに合わせて戦っているからだ。勿論クロウに一矢報いた時でさえも。

侮れない男だ。普段バカなふりをして、実は誰よりも強く誰よりも賢い。ある意味ではノエルよりも。思えば彼と初めてあった九歳の時から。

ただし、竜嫌いはふりではないらしい。

ドラゴンゾンビがその大きな前足で三人を踏み潰そうとしてくる。真由美は光魔法を唱えてドラゴンの足を傷つけるが、倒すには躰全体を消滅させなければならない。

ドラゴンゾンビが吐いてくる炎を、バリアを張り必死で防御する幸広。だが一度張ればずっと有効なノエルの結界と違い、精神力を放出している間だけ攻撃を抑えられるものなので、気を抜いたり精神力が尽きてしまえば一環の終わりだ。

その間も真由美が必死で魔法を連発しているが、なかなか大打撃を与えられない。ドラゴンゾンビは構わず二発、三発と炎を吐き散らし近づいてくる。幸広ももう限界だった。

「く…っ!」

その時だった。

「うわあーーっ!こっちくんなーーっ!!」

博が叫びながら剣を抜き、滅茶苦茶に振り回す。

「ちょっと危な…っ」

真由美が言いかけると、博が振り回した剣から真空波が生まれ、ドラゴンゾンビの吐いた炎を切り裂き、無数の刃がその躰にまで到達する。そして後には骸だけがのこった。

「……はぁ〜〜、死ぬかと思った」

正気に戻る博に幸広はまた怒鳴った。

「こっちのセリフだ馬鹿者!あんなことが出来るならもっと早くやれ!」

「戦わなくていいって言ったのゆっきーじゃん。それにゆっきーは一回は死なないことになってんだし。あ、でもオレがいないと勝てないか」

『オレがいないと勝てない』という物言いに腹が立ったが、事実なので反論できない。

「でも、幸広が同じ聖戦士で良かったよ」

博がにっと笑った。そう言われるのは悪い気はしない。

「なんだ、いきなり」

「だってイジメ甲斐があるし」

幸広はびきっと額に青筋を立てて

「やっぱいっぺん死んでこい!!」

とキレるのだった。


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