第六章 想いを胸に ―綾子編―
綾子が祠の中に入ると、突如現れた魔方陣により強制転移させられた。着いた先は城の広間のような場所だった。みゆりと博がいない所を見ると、彼らはまた別の場所に飛ばされたのだろう。
「よく来たな」
声と同時に現れたのは、二十歳前後の娘だった。
「おまえがさっきの…?」
「そうだ。私はこの祠を訪れる者に試練を授ける役割を持つ。ここは異次元空間だ。剣の真髄を悟らなければ、ここから出ることは叶わん」
鉄製の胸当てと緑のマントを付けた娘はあまり強そうには見えなかった。けれど人ではないその存在が、綾子に畏怖心を覚えさせた。
「…私自らが相手をしてやりたいところだが…フム。どうやらそういうわけにもいかないようだ」
彼女は何かに気付いたらしく、視線だけを横にやった。
「そういうわけで悪いが、代わりにこれを置いていく」
そう言ってスライムを召喚する。
「それを倒したらここから出られる。私はもう行く。後は自分でなんとかしろ」
あっさりと消える娘。
「ちっ…。なめやがって。これがなんだってんだ」
綾子はスライムに真上から剣を突き刺した。しかし剣を抜くとあら不思議、スライムの傷口がくっつき再生した。
「げっ!?」
これまで様々な魔物と戦ってきた綾子も、これには当惑した。今までなら剣の効かない魔物には弓で影縫いをし、動きを止めている間に逃げるか、リーナの風魔法に頼っていた。だが今回はそのどちらも使えない。
(やっぱ、魔法みたいに気を使った攻撃じゃないと無理だろ…)
とはいえ、これを試練として出してきたからには何か方法があるのだろう。
(剣で魔法攻撃…。あ、もしかして…)
途方に暮れていた綾子の頭によぎったのは父の教え。
『剣はただ斬るためだけにあらず。全てを断つための器に過ぎぬ。その器に何を乗せるかはおまえ次第だ』
綾子はキッと敵を見据え、剣に意識を集中させた。
そして。
流れるように十字に空を斬る。交錯した白い光がスライムを消滅させた。
「出来た…」
思いついたのは、父の教えと母から受け継いだペンダントのおかげ。
(やっぱりまだまだ敵わないな)
苦笑したとき、既に身体は祠の外だった。みゆりと博も立っている。
「綾様!お帰りなさい!」
「ああ。博も終わってたんだな」
声をかけるが、何故か博は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。
「…なんだ、ここ」
「なんだ、って…。試練が終わったから現実空間に戻れたんだろ」
「……???」
尚も目を丸くする博。
「おまえ話聞いてた?」
「???」
綾子はもはやこれ以上の会話を諦めた。
「まぁいいや。行くぞ」
「あ、待ってください綾様っ!」
三人は他の味方と合流すべく、集合場所である天界の中心部、クリスタルタワーへ向かった。