第六章 想いを胸に ―真由美編―
「博さん、めちゃめちゃ強いじゃないですか!」
「アイツが弱いだけだろ」
兄はそう言ったが、まともに戦っているところを見て、真由美は素直に感動した。
だが、転移の際クロウが残していった大剣をしまいながら、兄はいつものテキトーな口調でこう尋ねた。
「そんなことよかさー、アイツどこ行ったんだ?怪我したんだし普通は病院だよな。医療都市にでも捜しに行くか?」
やっぱりただのアホだ、と真由美は思った。
「こんな時にまで冗談言うなーー!!」
「じゃ、どこ捜すんだよ?」
「どこか知らねーけど、病院じゃねぇことは確かだな」
博の的外れな意見をルシフェルが一刀両断する。
「闇の塔だ。我々も急がなければ」
ラファエルがその問いに答えた。
「闇天使が住んでいた塔で、同じく光天使の住んでいた光の塔と共に、戦いの後次元の狭間に封じたのだが…。おそらくその封印を解いたのだろう。そこには闇の力を高める場所がある」
「それって、今よりもっと強くなるってこと…?!」
「というより、本来の力を取り戻すと言った方が正しいな。今の奴は雑魚同然だ」
そんな。さっきの闇魔法だって決して弱くは見えなかった。それよりも強大な力を手に入れられたら…。
「奴を倒すためには、光の力が不可欠だ。博、フューカを真由美に渡しなさい」
「ん?ああ」
兄からフューカを受け取り、首に下げる。すると紅玉が光りだし、黄金の髪をショートヘアにした少女天使が現れた。
「待っていました。ずっと…、あなたが封印を解いてくれることを…」
少女はその大きな黄土色の瞳を真由美に向けた。
「私はシェル…。皆さん、はじめまして…」
彼女を見ていると、なんだか不思議な感じがする。他人なのに他人でないような、そんな感覚が。
「あなたがいれば、クロウは倒せるんですね」
到の問いに、彼女は首を振った。
「いいえ…。私自身は…、魂だけのこの身では、光魔法は使えないのです…。けれど私と波長の合う人間の真由美になら、光魔法を習得出来るはずです。だから、私はあなたを待っていたのです…」
(私が光魔法を習得!?)
降って湧いたような話に真由美は驚きを隠せない。今の今までフューカの持ち主は兄だと信じて疑わなかったのに。兄を捜すために始めた旅だったのに、いつの間にかクロウを倒す運命に巻き込まれてしまった。
「光魔法の習得をするには、光の塔に向かうことだ。クロウが闇の塔を持ち出した今、対となる光の塔も一緒にこちらへ来ているだろう」
「真由美…やってくれますね。世界の平和を守るために」
やるしかない。運命だかなんだか知らないけど、それが私にしか出来ないことなら。
真由美は決心した。
「…わかった」
「ありがとう、真由美」
シェルは心の底から安堵の表情を浮かべた。
きっと、自らの封印を決めたとき、本当に自分と戦ってくれる人が現れるのかずっと不安だったのだろう。彼女のためにも、私は戦う。真由美はそう思うのだった。
「では、天界へ転移する」
そして。ラファエルの魔法で天界に来た真由美は驚きの余り声を荒げた。
「なんででかいのよー!?」
リーナとルシフェルが人間サイズになっていて、四枚羽の代わりに白い翼が生えている。
「天界は魔石や聖石があるから、天使本来の姿や力が保てるんだよ」
「あたし達も初めて来るけど、変な感じよねー」
「あなた達にはそうでしょうね…。でも私は…懐かしいです、とても…」
魂だけのシェルは一人、妖精の姿のままだったが、何か思うところがあるようだ。
天界は西の島と違い清々しい空気で、神々の住む地というのもわかる気がした。
「やぁ。みんな無事だったみたいだな」
一足先に天界に戻っていたチェイニーが、転移魔法で現れた。
「これから光の塔に向かう。チェイニーはルシフェルを、シェルは真由美を頼む」
「はい。では行きましょう、真由美」
ラファエルの指示で、シェルと共に光の塔を目指す。無事にみんなと帰るために。