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第五章 五大都市 ―綾子編―

妙なことになった。どうしてこんな事になったんだか。…いや、元はと言えば自分の言動のせいなのだが。

あの時みゆりに言った言葉はその場しのぎのもので、本気で迎えに行くつもりはなかったし、彼女が覚えているとも思わなかった。勿論彼女のことは心配していたし、連れて行かなかったのもその身を案じてだった。それに何より彼女にはたった一人の家族である父がいる。父と確執のある自分はともかく、彼女を家族から遠ざけるのは躊躇われたのだ。だから彼女と行くことは出来なかった。なのに、本当に一緒に行っていいのだろうか。

「なぁみゆり…私のために旅に出ようって思ってるなら、考え直してくれないか?おじさんを一人置いてはいけないだろ?」

「あら、お父様にはきちんとお話ししてありますわ。それに…私が旅に出たい理由は綾様のためだけじゃありませんわよ」

「……?それって…」

「この剣ですわ」

みゆりは腰に下げていた大剣を鞘から抜いて見せた。中央の青い宝玉が光る。

「代々うちに伝わる聖剣ファーウェルという剣ですの。ただ、それ以上のことは何もわからないので…。この剣がどこから来たのか知りたいのです」

「どこから来たのか…?」

「ええ…。この剣…、なんだか懐かしくて暖かくて…。だから、気になっちゃうんですよね…」

みゆりは大事そうに剣を鞘に収めた。

「けどそんなの、別に外に出なくても調べられるんじゃ…」

「それなんですけど…。先日知り合った旅の剣士の方に見ていただいたら、消された歴史の時代のものじゃないかと言っていたんです。その時代にも魔物がいて、伝説の剣で戦った方がいたんですって」

リーナが目を見開いた。

「なんで旅の剣士がそこまで知ってるのよ?ローグは運命に選ばれし者しか知り得ないのに…」

「あ、何でもお父様が考古学者で、そういうことを調べていたそうですわ。彼自身もその時代の首飾りを持っていましたし」

…ちょっと待て。考古学者の父、首飾りを持つ旅の剣士…?!

「名前は!?」

真由美がみゆりの肩を掴んで訊く。

「博ですわ。森上博さん」

「お兄ちゃん…」

真由美は手を放し呟いた。無事がわかってほっとしたのだろう。しかしまさかみゆりが彼を知っていたとは。

「まぁ!それではあなたが博さんの妹さん?!似ていらっしゃらないので判りませんでしたわ」

「兄とはどこで?」

「ひと月くらい前に学術都市で…。行き先が知りたいのでしたら、望月さんの方が詳しいかもしれませんわ」

望月…?そういえばさっき到がそんな名前を…

「望月君とお知り合いでか?」

「あら、あなたも?」

「学生時代からの腐れ縁なんですよ。もっとも彼は科学者ではなく、大学の理工学部を出た後、心理学部へ入り直して精神科医やってますけど」

なるほど。道理で到が“話せる”わけだ。

「二回も大学行ったの!?」

「到よりすげぇんじゃねぇか?」

「そりゃそうですよ。『やっぱり精神科医になりたい』って言って、ホントになっちゃうんですから。しかも大学は飛び級して二回とも二年で卒業してるし」

「おまえだって飛び級して科学者やってんじゃん」

「僕はなりたいからなったんじゃなくて、なれそうだからなったんですよ」

到には悪気はなかった。しかし勉強で苦労している真由美には嫌味にしか聞こえない。

「うわ、すっごいムカつく」

「まぁ、なってしまえば後は二年に一度研究成果を出してればいいだけですから。それで、みゆりさんはどうして彼と?」

到はあっさり言ってのけると話をみゆりに戻した。

「綾様のお母様が武術都市で拳法を教えていて…。私、よく遊びに行ってたんですけど、望月さんはそこの生徒で。それで私も顔見知りになって…」

「そういえば、彼は格闘術も得意でしたね」

「ふーん。天野君みたいにガリ勉じゃないんだ」

「なっ…!」

リーナの失礼極まりない言動に到がキレかかるが、それについては反論できないらしい。事実、訊けば訊くほど非の打ち所がない。

「なんか弱点ないのかな〜?」

リーナは“何でも出来る人間”が苦手なので、無理矢理弱みを握ろうとしている。相手にとっては迷惑以外の何者でもない。彼のこの先を考えると哀れだ。

「弱点というか…、寝起きが最悪だったり、鈍感で女心が解らなかったりはありましたね」

「寝起き最悪って…」

「しかも心理学専攻で女心が解らないって、どうなんだ」

「うーん、まぁ、個性的でしたからね、彼は」

当然、おまえが言うな、と真由美のツッコミが炸裂する。

「で、博とそいつの関係は?」

「ひょんな事から私と、望月さんのお知り合いの博さんと獣医師の久保さんと、望月さんの大学時代の助教授二人とグラッド遺跡に探索に行くことになりまして…」

「ええっ、探索!?お兄ちゃんと!?」

「望月君、先生達と調査なんて羨ましすぎる!!」

真由美と、到が何かずれた視点で食いついた。

「皆さんとってもお強くって、勉強になりましたわ。望月さんのロッドの扱いも、もう最高で…」

「ロッド?」

普通、魔物と戦うなら剣・弓・体術・銃が一般的だ。ロッドなんて聞いたことがない。

「望月さんの家に代々伝わるもので、博さんが言うには、やっぱり千年前に戦った方の持ち主だったそうです」

「けどロッドって殺傷能力なくねぇ?」

「その持ち主は神に仕える司祭様で、本来は両端についた聖玉の力で回復呪文を唱えるためのものだったと聞いていますわ」

神に仕える司祭――そして聖玉のついたロッド。もしかして、ルシフェルの言っていた悪魔と戦った七人の人間なのだろうか?

「聖玉って、どんなものですか?」

「一方は大きい宝玉で、中に太陽の絵が浮かび上がっています。もう一方は小さな宝玉に三日月の絵が」

「じゃあ、僕の方から連絡入れておきますよ。そして、なんで教えてくれなかったのか吐かせます!」

到は親友?がそれほど興味深いロッドの存在を隠していたことが、相当腹立たしいらしい。

『吐かせる』と言った顔がマジだった。

「別にいーじゃん。親友だからって何でも言わなきゃいけないわけじゃないんだし」

「真由美さん、僕は別に彼のプライベートはどうでもいいんです。実は二股かけてるとか、ホストクラブで働いてるとか、そんなことがあったとして僕には全く関係ありません。けどロッドのことは違います!僕と彼はライバルなんです!彼だけが知っていて僕は知らないなんて、そんなことがあっていいと思います!?」

到は物凄く理不尽な理由で喚き散らした。ここまでくると学者気質も重症だ。

「望月さんが二股なんてするわけないじゃありませんの!今度そんなことを言ったら、望月さんの代わりに私があなたを成敗してくれますわ!」

慕っている人物を侮辱されて、みゆりがプンスカ怒り出す。それでも気を取り直してある建物を指した。「皆さん、あれが私の家ですわ」


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