第四章 謎の行方 ―みゆり編―
嘘みたい。嘘みたい。今私の目の前に、本物の綾様がいるなんて!
「お久しぶりです、綾様!」
――綾子と同じ髪型の、くりくりした瞳の愛らしい少女、みゆり――は、いきなり綾子に抱きついた。
「おまえ…、みゆり!?」
覚えていてくれた。ただそれだけで、みゆりは感激のあまり泣きそうになった。ずっと、ずっと待っていたのだ。また彼女に会える日を。
「知り合い?」
自分よりいくつか年上に見える女が聞いた。二人の天使と子ども、青年までいる。綾様の仲間なのだろうか。そう思うと無性に腹が立ってきた。
「ああ…。この子は私の」
「彼女でーす☆」
腹いせに、綾子に対して悪ふざけをしてみた。
「なんですとー!?」
途端に彼らにどよめきが走る。
「ま…まさか黒崎さん、そっちの人だったんですか!?」
「そーいや、前も女口説いてたよな」
「しかもその子の服装…。婦警って」
「?なんの話してるのー??」
「おまえは知らなくていい!!つーかてめーら、変な妄想すんな!いいか、この子はただの幼なじみだ!みゆりも変な冗談言ってないでなんとか言え!」
「……私を差し置いて、他の女の方を口説くなんてどーいうことですのっ!?」
「……へ?」
イライラする。イライラする。さっきから何だと言うの?この人達も、口説かれてきた女達も。
「黒崎さん…結婚詐欺とかもやってたんですか?」
青年が遠い目で言った。
「誰がだ、誰がっ!!」
イライラする。そうやって仲良そうにしているところを見ると。私一人が置いてかれてるみたいで。
「どう…して。どうしてあの時連れて行ってくれなかったのですか…!?二年前、綾様が旅立たれる時…」
「それは…」
「あの時…私にはまだ力がなかったから…、だから断られたのだと思って、今まで必死に剣術を学んで…!」
母が早くに亡くなり、父は仕事が忙しくてあまり一緒にいられなかった。それでも綾様やおじさま達が可愛がってくれたから、寂しさを感じることはあまりなかった。けれどおじさま夫婦が別居し、綾子も旅に出ることになって初めて寂しさを感じた。本当の家族のように思っていたのに。置いていかれる気がした。自分一人が取り残されていくような。
『大丈夫。また近いうちに戻ってくるから。私が強くなってみゆりを守れるようになったら、その時は…』
その言葉だけを信じて待っていたのに。いつか必ず、私の剣技で綾様をお助けすると、固く誓っていたのに。
「それなのに…、どうしてこんな子どもが仲間にいるのです!?私よりその子の方が強いとでも!?」
「?とものことー?」
どうして綾様は、私を一番最初に仲間にしてくれなかったのだろう。どうして二年も待たせたのだろう。
「綾様は…私が待っている間、他の女の方とイチャついて…。私のことなんか…」
「いや、それはかなり語弊が…」
綾子はしどろもどろに答える。
「こうなったら仕方ありませんわね…。その方達に、綾様を賭けて決闘を申し込みます!」
「ば、バカ言うな!!」
「……なんか、旦那の浮気相手に決闘を申し込む妻ってカンジですね」
「修羅場だな」
「こういう時に日頃の行いがものを言うんだよね」
「てめーら、ちったぁフォローしろ!!」
「黒崎さん、そんなに目くじらたてなくても。本気で決闘するわけじゃないんだし…」
「いーや、アイツは本気だ!やると言ったらやるやつなんだ!」
「そうですわ!女に二言はございません!幸いうちはマスコミ関係の仕事をしておりますので、ありとあらゆる手段を駆使して関係者を洗い出します!」
「だんだん犯人探しになってきたね」
「婦警のコスプレは伊達じゃないのか」
「関係ないから!」
「みゆりさん…。いいライバルになりそうですね…」
「なんのだよ!?」
もはや誰が何を言っているのか解らない。
「とにかくやめろみゆり!」
「何故ですの!?そんなに私よりその方達が大事ですの!?」
「違うって!」
「……あのさ、要するに綾子が責任取ればいい話なんじゃないの?」
「責任…って結婚ですか?」
「ふざけんな」
「じゃなくって、一緒に来たいならくればって話。今までいられなかった分、取り戻せばいいのよ」
「それは名案ですわ!決闘に時間を費やすより有意義に過ごせますわね」
「ね、いいよね、綾子?」
「……も、もちろん」
みゆりの顔がぱあっと輝く。綾様が乗り気じゃなさそうなのはきっと気のせいだろう。
「私、宝城みゆりと申します。改めてよろしくお願いします」
腰に下げていた剣の蒼い宝玉が、再会を喜ぶかのようにキラリと光った。