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第三章 雪国 ―ルシフェル編―

洞窟の中は天井も壁も床も、その名の通り全てが氷で出来ていた。天使の自分とリーナはともかく、地に足をつけて歩く人間は進むのが大変そうだ。

「ちょっと待ってよー。天野君何でそんな歩くの速いわけ?」

人間の中でも到は割りと平気そうに歩いていた。大方靴に細工でもしてあるのだろう。


「ああ、夏冬兼用になるようにスパイクつけてるんですよ。あと、ここのボタンでローラースケートにも出来ます。それから…」

やっぱり。

「もういいよ」

聞いた自分がバカだったという態度の真由美。またやってると思いながら進んでいると、先頭のチェイニーが足を止めた。

「魔物の気配だ。気をつけろ」

全員に緊張が走る。辺りを見渡すと、前方にハリネズミ姿の氷の魔物が数匹潜んでいた。

「氷か…。私の剣じゃ厳しいな」

「私の格闘も、あの針と氷じゃ…」

綾子と真由美が口々に言った。リーナの魔法も風圧を操る程度のもので、期待は出来ない。友美は論外だしチェイニーは元々攻撃タイプではない。こうなれば到と自分の炎魔法が頼りだ。

ルシフェルはファイアーを唱える。しかしそれだけでは火力が足らずに何匹か倒し損ねるだろう。本当は上級魔法のエルファイアーを唱えたいところだが、皆にかけた炎魔壁と先刻のレイとの攻防でかなりの魔力を消耗していた。

(オレの魔力もいつまで持つか…)

そう心配していると、リーナが自分の放った火球に向かってウインドを重ねた。火球は風に煽られ猛スピードで魔物に突進する。火力を増したエルファイアー級の威力で。魔物が跡形もなく消えたのは言うまでもない。

「風の使い方ってのはこういうのもあるのよ」

リーナは得意気に言った。

(そっか…。一人で倒す必要はないんだよな)

思えば今まで、一人でみんなを守ろうとばかり考えていたかも知れない。兄とのことがあって以来、誰も守れないのは、助けられないのは嫌だったから。

だけど、誰かを守ることで救われていたのはオレの方だったんだ、きっと。

そうして兄の言った自分の生きる意味を必死で探していたんだ。

だけど、本当はそんなもの必要なくて。

「ルシフェル、あまり無茶はしないことです。もうあまり魔力がないんじゃないですか?」

こうして自分を拾ってくれて、気遣ってくれる到に出会えたこと。そして今多くの仲間と知り合えたこと。それだけでオレはここに存在しているから。

だから、導士として全ての解放を。

オレが存在出来る場所を守るために。今度は一人でじゃなく、リーナと共に。

「…そうだな、魔力はないけど…でも元気出てきた」

「?よくわかりませんけど、それは良かった」

到は深くは聞かなかった。そういうところは彼のいいところだと思う。


到はふと鞄からプラ容器とガラス瓶を取り出した。そしてプラ容器の中身―透明な液体―をガラス瓶に移す。

「何やってんだ」

「即席の武器をね。僕もそろそろ役に立たないと」

瓶の口に紙を詰め、ライターで火を付ける。そして再び現れた魔物に投げつけた。たちまち火は業火となり数匹の魔物を飲み込んでいく。

「何、中何入ってたの?」

「アルコールですよ。いやぁ、うまくいって良かった」

到の性格だからやると言えばやるのはわかっていたが、真由美や綾子は到の行動にまだ慣れていない。

「何でアルコールなんか持ち歩いてるんだよ」

綾子が不思議な顔をして到を見る。聞くだけ野暮だ。

「アルコールは消毒用で、瓶は何か採取した時の保存用です。これは僕の七つ道具の二つで」

「まだあんの!?」

到が言い終わらないうちに真由美がげぇっと声を出す。

「おまえ、いつもそんなん持ち歩いてんのか?」

チェイニーも信じられないという顔だ。

「ええ。それがどうかしたんですか?」

「……」

学者の性分が平気にさせているのかもしれないが、自分だったらそんな荷物を持ちたくないと全員が目で言っていた。

その時だった。背後から女の声が聞こえたのは。

「雑魚相手に健闘しているようですね。そろそろ私の相手もしてもらいましょうか」

「誰だっ!?」

ルシフェルは振り向き、突如現れた女をまじまじと見た。羽がなく人間と同じ背格好をしているが、水色の長髪や彼女から感じる魔力。おそらく彼女は…

「召喚獣シヴァ。ノエルの差し金だな」

チェイニーが確かめるように口にする。

召喚獣は本来は獣だが、普段は人間と天使の中間の姿をとっている。そしてその召喚獣を呼び出せるのは歴史上ノエルだけ。ということは、やはり彼は今も生きているのだろう。

「…ミカエル様。あなたならおわかりでしょう?あの方が何をしようとなさっているか…」

「…ああ。今、やっとわかった。あいつは、目的のためなら手段は選ばない。だからおまえが来たんだな?」

「そういうことです」

どういうことだ?ノエルは自分たちに敵対しているというのか?

「では、行きますよ」

シヴァが右手を挙げ、呪文の構えをとる。

「待って!どうして戦わなきゃいけないの!?私達が戦うべき相手は別にいるでしょ!?」

真由美が声を張り上げる。しかしシヴァは冷たく言った。

「ノエル様の指示です。それ以外にどんな理由が必要だと?」

「そんな…」

「お喋りはここまでです。もう私達には時間がありません」

シヴァは空に魔法陣を描き、幾筋もの細く尖った氷を放つ。自分とリーナ、チェイニーは保持している魔力である程度の防御が可能だ。だが真由美達は魔法をもろに喰らってしまった。

服を裂き皮膚を切り裂かれ、体中から血が滴り落ちている。炎魔壁の効果も切れてきているのだろう。でなければ、少しなりダメージを抑えられるはずだ。

「そう簡単にやられるか!」

チェイニーが右手を挙げると、瞬時に全員の傷が回復した。

「そうよ!私はお兄ちゃんに会うんだから!」

「女を斬りたくはないが、仕方ねぇな」

真由美と綾子がシヴァの元へ走り出した。綾子が剣を抜き斬りつけようとする。

「はあぁっ!」

いける。綾子の剣術ならば、シヴァとて無傷では済まないだろう。真由美も横から蹴りを入れる。

が、二人の攻撃がシヴァに届くことはなかった。

攻撃が当たる寸前、彼女の作り出した吹雪で思い切り吹き飛ばされたからだ。

「う…」

「くそ…」

体をいやというほど氷の床に打ちつけて、二人は立ち上がるのがやっとだった。それでなくてもこの寒さで体の動きが鈍っている。長期戦になればなるほどこちらが不利だ。かといって打開策がない限り状況は変わらない。自分の魔法も撃ててあと一・二発。一体どうすれば…。

「あらあら。もう終わりですか?では今すぐ楽にしてあげます」

シヴァはまたも氷の魔法を放つ。初めの一撃より氷の大きさ、数共に増やして。

(加減してたってのか…!?いくらなんでもあんなの喰らったら…)

せめて自分の魔法で相殺しようと呪文を唱えようとする。

しかしそれは女の声で遮られた。

「まて。おまえは魔力を温存してろ」

「!?」

喋っているのは友美だった。

「来る…か」

シヴァの放った氷が物凄い勢いで向かってくる。そして仲間達にぶつかるギリギリのところで友美は右手を挙げた。

「バデ」

全員を覆う光のドームが現れた。氷は光の壁に当たると消滅していった。

「…何?この壁…」

「バリア…の一種だと思います」

ただただ驚く真由美に到が答えた。

「やっぱりそうか」

チェイニーは一人何かに頷いた。

「……さて。どうするシヴァ。これ以上ここにいても無意味だと思うが?」

友美は蒼い瞳をシヴァに向けた。

「そうですね。私の目的はもう果たしました。またお会いすることもあるでしょうが、今日はこれで」

そう言い残すと、彼女は転移魔法で主の元へ還っていった。


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