第三章 雪国 ―到編―
「オレはチェイニー。つっても名前も姿も仮で、本当はミカエルっていうんだけど」
ミカエル…?と言うと、変化の術を得意とした、双子の神の片割れ…?
到は訝しんで聞いた。
「どうして変化なんてしているんですか?」
「え?ああ、こっちのが気に入ってるんだよ」
ニコニコと楽しそうに話す彼に調子が狂う。
しかし神というのは本当だろう。今まで何故か違和感を感じなかったのだが、よくよく考えれば赤髪の人間など聞いたことがない。そしてそれは友美の金髪蒼眼にも言えることだ。
先ほど放った力からも、彼女が普通ではないことがわかる。彼女自身は自分の行動を覚えていないようだったが、記憶喪失と言うよりは多重人格の症状に近い気がする。
ルシフェルの話だと今目の前にいるミカエル以外の神は死んだらしい。しかし、新たに神の力を持つ人間が生まれてきた可能性は否定できない。
[友美]と[神の力]が別の人格として成長してきたと考えれば、今までのことも辻褄が合う。
気がかりなのは、何故彼女を知っているような感覚がするのかだ。蒼い瞳を、懐かしく思う理由がわからない。
「とも…この人知ってる…」
「え…?」
真由美の後ろに隠れていた友美が、チェイニーの前に出る。
「どこだったっけなぁ〜?」
「おまえ…まさか」
チェイニーも友美の蒼い瞳を凝視した。
「どうしたの?知り合い?」
真由美の問いに彼は答えなかった。
「…とにかく洞窟に行かなきゃな」
チェイニーはボロボロの到や鞄や道具を一カ所に集め、右手をかざす。
「レテ」
呪文を唱えると、それらは光に包まれ修復された。チェイニーが到に手渡した時、それらは元通りというよりはまるで新品だった。
「さ、準備万端だ。ワープするからみんな集まって」
どうやら転移魔法で洞窟に行くらしい。
「行くよ。ユル!」
次の瞬間、到達は氷で出来た洞窟の前に立っていた。
「よし、これでまともに話が出来るな。天使達がいたんじゃ話しづらくてしょうがねぇ」
「え、何どういうこと?」
「…はめられた…ってことですか?」
いくらなんでも話の展開が早すぎる。シルヴィアを送り届けてすぐに[洞窟に行け]などと。
「多分な。ついさっきあの周辺でカケラの魔力を感じてね。カケラってのは在るだけで魔力が感じられる。けど、その魔力は一瞬で消えちまった。この世でカケラに触れてなおかつそんなことが出来るのはノエルだけだ。おそらくカケラ自体に結界を張って、魔力を小さく抑えたんだろう。魔石程度の結界なら感じることは困難だからな」
「でも、ノエルさんは死んだはずじゃあ…」
「カケラを探し持ってて生き残ったんだろ。今結界を解いたのは俺をおびき寄せるためだ。カケラの魔力に気づけば、神であるオレは地上に来る。そして予めおまえらをここに行かせるよう天使達を使い仕組ませておく。これで役者が揃うってわけだ」
チェイニーは苦々しく吐き捨てた。
「私達がここに来ることを、知ってたって言うの?」
リーナが目を丸くする。到達がここに来たのは全くの偶然だ。それすら知っていたというのか。
「あいつは召喚獣を従わせてる。調べさせることくらい、わけないさ」
「…だとしても、何が目的なんだ?」
尋ねた綾子にチェイニーはヤケになって言った。
「そこまで知ってたら苦労しねぇよ。昔からあいつは何考えてるかわかんない奴だったからな。リズのことだって、宇宙天使のことだって、オレらには何も教えなかった。結局オレらはあいつの手の上で踊らされてるだけに過ぎないんだよ」
リズ…?宇宙天使…?何のことだろう。ノエルとは一体どんな人間だったんだ?
オレらというのは双子の神のことだろうが、同じ神でもノエルは彼らとは違う存在だったのか。
「この中に入るかはおまえらが決めることだ。おまえらが行くならオレも行く。どうする?」
チェイニーはそう言って洞窟の中に目をやった。
「僕は興味ありますね。この中に何があるのか」
「そうだね。売られたケンカは買わなくちゃ」
「行くだけ行ってみるか」
「あたしはみんなが行くなら行くー」
「おれも」
「なんかおもしろそうだねっ☆」
とりあえず全員の意見が一致した。
「そう来なくちゃな。そんじゃ、さっさと行って終わらせるか」
チェイニーが洞窟に足を踏み入れる。その後を、一行も続く。この先に何があるかも知らず…