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第二章 回り出した歯車 ―真由美編―

スーパーで、真由美は食料品売り場を歩いていた。なるべく日持ちする物を選ばなければと考え、リーナに助言を求める。

「ねぇリーナ、黒崎さんと旅してる時はどんなの食べて…あれ?」

鞄の中にいるはずのリーナとルシフェルがいない。

「友美、リーナ達知らない?」

「あのねー、さっきお菓子の試食コーナーのとこに行ったよ」

「はぁ!?」

おとなしくすると言ったのに早速これだ。真由美は頭痛がしてきた。

「大体、友美もどうしてすぐ言わないのよ!?ったくも〜っ!!」


真由美は試食コーナーに急ぐが、既にそこには人だかりが出来ていた。

「ぎゃーっ!人来てるしーっ!」

食べるのに夢中な二人は、人々の好奇の視線に気がつかない。


「何、アレ…!?人形…じゃないよね!?」

「何で動いてんだ!?」

真由美は頭痛に加え目眩までしてきた。

「ちょっと二人とも!早く、こっち!」

声をかけると、ようやく事態を理解したらしい二人は慌てて真由美の鞄の中に入った。それを見届けると真由美は友美の手を引いてダッシュで店を後にした。




「あんたたちぃ〜。おとなしくするって言ったでしょ!?」

「だって美味しそうだったんだもん」

反省の色のないリーナに、真由美も今度ばかりは付き合いきれないとばかりに言った。

「とにかく!黒崎さんのとこ連れてくから、今度はおとなしくしてるんだよ!?」

「はーい」

「ルシフェルもっ。いいっ!?」

「へーへー」


二人の返事が相変わらずで少々気に食わないが、これから預けてくれば他の店で買い物する時間くらいはある。気を取り直して武器屋に行った。




「黒崎さんー?」

キョロキョロ辺りを見回す。すると真由美が綾子を見つけるより先に友美が

「あーーっ。黒崎さん女の人とお話してるーーっ。いいなぁ、楽しそう」

と真由美の腕を引っ張り、指をさす。

その光景を見た瞬間、真由美は武器の展示されたガラスケースに頭を打ちつけてしまった。

というのも、綾子はふざけて女の子を口説いていたからだ。


「君みたいな可愛い女の子が、こんな大剣を持つもんじゃないよ。どうせならこっちの小剣にしたらどう?本当なら私がいつでも守ってあげられたらいいんだけど…」

「えーっ、やだぁ。可愛くなんかないですよーっ。もう、上手なんだからぁ」

「俺が嘘つくわけないだろ…」


綾子は少女の瞳をじっと見つめ、その長い髪にキスをした。

やばい。ヤバすぎる。中性的な顔立ちの見目麗しい綾子がやると、女とわかっていても様になりすぎる。

可哀想に、少女は真っ赤な顔をしてうつむいている。真由美もリーナも友美も、綾子の毒牙(?)に抵抗力があるから良かったものの、もし一人でも免疫がなかったら大変なことだ。

「ちょ、ちょっと…。もしもーし…」

力なく声をかける真由美。しかし二人の世界を作っている綾子が気付くはずもない。かといって近寄って話しかける勇気もなかった。

ふざけているのだとは思うが、端から見ても本当の同性愛のようでハッキリ言って気色が悪い。真由美は鳥肌を立てながら、仕方なく到のいる図書館に向かった。




図書館で到を見つけた真由美は

「天野君!悪いんだけどやっぱりルシフェル預かって…」

と言いかけ、彼の読んでいる本の題名が目に入り絶句した。

[時限爆弾の製造法][毒物の種類と用途・改訂版][あなたが死ねば私は幸せ]

…一体どういう神経をしているのだろう。そう思わずにはいられなかった。そんな真由美の心中を知る由もなく、到は平然と話しかけてくる。

「あ、真由美さん。聞いてくださいよ。コレ、最近入った本なんですけどちょっとイマイチなんですよ。時限爆弾なんて考え自体が古いと思いません?やはり今の時代は反物質とかクリエイションエネルギーですよ。陽電子砲や時空転移フィールド、それにBFSまで存在するこの時代に、爆弾なんて」

「は…反物質…??」


高校の授業で一番科学の苦手な真由美に、科学者の話が理解出来るわけがない。

「知りませんか?簡単に言うと、相対論的量子論によって存在が予言された、反粒子による物質のことですよ。反粒子には陽電子や反陽子があって…」

「ストップ!ストップ!もういい!」

真由美は思わず耳を塞ぐ。なんだか余計わからなくなった。そもそも相対論的量子論が何なのかさえ解らない。

「………ねぇ。今話してたのって日本語?」

「そんなに難しかったですか?僕の説明」

到はおかしいなという顔をした。まさに異文化コミュニケーションといった感じだ。会話が成り立たない。


「てゆーか、つまんねーなら借りるなよ、その本」

「本読んでないと落ち着かないんですよ。君こそどうしてここに?もう買い物終わったんですか?」

鞄から顔を覗かせたルシフェルに到が聞き返す。

「終わるわけないわよ!リーナもルシフェルも店の中うろつくし!買い物終わるまで預かってよ!」

真由美は本来の用件を思い出してつっけんどんに言った。

「そうだったんですか。すみません。こら、ルシフェル。約束は守りなさい」

到が申し訳なさそうに謝る。しかし彼の叱責を二人は素直に受け入れない。

「オレじゃねーよ。リーナが…」

「あーっ、あたしのせいにする気ーっ?!あんただってチョコ食べたそうな顔してたじゃない!!」

「してねーよ!」

今度は責任のなすりあいだ。到が溜め息をつく。

「どうしてチョコなんかでそんなに騒ぐんですか。いつもちゃんと買ってあげてるでしょう?」

「えー!?いつももらってんの!?ズルイ!!私なんて、綾子が甘いのキライだからまだ一度も食べたことないんだよ!かといってねだるのもやだし…」


ねだるのを気にするくらいなら、人目を気にして欲しいのだが。


「だから到が持ってるかもって言おうとしたのに、おまえが勝手に勘違いして…」

「えっ、そうだったの?なーんだ。早く言ってくれれば良かったのに」

リーナはかなり単純だった。先ほどの喧嘩腰の態度はどこへやら。

「とにかく、食べたらおとなしくしててくださいよ」

そう言いながら到が二人に一粒ずつチロルチョコを渡す。

「わぁい。ありがとー♪」

「サンキュー到」

ホクホクとおいしそうに食べる二人。だがどうせ食べ終わったらまた騒ぎだすに決まっている。

「ちょっと天野君、甘やかしすぎなんじゃない?」

「まぁまぁ。チョコぐらいでおとなしくなるんなら安いもんじゃないですか」

「だからそれが――」

間違っていると言おうとしたが、そういえば二人ともおとなしいなと思い直し、鞄の中に目を向けた。二人は小さな寝息をたてていた。道理で静かなはずだ。

――待てよ。いくら何でも都合が良すぎないか?二人とも同時に眠るなんて。しかもチョコを食べかけにして。

「ね?だから言ったでしょう?」

到がニヤリと笑った。

「あんた…まさか睡み…」

「スイミ?」

後ろにひょっこり現れたのは友美だった。そうだ、この子がいるのをすっかり忘れていた。

到がすぐに鞄から二冊の本を出し、友美に渡す。

「友美さん。すみませんが、この本受付に返してきてもらえませんか?」

「うん、いーよ」

「ありがとうございます」

友美がいなくなるのを見届けて、到が言った。

「全く。気をつけてくださいよ。あんないたいけな子どもに悪影響を与えるようなことがあったらどうするんですか」

鞄の中に散らばったチョコを包み紙にくるむ彼を、真由美は

「一応自分の行動が悪影響になるって自覚、あったんだ」

と蔑むような目で見た。

「あっ、何ですかその目は!?僕はこう見えて平和主義なんですよ!?さっきのだって睡眠誘発性香料で、人体に害は無いと立証済み…」

「ホントに!?実は睡眠薬で、二人の体の大きさ考えずに人間の分量入れたなんて言わないでよ?大量摂取すると死ぬのよアレ!」

「知ってますよそれくらい!てか常識じゃないですか!!僕がそんなに信用できないんですか!?」

「うん」

「〜〜〜〜〜〜っっ」

到の眉間にシワができた。やばい。言い過ぎたかも。いくら彼が胡散臭いからとはいえ、学者としてのプライドを傷つけてしまったかもしれない。

「あの…」

「あ、いたいた二人とも」

謝ろうとした矢先に綾子が友美を連れてきた。完璧にタイミングを逃してしまった。

「真由美も来てたんだな。さっき友美に聞いたよ。剣買い終わったんだけど、二人はどう?」

「いやー、まだ買い物終わってないんだよねー」

苦笑いしながら言う真由美から事情を察して

「だろうな。リーナがおとなしくしてるわけがないと思ったんだ。途中で預けに来てくれて良かったのに」

と綾子。やっぱり気づいてなかったんだ。

「行ったよ。けど黒崎さん女の子と喋ってたし……」

ムッとして言ったが、綾子はきょとんとして

「そんなん気にしてたの?あんなんただの挨拶だろ?」

と言った。

「挨拶で髪にキスするか、フツー!!」

「あー…。じゃあ営業用?アレやると得すんだよねー。物くれたり値引きしてくれたり。さっきもほら、剣選んでくれたお礼とか言って一万ゴールドくれたんだぜ?太っ腹だよな。金持ちなのかな?」

綾子は万札をポケットから出して見せる。

「黒崎さんって意外と悪ですね」

「別にいーじゃん。くれって言ったわけじゃないんだしさ」

「それって詐欺師の言い訳と変わりないですよ」

「誰が詐欺師だって?それよりおまえこそ意外と常識派だったんだな。友美に持たせてた本、頭脳内改革と脳の構造だっけ?てっきり毒物とかの本読むんだと思ってたけど」

到は図星を指されて何も言わなかった。綾子は無言の彼を不審に思いながら本題に戻す。

「買い物は私がしとくから、真由美は友美と部屋戻ってなよ」

綾子の申し出は正直嬉しかった。面倒が省けたというのもあるが、金銭的にもだ。これからどのくらい旅を続けるかわからないが、金が無ければ野垂れ死にだ。彼女のしていることを全面的に認めたわけではないが、背に腹は返られない。

というかむしろそんな特技があるのなら、最初から綾子が買い出しをしていれば良かったのでは、と思ったのは自分だけだろうか。

「うん、じゃあ頼むね」

閉館までいるという到にリーナとルシフェルを任せ、真由美は友美とホテルに戻った。


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