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捏造の王国

捏造の王国 その36 カタツムリより遅い給付金申請に大批判!マイマイナンバーカードは最悪だ!

作者: 天城冴

新型肺炎ウイルスにより、商売壊滅、解雇などで疲弊した人々のための給付金システムをなんとか完成させたニホン政府。しかし、アベノ総理肝いりのマイマイナンバーカードと無理やり連動させたため、早速のシステムの不具合の報告に頭を痛めるガース長官。

例年ならば風薫る5月で全国がさわやかな雰囲気に包まれるころのニホン国。しかし新型肺炎ウイルスの影響がいまだ続き、あらゆる面において人心が荒みつつあった。ここ官邸でも

「ああ、他国では封鎖も解除。隣国では再感染が相次ぐものの、首都封鎖もなし。居酒屋は盛況、わが国の三密など、どこ吹く風。二次感染がでても冷静に対応だのと、世界のメディアが持ち上げるし。ウイルスが最初に確認された中国でも一応抑え込みが成功と言い出すし。アメリカはまだバタバタしているが、ドランプ大統領が支持率回復のために思い切った手を打つだろうし、それに比べてわが国は…」

と、湯飲みを片手にため息をつくガース長官。

「はあ、今年は茶摘み初体験のはずだったのに。念願の自分だけのお茶をつくるための茶摘み、マスコミにも新緑の茶畑の中の私をアピールして爽やか演出が、このウイルス騒ぎでダメになるし。総理もイマイダだのザイキだのばかり贔屓にして…」

と、わが身の不運を嘆くガース長官。

「にしても、今回のウイルス対策は不味かった。おかげで緊急事態宣言は首都で解除しにくくなった。今月末まで何とかしたいがなあ。官邸従順黙って忖度のクロガワ検事のため定年延長の検察法改正もつぶれたし。あれでアベノ総理にも捜査の手が及ぶかもしれん」

自分も危ういが、まあ、なんとかなると妙なところで楽観的なガース長官。

「それより大手有名メーカーも倒産する事態だ。官邸に有利な法改正がどうとかいう前に経済が疲弊してトンデモないことになりそうだ。この騒ぎでつぶれるような体力のない中小零細はつぶれろといったジコウ議員がいたらしいが、そいつらが大企業を下支えするのが、ニホン経済の特徴なんだぞ、くそお」

そうなのだ。英語もろくにしゃべれずメールもできないようなオジサンが大企業のトップをはれるのは一重に下請け孫請けの技術やら頑張りを上が吸い上げるニホン特有の構造だからである。義理人情情緒で子会社が親会社に仕えるシステムが瓦解すれば、使えないオヤジ優遇、IT音痴でネット会議もロクにできない幹部ばかりの企業はあっという間に多国籍企業に飲み込まれてしまう。政府だのみで補助金だのをもらって甘やかされ、国際的競争力など実はほとんどないのが、多くのニホンの大企業の実態なのである。

「うう、つい去年もアメリカだのEUだのの裁判でニホン大企業が負けたり、制裁くらったりするから。政府が手をまわして株価をあげなければ、消費税増税で輸出戻し税が10%にならなければ、あっという間にあいつ等も大赤字。だいたい大企業だって倒産寸前もでてきたんだぞ、このウイルス騒ぎで」

湿気た茶葉でいれた茶を一気に飲み干すガース長官。

「う、うまくない。やはり、忙しくて保存をおろそかにしたからか。今年は自粛で茶摘みの人出もたりなかったというが、新茶はどうなるんだ。私はうまい茶をいつ飲めるんだ」

と、茶どころかウイルス騒ぎ失業で飯も食えない人々がいることをまったく考慮していないガース長官。国民の生活を守りぬかねばならぬ政府高官がこれではニホン国民は不幸極まりないといえよう。

そこへニシニシムラ副長官が朗報を伝えた。

「長官、やっと国民全体への給付金申請のシステムが運用開始しました!さっそく役所などでも申し込みが!」

「おお、国民一人一人に10万円給付金というあれか!企業の給付金のシステムもすでに稼働しているし、これで支持率回復だ。税金の大無駄使いと大批判の布マスクの大失敗を取り戻せる!」

と、喜ぶガース長官。しかし、世の中そんなに甘くない。

「た、大変です、ガース長官、システムに不具合が!」

あっという間に不幸な知らせをもってきたシモシモダ副長官の声に、またも渋い顔になるガース長官であった。


「財務省だの、総務省だのの奴等の口車にのって、“マイマイナンバーカードで楽に申請”などと宣伝したのが間違いでした」

と苦い顔をしながら語るシモシモダ副長官。

「その、国民給付のほうか、それとも企業の給付金…」

「両方です」

シモシモダ副長官の言葉に思わず天を仰ぐガース長官。

「なんということだ!あのシステムは経産省の奴等が休みなしで作ったというんだぞ!」

いや、実際に休みなしなのは外注のシステムエンジニア、おそらくフリーの個人事業者や派遣社員などが割をくっているはず、と思いつつ、それは口に出さないシモシモダ副長官。

「短時間であれだけのシステムを作ったのは素晴らしいことですが、しかし」

「やはり、不具合がでたか。システムエンジニアだのを集めてやらせれば三密だし、それぞれテレワークで打ち合わせだから、足りないところも…」

「そうではないのです。私の言い方がまずかったのかもしれませんが、正確には電子申請システムそのものというより、マイマイナンバーカードの紐つきにしたのが失敗でした」

「は、それはどういう?」

「かえって上手くアクセスできない、カードを作るのに申請から届くまで二か月以上かかる、そもそも申請するのが大変と、その」

「それは、つまり」

「要するに使えないんです、あのカード」

ため息をつくシモシモダ副長官。

「えっと、そのう、カードを申請するのに時間がかかるってこと?」

恐る恐る口をはさむニシニシムラ長官にシモシモダ長官が答える。

「そう、いちいち役所に行って書類かいて、身分証明とか写真とかいるから」

「そんなの、自宅でスマホとかパソコンでも申請できるようにすればいいんじゃ。だってマイマイナンバーをわかっているのは本人だけのはず。ナンバーを入力して、スマホで自撮りとかすればすぐ作れるようなシステムにすれば」

「それがなぜだか知らんが、わざわざ手間のかかるようにしてるだよ。本人がナンバーの通知書もって、書類揃えないとカード作れない。ちなみに確定申告書にマイマイナンバーを書くとなぜか本人確認のための身分証明書のコピーとかつけろと言われるそうだ」

「それじゃ、書いた方が損だね。マイマイナンバーって本人証明の意味あるのかなあ?」

素朴で真っ当な疑問だが、カード普及をもくろむ政府には痛い発言をする天然なニシニシムラ副長官。

「だから、マイマイナンバーカードも普及しないんだよ、もってても役に立たない」

「そのうえ、申請して二か月も待たないと送られてこないのか。遅いよね」

「しかも今、申請したがるのは中高年。必要書類が何かもロクにしらずに役所に押しかけるものだから、対応する職員は疲弊状態。ウイルスのせいで輪番勤務になって、人が足りないっていうのに、それだから」

「人が押しかけて三密になっちゃうわけだね。でも、それはカード申請するのが大変で持ってる人はいいんじゃ」

「それが読み取り専用アプリをあらかじめスマホに入れておかないとカードを読み込めないんだ。なければカード読み取り機を購入しないと」

「じゃあ、ガラケーの人はパソコンと読み取り機がないと駄目なんだ。スマホをもっていて該当するアプリを入れられる人でないと」

「すぐにはできないな。高齢者はカードがあっても無理。そのことを、ろくに知らないのか、知らせてないのか、で訳のわからないまま待たされてる市民が怒り出して役所は大混乱だ」

「それは国民の給付金でしょう?企業の給付金の方は?」

「ああ、やっぱり読み取りの問題と、それとマイマイナンバーカードなくてもできなくはないからだよ」

「え?」

「そっちのシステム作った奴等はマイマイナンバーの使い勝手の悪さがよくわかってたらしくて、選択可能にしたんだよ。カードがなければ審査に時間がかかるという一文は添えて、カードを使う方に誘導したよ、って言い訳してたらしいが」

「それでカードを使った人は増えなかったの?」

「読み取り機を買うのも、アプリで読み込むのも余計な作業だからな。第一あのシステム一定時間以上たつとタイムアウトで、やり直しなんだ。まあ途中まででもデータは残ってるけど、何回もアクセスするのは大変だよ、混んでるし」

「そうか、まず申請できなければ意味ないね。審査に時間かかっても、まずは早く申請したい人はカード使わないか」

「使ったほうが、手間がかかるから。まず、申請を完了しないと話にならん。カード使ってもたついた人より、カードなしでサクサク申請した人の方が金を振り込まれるのが早いってこともありそうだ」

と呆れたようにいうシモシモダ副長官。二人のやりとりを黙って聞いていたガース長官が不意に口を開いた。

「ああ、君たちマイマイナンバーカードの悪口は慎みたまえ、あれはアベノ政権で推進したものであってだな」

「それはわかっておりますが、そもそも長官や総理はカードをお持ちなんですか?」

「そ、それは、その。私も忙しいし、作る暇が…」

シモシモダ副長官に反論され、しどろもどろのガース長官。

「カードを作れといった側がそれでは示しがつきません。また野党に“税金使って使えないシステムを作るな”、“それで増税とは国民も納得しない”と追及されます」

「そのうち、与党議員に義務化するとか、やるべきであるかもしれんが、その」

「それは、それで難しいかもしれませんが。リベラル派のなかには、“いっそ政党助成金とマイマイナンバーカードをくっつけて、どの議員が何に、いくら使ってるのかわかるようにすれば。いちいち書類提出しなくて済むし。政治活動限定で使うためのお金なんだからプライベートで開示できないものなんて本来ないはずだよね”などという輩もいます。それをやれと言われたら困る方もいるのでは…」

思わず、う、っとなるガース長官。

(い、一万円以下で分けて買えばバレなかったのが、すべて明らかになってしまうのか。ああ、アベノ総理のナンタラ水に、ガチガチ君アイスの爆買い。ヨネダやオオブチのコンビニでの日用品買いやら、アトウダ副総理のクラブ通いに。飲食店なんて一万円以下になるよう一日に何枚、いや何十枚も領収書を作ってもらって凌いだんだ。こ、これから全部開示となると…。ああ、私のお茶コレクションも!け、健康維持といっても、“じゃあ個人事業主とかの健康のために買う器具とか健康食品も認めろ”とか言われかねん)

マイマイナンバーカードを作るよう議員に義務化すべきか、すべきでないか。

逡巡するガース長官であった。


どこぞの国でもようやく給付金の申請が始まりだしましたが、なんですな、人との接触八割減とかいいつつ役所は混雑するし、システムはすぐエラーになったり、時間切れでクレームの嵐のようですな。そのぐらいなら無理に電子申請システムなんぞ、作らなくてもいいようなものです。なにしろIT担当大臣がハンコ捺印は一種の文化で廃れさせるなとか職務と真逆なことを言ってしまうような国らしいですから。グローバル先進国はあきらめたほうがよろしいようで。

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