ダグローザの瞳
「それでは、”後夜祭”をはじめたいと思います」
アストーン家は、かつての王宮をほぼそのまま引き継ぐ形で利用しております。
5つの門と3つの広場、そして2つの副館と本館が主な造りです。
その日は魔力を最も効率的に発揮できる試しの広場を会場としました。
「これは、アストーン家に代々伝わる魔水晶、通称”ダグローザの瞳”でございます」
ダグローザの瞳は、かつて王都を脅かした魔界のドラゴンの眼球から奪ったもので、
魔力を込めるとそれに応じた真実をもたらしてくれるという王都一種財宝のひとつです。
王都財宝は特級と一種があり、アストーン家は特級の一部と一種のすべての管理を任されております。
ダグローザの瞳は癖のある一種財宝の中でも特に難物で、魔力の相性が悪いとがリバウンドが起きることもございました。
「余計な講釈はいいから、流れだけぱぱっと説明して、ちゃちゃっと決めて頂戴な」
「それでは、テレネ様からご要望も頂戴しましたので、ご説明申し上げます」
「今からこの水晶を使い、最も美しい女神様を決める”かけら”を導きます」
水晶に精神を集中させ、少しづつ魔力を注入していきました。
魔力を得ると水晶は白く淡い光を放ちはじめ、やがてドラゴンの瞳がぎょろりと私を見つめてきました。
「ダグローザよ、我が魔力を糧に真実をもたらしたまえ」
蒼かった瞳はやがて血のように赤く染まり、赤い涙をながしはじめました。
滴る涙はやがて形をつくるようになり、”かけら”として具現化しました。
「これは・・・カルデラさん、これが真実の”かけら”なの?」
「左様でございます」
冷静な言葉とは裏腹に、私も動揺しておりました。
まさか生きた”かけら”を導いてしまうなど、これまでございませんでしたから。
しかし、水晶はひとつの問いに対しひとつのかけらしか導きませんから、これが唯一です。
「これって、人間じゃないの?」
正にそうでした。文献で知識だけは持っておりましたが、実際に見るのは初めてでございました。
おお神よ・・・こんなときに、この言葉は使うものかもしれませんね。
「つまり、これに誰が一番美しいか選んでもらうわけですな」
「え? アステラはそれでいいんですか? 人間ごときに何がわかるっていうんです」
「それがいいんじゃない。なーんにも知らない方が客観的でしょ」
「私はどんな方法でもかまわなくってよ。結果は同じなのだから」
「まったくこの方たちは・・・」
ペレタ様はわざとらしく頭を抱えておられましたが、やはり水晶の結果は信頼できる事柄です。
ぶつぶつと独り言を繰り返したかと思えば、私も構いません、と納得して頂きました。
さて、水晶により導かれた真実の”かけら”をどう使うか、至ってシンプルでした。
「では、この者に誰が一番美しいか、選んで頂きましょう」