第三回 この世界について
「はい! 今回もやってまいりました異世界系魔王さめラジオ! 今日のゲストは」
「ところでこの異世界系ってなに?」
「人の話の腰折るのやめてくれます?」
「うん、で、異世界系ってなに?」
「まず打ち合わせに出ろ」
「やだよ。で、異世界系ってなに?」
「…はあー。この世界がどんな世界かくらい知ってますよね」
「特に争いもなく平和な世界」
「いやそうじゃなくてですね」
「学校で習ったほう? なんだっけ、この世界に生まれる奴は種族問わず他の世界で死んだやつが転生してくるやつだけってやつ?」
「そうです。私たちにとってこの世界は異世界なんです。だから異世界系ラジオ」
「だけどそれ都市伝説じゃん」
「まあ証明した人もいませんけどね。魔神さまや女神さまは何か言ってなかったんですか?」
「そのとおりだよっつってた」
「やっぱ異世界なんじゃないですかここ」
「前の人生の記憶しか証拠ないけどな」
「魔王さまって前はどんなだったんですか?」
「前は普通の人間だったよ」
「意外ですね〜、魔王さまが働くのなんて想像も出来ないです。でも前はちゃんとしてたんなら魔王さまのスペックだとそうとう優秀だったんですね」
「朝はパチンコの列に並んで昼はナンパして夜はお姉さんのいる店行ってお持ち帰りして。なかなか忙しい毎日だったよ」
「1ミリでも感心した私のまごころを返してください」
「いや優秀には違いないと思うよ」
「一切働いてないのに言いますか」
「パチンコ店から出禁食らうくらいには」
「やらかしてんじゃねーか!」
「いや悪い意味じゃなくて、稼ぎ過ぎて勘弁してくださいみたいな。月1は入れてくれるけど」
「ええ…」
「しょうがないから市内のパチンコ店を回ったら他の街に遠征してたね。ナンパも現地調達で。夜のお店も新規開拓で」
「まず市内のパチンコのお店全部から月1って言われてる時点でおかしい。っていうかそれ無職ですよね? 住むところとかどうしてたんですか?」
「女の子に住所借りてた。たまに帰ってくるくらいだけど」
「あんたって人は…」
「まあお金入れてたから」
「いや働けよ」
「だってさー、真面目に働いたら金になんねーじゃん。8時間パチンコ・スロットやってたら30万50万出てくるのに、8時間働いたって1万円にもならないじゃん。よく皆それで生活していけるよね」
「世界中のサラリーマンを敵に回す発言ですね」
「そんな真面目な俺も最期はアル中死だったんだよね。世の中報われないよねえ」
「真面目って言葉を作った人に謝ってください今すぐに」
「呑み過ぎヤバいかなーって思ってたけど最期は眠たくて眠たくてスヤスヤだったからまあいーやって思ったけど」
「遊んで暮らして楽に死ねて『報われてない』とは」
「いやいや報われてないでしょう、だって寿命じゃなかったんだし」
「自業自得ですから!」
「そういう側近ちゃんはどんなだったん?」
「私ですか? 私はストーカーに刺されて死んじゃいました」
「あらー」
「まだ二十代だったのに…」
「そんときってなにしてたん?」
「えー? あの頃は普通のOLでしたね。大手に就職出来たからお給料も良かったしホワイトで繁忙期以外は定時帰りでしたし」
「彼氏は?」
「彼氏ですか? いましたよ? 大学生時代からの付き合いのが」
「付き合ってる人いたのにストーカーもいたの?」
「むしろいたからストーカーされたんですよ。キミは俺だけを見てればいいのになんであんなやつなんかって」
「ストーカーってどんなやつ?」
「確か隣の部署の部長サンでしたね。私はまったく話したこともなかったのにいつ頃からか仲がいいなんて噂流されたりして」
「きもっ」
「下着取られたときは警察呼びましたね」
「ぎえー。ごめんねなんか嫌なこと思い出させちゃって」
「いえいえもうぶっ殺しましたから」
「えっ?」
「最期刺されたとき胸に刺さってた包丁引き抜いて刺し返してやったんですよ。で、こっちにもその人来ててホームレスなもんだからざまあ(笑)って言ってやりましたね」
「この側近こええ」
「息絶えるときは彼の胸に抱かれて死ねたから良かったですね」
「俺が抱きしめてやろうか?」
「妊娠させられそうなので遠慮しておきます。つか前回人のことズリネタにしてるって言ってた人に抱きしめられたくないです」
「それもそうだな」
「魔王さまはこっちではどうなんですか?」
「こっちでは? うーんこっちでも働いたことないからなあ。まあ魔王やってる分前より豊かな生活だけども」
「レッツ労働!」
「やだよ。俺こっちの世界でも金持ちだし女の子もたくさんいるし。ひと悶着あったからなおのことあんまり多くに関わりたくねえ」
「なにやらかしたんですか?」
「俺がやらかした前提で話すのやめてね? やらかしたのはこっちの世界での俺のご先祖様だったんだ」
「ほうほう」
「俺のご先祖様がむかしむかし金貸しをやってたんだが、これがまたあくどい奴だったらしくて。法外な金利のいわゆるヤミ金で、返せない奴からは内臓なり家族なり売らせて金回収してたんだっと」
「わあ」
「この世界での実家は普通の家なんだけどな。ひい爺さんが孫かひ孫の代まで贅沢してられるほど金持ちだったのに麻雀賭博で土地有り金全部スッたとかで金無くなって」
「うわあ普通じゃない」
「でだな。ある日弁護士を名乗る男から呼び出されて俺と親父で行ったのよ」
「ふんふん」
「そしたらすっごい古い紙にすっごい古い字で、『金を返せない場合は長男に若く容姿の美しい女を利子として差し出せ』って書いてある契約書見せられたんだ」
「それ何年前の話なんです?」
「証拠がないからなんとも分からんのだけど、紙を鑑定に出したら億年くらいは間違いないらしい」
「ひえっ」
「まあ魔族は寿命無駄に長いからな。人間換算でも1000年は昔っつってたな」
「それでどうなったんですか?」
「家族の誰もそんなん知らなかったし、そんな昔の紙切れなんか博物館にでも寄付したら?っつったんだけど、血判押してある上にご先祖様から借りた金も返さないでバックレてるし、一応法的に有効だからそれは出来ないって」
「血判押させてるあたりやばいですね」
「しょうがないから多少のお金とお見合いでってことで親父と一緒にその契約書は破り捨てたんだよ。俺長男でその利子の女の子を貰う権利が発生してるとかなんとかで俺も巻き込まれたから」
「あれ? でも魔王さま結婚してないですよね? そんなあくどいご先祖様からお金借りるようじゃ借りた方もまともじゃなかったんですね」
「そう。そのめんどいやり取りして、お見合いした頃に魔王に選ばれてからこれはお見合い断る良いタイミングだって振った。なんか借金のカタにされたのに向こうノリノリというか、ぜひお願いします! みたいな感じだったけど俺はそんな気無かったからね」
「クズの血は消せないんですね」
「つっても俺に差し出された女の子も被害者だから就職先をあげたんだ。で今監督の横にいる俺の専属メイドがその子だよ」
「毒盛られないうちに謝っとこうかな」
「いや毒とか盛らないでしょ」
「だって…、出会いはどうあれそれ魔王さまに惚れてたじゃないですか。それをまともじゃないとか言ってたら青酸カリとか出てきそう」
「あの子お嬢様で育ち良いから大丈夫だろ」
「お嬢様なんですか?!」
「当時事業に失敗してて、ご先祖様が貸した金で盛り返したんだと。つっても闇金から金借りてるなんて知られたらよろしくないからバックレたと」
「なんで結婚しなかったんですか?!」
「いやだって普通の家と世界的財閥じゃ住んでる世界違うし」
「財閥のお嬢様を専属メイドにした感想は?」
「接しにくい」
「接しにくい?」
「身振り手振りも立ち振る舞いも俺とあの子でギャップ強すぎて、ねえ…」
「ああ〜。そういうのはありそうというかあるあるといいますか。まさに育ちが違うってヤツですね」
「ね」
「元の世界に帰りたいとかはないんですか?」
「帰りたい欲求から逃げるのが面倒くさい」
「帰りたい以前の問題かよ」




