四話:ついに逮捕された。
「準備って言っても、することなんてないよなぁ……」
「そもそもアニルレイなんて、獣人族以外から見れば未開の地だからな。そんな場所へ私たちがどんな準備をするのか見ているのじゃないか?」
「いや、キラ先生はそんな面倒なことしないと思うぞ……」
「冗談だ」
「分かりにくいな!」
アニルレイに行く準備しろと言われたのだが、パッと思いつく物がない。
獣人の街とは言え、街である以上宿屋も道具屋もあるはずだ。いざとなれば、あちらでなんでも揃ってしまう。
「……よし、レインさんが経営する服屋にやって来た。分かるな?」
「……私に似合わない格好を探すんだろ?」
「正解だ! くっそぉ……まさかミイラが似合うとはな! 顔を隠せば勝ちだと思ったのに!」
「うーん……あまり嬉しくない評価だよ……」
なので、俺とアーサはとある服屋に来ていた。
レインという、とても裁縫の上手い女性が経営する、簡単に言えばコスプレ用の服を多数用意してある店だ。
だが時々、武器や道具を仕舞うのに丁度良いベルトとか変装に役立ちそうな服とか、本当の掘り出し物があるのだ。
そして、確実に日本の奴が経営に関わっていたはずだ。ミニスカポリスとか、某有名RPGの勇者の服とか、白スク水着とか、見覚えのある物が沢山ある。
あ、もちろん普通の服もあるぞ。数は少ないけど。
「まぁ、俺にも似合う服はあったけどな」
「ああ、囚人服とか正神教徒の黒装束だね」
「具体名を出すなや! その二つが似合うってかなりヤバい奴だからな!?」
「シン、自己紹介になってるよ」
「くそっ……!!」
そういう危険人物になれる服を着て目力を込めた俺は、まさに殺人鬼のように見えるらしい。
レインさんも百年に一人の逸材だと絶賛してくれた。……正直全く嬉しくない評価だ。
「よし、そんなことを言うアーサー君にはこれなんかどうだい?」
「どれどれ……って女性用じゃないか! いや、流石に私でもこれは……」
偶然目に留まった女王様コスを、アーサーに笑顔で手渡す。
ちなみに、
「あー、これは男用の女王様コスプレだから大丈夫だよ。身体が男でも心は女性の人用だね」
「私は心も男なんだが!? とにかくこれは却下だ!」
注文の多い奴だな……。
お、これなんかどうだ?
「じゃあこれ、ナース……」
「まず女性用の棚に移動してから選ぼうか!?」
「いや、だからこの棚は心が……」
「だから私の心は男だ!」
そうか……ナース服を着たアーサーを見てみたかったんだけどな……。
写真を女子に売れば、すぐに小金持ちだ。金髪イケメンのアーサーは人気なので、どんな格好でもどこかに需要が発生する。
「な、何故か悪寒がしたのだが……」
「気のせいじゃないか?」
「そうか、それなら良い……お」
アーサーが、足を止めた。
「シンに似合いそうな服を見つけたぞ」
そう言って、黒っぽい布を渡してくる。
「え? いやぁ、やっぱり俺レベルになるもなんでも似合っちゃうからねぇ……」
「さあ、着てみたらどうだ?」
「えー、恥ずかしいよー。………………ねぇ、アホなの?」
アーサーが渡して来たのは、本当に黒っぽい布だった。
おい、服ですらないだろこれ。
「『カーテンの素材を活用した画期的な服。どんな着方、どんな姿にもなれます』と説明書きされてあるぞ。よってこれは服だ。諦めろ、シン」
「これはレインさんが悪いな!」
いやまぁ、カーテンを体に巻き付けただけってのは俺も知ってるけどさぁ……これ、ただの服を作る素材では?
というか普通にカーテンとして使うべきでは?
「てか本当、いつ来ても飽きないよなこの店は」
「男物が少ないのが難点だがな」
「ま、その場合はモンスターとかになればいいから」
「なるほど、それで私はこの前ミイラにされたのだな」
いや、あの時は男物がなかったから着せたわけじゃないけど……。
ま、言わぬが花ってやつだな。
「どうだシン? お互い相手の服を選んでみるのは?」
「おお、それは良いかもな。もちろん、ふざけなしだろ?」
「ああ、そうしないと服ですらない代物を持ってくる気がするからな…………」
「それは俺のセリフなんだがなぁ……」
さっきカーテンを渡されたこと、俺はまだ覚えているよ?
♦︎♦︎♦︎
「……シン、この服は着るのがとても難しいんだが……」
「あー、じゃあ俺は店の中周ってるからさ、着替えが終わったら叫んで呼んで?」
「この服を着て叫んでたら、私は本格的に連れて行かれるぞ……」
「大丈夫だろ。王子なんだし」
帝国の王子様は無責任に放っておいて、俺は店内を物色する。
というのもこの店が扱っているのは服だけではなく、他の製作者から譲り受けた骨董品やら食器やらも売ってあり、そのため店内はかなり広い。
経営者は恰幅の良いオバサ……お姉さんであるレインさんだが、商品は本当に様々な人が作っているのだ。
店を出す前に反応を少しだけ調べたい若者や、あくまで趣味で作っているだけで、店を出すほど在庫がある訳でない老人。
子供の作った折鶴が売られていた時もあり、折り紙を折った子が売り子をしていた。ちなみにすぐ売り切れた。
集結した紳士たちのおかげだ。
「ほんと、見てて飽きないよなぁ……」
アーサーの用意した服は、予想に反して普通の服だった。
というか、俺が選んだ服と考えてることが同じだった。
「しっかし久しぶりだなぁ、これを着るのも」
アーサが選んだのは、執事服。白い手袋まで完備。アーサはきっと、俺に似合わないと思ってこれを選んだのだろう。
だが残念なことに、俺はこれを何回か着たことがある。
いくら公の場に出ないとは言え、俺は護衛としてエミリアの側にいなければならない。
そんな時、これを着てただの使用人に変装したりしていたのだ。最初こそ慣れなかったが、今では完璧に執事をこなせる。
まぁ、似合っているかは別問題だと思うが。
ちなみに、俺がアーサがに選んだのは着物。だが浴衣とかではなく、戦国時代の大名が着るような、一人で着るのは面倒な服だ。
アーサーに似合わない物を考えていたら、結果的にそうなった。
結局、両者共に、相手に似合わなそうな物を考えて選んだんだな。
「できたです!」
「おぉ…………」
「わぁ…………あれ? でもこれって……」
「さすが本職と言った感じですね。どうです、少し歩いてみては」
俺がのんびりとブラブラ歩いていると……
「キャッ」
「っとと……大丈夫ですか?」
──曲がり角で、女の子とぶつかった。
ぶつかる直前によろけたのか、女の子は勢いよく飛び込んできた。俺は慌てて抱き支える。
その女の子は……お姫様か? 物語に出てくるお姫様が着てそうな服だ。今すぐに勇者召喚とかしそうだ。
…………あれ?
「あ、ありがとうございま…………」
その女の子が、顔を赤くしながら顔を上げる。
…………。
…………。
「「…………」」
至近距離で見つめ合って、固まる俺たち。
咄嗟に受け止めてしまった少女は、お姫様の格好をしたエミリアだった。
「「「…………あ」」」
少し向こうから、三人分の少女の声。
見ると、動きやすいようにか、下をスカートにしている浴衣を着たレイ先輩と紫苑。腰に手錠をつけた警察の格好、それもミニスカという中々マニアックな格好の雪風がいた。
「「「「「……………………」」」」」
お姫様姿のエミリアの手は俺の胸元にしがみつくようにあり、執事姿の俺の手はエミリアの細い腰に回っている。
「…………取り敢えず逮捕、です」
──ガシャン。
ゆっくりと近づいてきた雪風に逮捕された。
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