表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

93/344

零話:武闘会決勝

三章の本編前に、武闘会決勝戦の様子をどうぞ。

 

 武闘会、決勝戦。


「はあっ!」


 空気を固めたブロックを足場にすることで空中を飛ぶエストロ先輩を、雪風が下から弾丸のように斬りかかる。

 だが、雪風の速度でもエストロ先輩は難なく避けた。

 勢いを止められず、遥か上空に打ち上がる雪風。

 そうすれば、俺は地面に一人取り残されることになり……


「シンッ!」


 雪風同様、俺も地面を蹴って、エストロ先輩に一太刀浴びせようとした。

 だが、それは予想通りだったのか、エストロ先輩は空中のブロックからヒョイと降りる。


「なっ……」

「単純な剣の戦いになれば私が勝つのは道理! 誤ったなシン・ゼロワン!」


 俺の刺突は、水に流されたような奇妙な感覚と共に受け流され、代わりにエストロ先輩の刃が喉元に迫る。

「む?」


 ニヤリと、俺は笑った。

 訝しげに眉を潜めるエストロ先輩。

「エストロッ!」


 叫ぶアイリス会長の声に、エストロ先輩は瞬時に反応した。

 アイリス会長が作った空気のブロックを使い、俺から遠ざかる。

 だが、エストロ先輩の腕には一本の赤い線が刻まれた。


「何っ!」


 エストロ先輩の目が、驚愕に見開かれる。

 突然だ。

 何故なら、彼女がここにいることは普通あり得ない。


「避けられたです……」


 エストロ先輩に攻撃したのは、俺の身体から上半身だけ出した雪風だ。


「精霊術師!? そ、それはありなのか!?」


 そう、俺たちはあの日に契約した。

 幸い、俺には精霊術師になれる素質が多少はあったようで、契約自体は割とすんなりいった。

 だが、精霊など扱ったこともない俺には精霊術というものがいまいち分からない。

 しかも、精霊術による戦いを選んだ場合、雪風の速度という強みが完全に消えるので、結局の戦い方は契約前とほとんど変わらない。


『あり……なんでしょうか?』

『うむ、なし、という規約はないからの。そもそもな、誰だろうと一人の生徒、精霊だとかは関係ないのじゃ』

『な、成る程……とのことです、エストロさん』


 放送委員だかの女子と、何故か解説役を任されているキラ先生が精霊術師について話をした。

 無論、俺たちは契約する時に出場規約を確認済みだ。

 だから俺たちは精霊術師が認められて動揺するなんてことはないが、エストロ先輩たちは違う。


「し、しかし精霊側がいつでも精霊術師の身体に入れるのはズルくないか!?」

「戦い方も精霊術師ならば話は違ってきます!」


 大きく狼狽(うろたえ)ていた。

 俺と雪風に比べて、二人は連携がとても取れている。

 だが、俺たちが精霊術師だと聞いて、その優位な点がなくなったと思ったのだ。


「ああ、それは狡いだろ」「ええ……やっぱり、呪いなんて使うくらいだし……」「……卑怯」


 観客も、それはどうなんだと口々に言う。ちなみに、呪い事件の犯人はまだ分かっていないことになっている。つまり、容疑者はまだ俺ってことだ。

 だが……


「黙れお前ら! いいか、戦場とはそういうものだ! 手札を隠し、それをいつ切るか! 戦場で起きたことに文句をつけるなど三流のすること! 私は、先程動揺してしまった自分を恥じる! 勘があまりに鈍くなっているとな!」

「「「…………ッッッッ」」」


 他でもないエストロ先輩が、それを一喝した。

 一瞬で、静まり返る会場。

 そんな緊迫した空気を、果たして読んでいるのか読んでいないのか、ふと呑気な声が響いた。


「ま、どっちにしろ、両組ここまで実力で上がってきたんだ! この決勝戦で本気を出せば良いんじゃないかナ! やー、おじさん目の前の青春(あおはる)に涙が……っ!」


 この会場の天井には穴が開いていて風通しが良くなっているのだが、その穴の淵に、小さな人影があった。

 当然、立ち入り禁止の場所だ。

 拡声器の魔道具でも持っているのか、彼の声は会場全体に響く。  

 すると途端に、会場がざわつき始める。隣国の重役や王族まで、慌てたように腰を浮かせていた。


『ライゼン王!?』


 放送委員の子が、観客たちの声を代弁する。

 だが、それに対して解説役のキラ先生は……


『おお、エミリアの父上じゃな。なんじゃ、暇なのか?』

『ちょ、ちょっとキラ先生!?』


 気の置けない親友のように話しかけた。

 いや、やめてあげろよ……。放送委員の子、涙声だぞ。


「ははっ、さすがはキラさんだ……。ありがとう」

『あ、ありがとう……? キラ先生、どういうことですか?』

『あー、なんじゃ、あれはライゼン・ハンゲル王じゃなくて、エミリア・ハンゲルの父親じゃ。そもそもな、王様がこんな所に一人で来るはずもあるまい』

『え? ええっ…………? ……あっ、な、なるほど……』


 さすがは放送に携わるだけある、一瞬で状況を理解し、慌てた様子もなくなった。

 そうだ、あれは気の良いおじさんで、王様とかではない。

 自分を王様だと思っている、ただの高い所好きなおじさんだ。……何そのヤバイ人。


「というわけで、おじさんが弁償するから四人とも本気を出したら?」

「……いいんですか?」

「いいよいいよ。……例の話は聞いている。となれば、人に隠す必要もないだろうさ。……ま、というかむしろ今こそ出すときなんだヨねぇ……」


 そう言って、ライゼン王は引っ込んだ。観客席に戻るのだろう。

 途中、重要そうな情報を少しだけ見せるのは、さすがの手腕だ。外交面で、出せる手数が増えたことになる。


 だがそんなこと、政治と縁を切った娘には関係ない。

 頭を回してみると、頭を抱えるエミリアを見つけた。口元が、「もうやだぁ……」と動いている。読唇術なんて会得していないが、これはなんとなく分かった。

 …………可哀想に。


「王様……じゃなかった、ライゼンさんも中々エゲツないな……」

「まぁ、じゃなきゃこの国が成り立たないんで仕方がないですけどね……」


 近くによってきたエストロ先輩は、苦笑していた。

 王様が観客席に戻るまでは休戦ってことか。


「考えてみれば、私もお前も軍人。しかも、お前は王女の護衛だ」

「各国重鎮がいる中で、わたくしたちが本気を見せる。これほどの牽制はないのでしょうね」

「…………雪風、赤の他人なんですが」

「まぁ……多分王女の護衛が契約した精霊って認識だと思うから……うん」


 この試合で王様が何を言いたいかといえば……


 ・王女つまりエミリアに婚約を申し込むときは、少なくともシンと同等の実力を待て。


 ・この四人全員ハンゲル王国の国籍を持つ()()だけど、それでも戦争仕掛けます?


 ・この学院に入れば、こんなに強くなれるかも!


 の三点か。

 俺を基準にされるのは恥ずかしいが……まあ、俺に勝てない奴がエミリアの護衛なるのは俺も許せない。

 それに、俺もそれなりに強い自信はある。なにせ、師匠の弟子だ。冒険者ランクで言えば、Aランクはあると思っている。


「…………ま、お互い怪我しない程度に、本気で殺し合いましょう」

「ふふ、なんというか……お前らしいな。怪我しない殺し合いか……ふふっ……」

「この前、雪風を全裸にしたシンが言うことじゃないです」

「ふふっ確かに面白……あの、今何をおっしゃいました?」


 …………。

 …………。

 何爆弾発言してくれてるんだ。いやでも、二人にしか聞こえていないのが幸いか……。

 この二人なら、何も聞かないでくれるだろうし……


「エミリア様を差し置いてお前は何をしているんだ?」


 …………。

 …………。


「さ、始めますよー!」

「あ、おい! 後で話は聞かせてもらうから覚悟しとけよ!」


感想評価お願いします、

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ