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四十一話:仲間

 

 雪風から刀を没収した俺は、雪風に手を差し出した。

 だが雪風は、俺の手を取るどころか完全に硬直してしまっている。


「なんか……俺のせいなんだが裸にしてごめんな」

「…………」

「……本当にごめん。色々と…………うおっ!?」


 ──ガバッ!


 惚けた表情だった雪風が、突然俺の手を掴んで引っ張ってきた。

 咄嗟のことでまったく抵抗のできなかった俺は、そのまま雪風に向かって倒れ込んだ。

 俺を、力強く抱き締める雪風。俺の胸元に顔を埋めてきた。


「うっ……グス………ううっ……」

「…………」


 俺には、そんな雪風の頭を黙って撫でてやることしかできない。


「ごめんっ……なさいっ……、雪風は、雪風はあなたを……っ!」

「……大丈夫だ、俺は生きてる」

「でもっ……でもっ……」

「……ああ。雪風は、俺を殺した。その事実は変わらない。……でもな、今の雪風は過去の自分も殺した。なら、もう俺たちが戦う理由はないよな?」

「…………うん。もう、雪風は誰も殺さない。誰も殺さなくていいのです」


 正直言って、これは賭けだった。

 あの魔法が発動しなければ、俺は死んでいたのだから。


「…………先生、ありがとうございます……」

「…………?」

「いや、こっちの話だ。お前は休んでろ」

「んんっ……ありがとう……なのです……」


 俺は、身体を起こして胡座(あぐら)をかいた。

 頭を俺の足に乗せた雪風、その髪を撫でてやると、目を細めて次第に呼吸が落ち着いて、とうとう寝息を立て始めた。


「……これが、先生から受け継いだ力……」


 ふと思い立ち、手から黒い魔力を出してみた。

 正直、理論は分からない。これはきっと、遺失魔法なのだろう。説明のつかない奇跡の魔法だ。


「…………」


 〈ストレージ〉から、あの時の手紙を取り出す。

 そして、師匠からの手紙、その最後の言葉の部分に目をやる。


『師レイ・ゼロより、愛弟子シン・ゼロワンへ、最期の贈り物をここに遺す』


 心臓を貫かれた瞬間、この言葉が頭に思い浮かんだ俺は、一か八かで初めてこれを読んだ瞬間に受け継いだ魔法を使用したのだ。

 今日が、初めての使用だ。

 そして…………死んだ。呆気なく死んだ。

 ……だが、話はここからだった。

 死んだ俺は、幽霊のような状態で自分の死体を見ていたのだ。勿論、雪風が俺の隣に寝転び、自害しようとした瞬間も。


 状況が動いたのは、俺が、雪風に死んで欲しくないと願った時だった。 

 その瞬間、気が付いたら俺は生き返っていて、自分の真下に雪風がいた。だからこそ、雪風の胸を貫こうとしていた刀の柄を掴めたのだ。


「予約制の蘇生魔法ってわけか……」


 この魔法の本質は、まだ見えない。何故、死んだ瞬間に生き返らなかったのか。何故、生き返った時に傷が消えていたのか、分からないことだらけだ。

 だが今は、そんなことよりもこの余韻に浸っていたかった。


「これから、一緒に新しく生き始めればいい」


 雪風が自分の中で決着を付けたことは、俺は既に確信している。

 ()()()()()()()の赤子のような、そんなあどけない寝顔を見れば、それくらい分かる。

 ふと、雪風に視線を落として……

 

「…………裸、だよなぁ……」


 ……。

 …………。

 死んだばっかりなのに元気な息子だ。自重しろ。


 ♦︎♦︎♦︎


「そりゃここまで派手にやればな……」

「ッ…………!」


 地上に出た俺たちを出迎えてくれたのは、エミリアでも紫苑でもない、正神教徒たちだった。

 今なら分かる、奴らは雪風を追っていたのだろう。

 雪風の居場所は分からなくとも、この場所だけ氷の世界なっていれば怪しむ。

 雪風を探していたところに、俺たちが丁度出てきたってわけだ。


「……やべえな。慣れない遺失魔法二連続で魔力が空っぽだ……」


 いつもなら余裕で勝てる相手も、今の状態じゃ勝てそうにない。

 それは、雪風も同じはずだ。だが彼女は戦おうとした。


「な、なら雪風が…………」

「いや、待て」


 自分が戦おうと、前に出ようとする雪風を、俺は引き留めた。

 ちなみに、雪風は服をしっかり着ている。もしもの時のため、俺が〈ストレージ〉に仕舞っていた衣服を着せたのだ。なんなら、その上から師匠のローブも身に付けている。

 勿論、俺もボロボロで露出の激しい制服から、〈ストレージ〉にあった予備の服に着替えている。


「雪風、お前がいなくなったら俺は今立てないんだわ。お前も疲れただろ? 肩を貸してくれるだけで良い」

「で、でも…………」

「雪風、仲間って、すごいと思わないか?」

「…………?」


 キョトンとする雪風。俺は苦笑し、上を指差した。

 釣られて上を見た雪風の顔が、驚きに染まり、そしてその直後泣きそうな表情に変わる。

 俺だって、泣きたい。くそっ、全部良いとこ持って行きやがって……。俺の立つ瀬がねぇだろ。


「いやぁ、シンくんに仕掛けてた魔素探知機のおかげだね! 異変に気付いてお姉さん超特急でやってきたよ!」

「シン、雪風ちゃん! ごめんね、遅くなって!」

「は、はぁぁ……ひ、人を運ぶなど、久し振りすぎて妾でもさすがに疲れたのじゃ……というか案外龍化できたな、妾」

「その様子、全て、解決したのでござるな」

「グラム様の友達に手を出そうとは良い度胸にゃ!!」


 空には大きな龍が羽ばたいており、その背中から四人の少女が顔を出していた。


「お疲れ様、シン! 雪風ちゃん!」

「雪風殿、あとは任せるでござるよ」


 俺たちの目の前に着地した龍の背から、紫苑とエミリアが飛び降り、俺たちを二人がかりで支えてくれる。


「ま、お姉さんが放棄したせいで倒せなかった奴らだしね、尻拭いくらい任せて任せて!」

「いつまで経っても、変わらんのぉ……お主ら正神教徒は……せめて苦しむな」

「キシャーーー!! フシャーーー!!」


 龍弥を解いたキラ先生、スーピル、グラムの三人が周囲の正神教徒を一掃した。


「ははっ…………分かっただろ? これで」


 グイッと雪風を引き寄せて、そう聞く。

 答えは、考えるまでもない。


「……はい。雪風は、雪風は………やっと()()()()のです!!」


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