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三十八話:雪風VSシン(1)


 戦いは、熾烈(しれつ)を極めた。

 雪風が俺に斬撃を浴びせ、俺は雪風を魔法や体術で遠くに飛ばす。

 俺も雪風も、防御や回復に使う魔力を、全て身体強化や攻撃に回していた。だから、既にお互いの服はボロボロ。二時間近く戦い続けて体力も限界だ。

 雪風のマントも俺が着る師匠のローブも、擦り切れ、穴が開き、端が炭化していた。

 雪風は、フードを被っていない。

 

「雪風の生き方なんて、一つしかないのです! 元々、選択肢は一つなのです!」

「違う! その人その人の人生の結果が生き方だ! 生き方に選択肢も何もない!」


 空中で、高速のぶつかり合いだ。

 すれ違い様にお互いの刀を切り結び、言葉を切り結ぶ。

 手に持つ刃物より、言葉の方が鋭利に相手の身を切り、その中の心を露わにする。

 俺も雪風も、殺し合いとか戦闘とかはどうでもよく、ただ自分の意見を相手に分からせるために傷付け合っていた。


「なら、教えて欲しいのです! 雪風に、雪風には……人を殺す、それ以外の生き方なんて分からないのです!」

「なんで一つしか見えねえんだ! しがらみも規則も全部ぶっ壊して、自分のやりたいようにすれば良いじゃねぇか! 過去と今は全くの別物だろうが!」


 俺なんか、こっちに来てからは守った規則の方が少ないくらいだ。


「紫苑はなぁ! ただの兵隊なのに、王女に喧嘩ぁ売ったんだぞ!」

「────ッ!」


 エミリアにその気はないだろうが、紫苑はちゃんと理解しているはずだ。

 俺とエミリアは、元婚約者で現交際相手。それの持つ意味は、かなり大きい。

 責任を取ってくれというあの言葉は、不敬罪などに問われても文句は言えない。

 一度冗談交じりに聞いてみた時には、不敬罪だろうがなんだろうが、エミリアも巻き込んで認めさせると豪語した。


「生き方が分からないのなら、自分のしたいことをすれば良い! したいようにして、失敗したら謝ればいい! そんなことできんのって子供のうちだけだぜ!」


 その結果、俺は二十五番隊に配属された訳だが……正直言ってあの時の俺を褒めたい。

 注目度の高い一番隊、あまりに無意味な規則の多い二番隊、覇気のない三番隊、コネ使いが多い四番隊…………。全部、俺には合わなかった。


「そんなの、理想論です!」


 雪風の一撃が、俺の肩を掠める。

 結果は少量の出血、だが、事実はより重大。これは戦闘において重要な意味合いを持っていた。

 段々と、俺の体力が限界に近づいていた。二刀流の雪風、二倍の手数に徐々に対応できなくなっている。


「理想論じゃねえよ……全然、理想論じゃない」


 自分のしたい事を目標に定める、そんなのが理想であって良いものか。

 誰しもが、意識、無意識、普通にやっている事だ。

 そんな簡単な事も、雪風は出来なくなって、忘れてしまっている。雪風をこうした奴を、今すぐここに呼んで引っ叩きたいくらいだ。


「お前の目標はなんだ! お前は何がしたいんだ! 生徒を気絶させる事が、お前の目標を叶えるためになるのか!?」

「だからっ…………」


 俺の放った〈極炎魔法〉、それを闘気だけで散らしながら雪風が斬り掛かってくる。この闘気のせいで、雪風に範囲魔法はほとんど効かない。

 無属性魔法である〈魔弾〉を放ちつつ、雪風が避けている隙に俺はその場を離脱、隣の木へと移った。

 さっきまで俺の立っていた木が、〈魔弾〉と雪風の斬撃に耐え切れず、ミシミシと音を立てて倒れて行く。


「それが分からないから困っているのです!」

「なんだよ……………………困ってんじゃねえかよ……」


 こちらに倒れてきた木を爆散させ、俺は天を仰いだ。それは、涙を堪えるためとかじゃない。言い表せない感情が溢れてきただけだ。

 それと、雪風の刺突を回避するため。

 俺は、躊躇せず木の枝から落ちた。驚いた顔の雪風が、青空を背景に無防備な腹を曝け出している。

 

「…………っ!」


 無詠唱による〈魔弾〉だ。雪風が吹き飛び、直接手で触れて放った反動か、俺は地面に叩き付けられる。

 即座に跳ね起き、雪風の追撃を受けた。

 ……速い。あの距離を、一瞬で詰めてきた。

 

「精霊の雪風に親はいないです。だから──」

「人を愛する心を知らないってか? …………それ、マジで言ってんのか?」

「ッッ……!」


 本気で、心の底から思ってるんだとしたら、俺は流石に怒りを抑えきれない。

 雪風にではない、雪風をこうしてしまった世界に対してだ。


「大体、お前を助けてくれた人間はいねえのかよ。それともお前の周りの奴らは、美少女の助けを呼ぶ声すら無視する冷血動物なのか?」

「違う……です!」

「だろ? 何、一人で自分が悪いって決めつけてんだよ」

「決めつけてなんて……」

「いんや決めつけてるな。俺なら、生き方が分からないのは他人が悪い! だから他人を見返してやる! とか思う。それと、隙だらけだ」

「ッ!?」


 斬り掛かってくる雪風。隙だらけの彼女の胴体にそっと手を当て、〈魔弾〉を放つ。

 吹き飛ばされた雪風は、しかし、


「無傷……です?」

「ああ、同時に回復魔法もかけといたからな」


 赤い線がいくつも入っていた白い肌が、今ではすっかり綺麗になっている。まぁ、破れてズタズタになった服だけは元に戻せないがな。

 雪風は、不思議そうな表情をする。俺が、こんな事をする理由が分からないのだろう。


「……殺しを頼まれたのは初めてか?」

「初めてですが……殺しじゃない、です」

「うん?」

「実力を測る、それが命令です」

「命令、ねぇ……。まあでも、やっと合点がいった」


 雪風には、アリバイがない。誰もその事に『不自然なくらい』気が付いてはいなかったが、それもエストロ先輩が操られていたからだと、俺は推測している。

 しかし、何故二人を操ったのかは分からなかったのだ。だが、今になってやっと分かった。

 あの人とアイリス会長のカリスマ性、それによって、俺を犯人に仕立て上げようとしたのだ。

 そして、俺が怒って本気を出す。それがこいつの描いたシナリオだろう。


「まぁ、流石に冤罪くらいでキレたりはしねぇよ」


 師匠にエミリアやレイ先輩、彼女らに被害が出るまではの話だが。


「……あの時か、操ったのは」


 恐らく、最初にあの二人に会った時。雪風の投げた石がエストロ先輩に当たっていたが、その瞬間に操ったのだろう。

 雪風が操っていたのなら、雪風が寝ている時だけ、つまりエストロ先輩と夜の見張りをしている時だけ、先輩に違和感がなかったのも納得がいく。


「俺を断罪する時にエミリアを巻き込んだのは、俺の本気を見るためか」

「……………………」


 雪風の反応が、鈍かった。

 ────やはりか……


「本当なら、エミリアや紫苑を攻撃すれば良い。あいつらには、呪術抵抗の固有スキル・能力はないしな」


 それは、スペックプレートを確認したキラ先生に教えてもらった。


「一緒に王都を散歩した、友達、だもんな」

「…………ッ!」

「そう怖い顔するなって。友達を殴るのことを躊躇する気持ちは分かる」

「うる、さい、ですっ!」

「おっと、大振りになってるよ。あとはそうだなぁ……キラ先生とかとも話してみたらどうだ? 何百年も生きてるからな。人生経験も豊富だ。話してみるだけで価値があると思うぞ」

「いいから、黙るのっ、です!」


 二刀流最大の利点である、手数の多さと速度。

 それも、大振りになってしまえば見る影もない。


 俺の言葉が聞きたくないという事は、そこに認めたくない何かがあるという事だ。


 もう体力がないとか、そんな事は言ってられない。俺は、俺のためでなく雪風のために、この勝負に勝たなければ……いや違う。


 雪風が、自分自身のために、この勝負に決着をつけなければいけない。


「なんで、助けての一つも言えないんだよ……」


 隙だらけの胴体に蹴りを入れると、吹き飛ばされた雪風が溢した涙、その軌跡が一瞬見えた気がした。


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主人公のまともな戦闘回ってもしかして初めてかも……。

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