表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

72/344

二十八話:似た者同士

 

「…………」

「…………」


 お互い、何も喋らない。

 エストロ先輩は凛とした表情で前を向き、その歩く姿はとても堂々としている。


「あの、何か悩み事でも?」

「……悩み事、か…………」


 だが、あまりにも堂々としすぎている。

 それはまるで、空元気のようにも見えた。

 だから、俺は尋ねたのだが……やはり、予想は当たっていたようで、躊躇いがちにエストロ先輩は口を開いた。


「すまないな、シン」

「……。何がです?」

「いや、我々がお前を疑っている事だ」


「えっと……それはつまり……」

「ああ、これは内密な話だが、あくまでこれはパフォーマンスだ」

「パフォーマンス」

「ああ、詳しい話は……着いたぞ、ここでする」

「ここ?」


 特別生徒寮の四階右手奥、場所としては、俺たちの部屋の丁度真上、その反対側だ。

 部屋の中は、俺たちの部屋と変わらなかった。左右に寝室だろう部屋が用意されていて、中央は居間になっている。

 だが、なんというか……俺たちのところよりも、少しだけ豪奢だった。

 やっぱり俺たちの部屋は、敢えて少しだけ質素にしてもらってるんだな。ちょっと、この学院を見直した。


「シン、何か飲むか? と言っても、そんなに種類はないが……そうだ、少し前に知り合いから酒を頂いてな。私にはまるで分からんが……色が綺麗で気に入っているんだよ」

「じゃあ……それを頂けますか」

「よし、私も飲むのは初めてだが……まぁ、色が綺麗だから美味しいだろう。多分」

「不安しかねぇ……」


 いやまぁ、俺もお酒なんてほとんど分からないんだけどな。

 マスターの店に行っても、果実ジュースしか頼んだ事がないかも知れない。まぁ、新作の味見とかはよくやってたけど、それでも少量だ。

 エストロ先輩は、酒杯に琥珀色の液体を注いで、それを掲げた。

 軽やかな陶器の音が鳴り、まず俺は匂い嗅ぐ。


「そう警戒しなくとも、毒などは入ってはいない。グラスが怖いのなら、回し飲みしても良いが?」

「いや、ちょっと癖が出ただけなので大丈夫ですよ」

「ほう……公には決して姿を見せないと評判だったが、飲み物を渡される事などあるのか?」

「どっちかって言うと、王城に住む前ですかね……」


 師匠の作った料理が本当に安全か調べたりとかな。まぁ、そもそも転移する前からの、俺の癖でもあるけど。


「んで、それより話って?」

「ああ…………単刀直入に聞こう。私たちは政敵ではない。同じ、一人の主君を守る者として一つ聞きたい」

「……………………」


 エストロ先輩の目は本気だった。

 これは、エミリアとの間でしている演技特訓の時、キラ先生や紫苑がする目と似ている。

 まさか……エストロ先輩まで、偽装恋愛だろう?とか聞いてくるんじゃあるまいな……?


「私を……私を操っていたのは、お前か?」

「…………へ?」


 ん?


「その反応、やはり違うようだな……。そうだろう、お前は男だもんな」

「あの、色々言いたいことはあるのですが、その『男だもんな』に言い知れぬ不安を感じるのです、はい」


 男だから操らないって……何か男に対して大きな誤解をされているような気がする……。

 アイリス会長も、エストロ先輩も女性だ。だから、男性に対して何か誤解していてもおかしくはない。

 アイリス会長に至っては、見るからに箱入り娘のお嬢様だしな……。剣を極めるエストロ先輩は、そういった事に疎いだろうし。


「ああ、これはアイリス様の言葉なのだが……『男が女性を操ればする事は一つ!』らしい。つまりだな……その、私がお前に性的奉仕?というものをする、とか……」

「やべえ……ここまで顔が引き攣ったのは初めてかも知れない……」


 エストロ先輩の主人で、しかも多分悪意の欠片もない純粋な意見だろうから我慢したが、これが悪意満載のキラ先生とかなら今すぐ抗議に行くレベルだ。

 お酒か、羞恥か、仄かに頬を赤く染まるエストロ先輩に、俺は溜息をつきながらそれを否定した。

 あ、と言っても、俺が否定したのは『操ったらそういう事をさせる』ではないぞ?

 それを否定してしまえば、また俺が操ったのではないかと思われてしまうからな。


「あのですね……エストロ先輩でしたら、やる事が一つじゃないのは分かるでしょう」

「…………そうだな、まず、何かの契約を交わすはずだ。まだまだ未熟だが、私の力を欲する者は多い……成る程」

「でしょう? だから、俺は違います」

「確かにそれであれば、お前は違う。お前は、私の力を必要としていないしな」

「あー、まぁ、はい」


 正神教徒関係で、今まさに戦力が欲しいだなんて言えない。

 確か、あの件は二十五番隊が担当すると聞いた。

 一番隊のエストロ先輩とは言え、一番隊は関係ない以上、話が回ってきていない。

 ああいや、もちろん、普通なら通達される。だが、通達すれば二十五番が担当している事も伝えなければならない。

 しかしそうなると、あいつらに任せられないだの、自分たちがやるだの、面倒な事になるからな。

 確か、隊長間だけでしか共有されていないとか。


「それに、お前はシオンという子と付き合っているのだろう?」

「……っ!? ごっ、ゴホッゴホッ……! な、何故それを!?」

「? 忘れたのか? 私はお前を見張ると言ったはずだぞ? 早朝、校舎周りを見回っていたら偶然な。あの状況から助けるのは流石だったよ」

「あそこにいたのかよ……」


 まじか…………全く気が付かなかった……。

 あの時は色々と混乱していて、周囲に気を配る余裕なんてなかった。

 うわぁ……これ、紫苑には絶対聞かせられないな……。あのこっ恥ずかしい台詞を聞かれていたとか、普通に笑えない。


「そんな男が、私のような暴力女を性欲の捌け口に操るわけがないな。すまない、変な事を聞いた」

「ああいえ、むしろなかった事にしてもらいたいのはこっちと言うか……」

「そうか、では、今のは無かったという事に。よし、私は全て忘れた。さて、なんの話だったかな?」


 まだ一杯目も飲んでいない。酔いが回っているなんて事はないだろう。

 エストロ先輩は、パンッと一つ手を叩き。楽しそうに目を細める。


「ええと、先輩が誰かに操られていたという話ですが……それは本当ですか?」

「らしい、な。生憎と、私はよく分からなくてな……。アイリス様曰く、いつもと少し違ったらしいが」

「ああ、それは俺も感じましたね。特に、大勢の時に違和感を感じました」

「そうか……ふむ……」

「…………今は、なんともないんですか?」

「ん、ああ……多分大丈夫だ。軽い幻術のようなものだったらしいからな。こう、フンッと気合を込めれば一発だ」

「魔術師的に許せない解決法だ……」


 原理としては、体内の魔力を活性化して、幻術という体内の毒素を抜いた感じだろうけど……。

 魔力消費が激しいから、俺たち魔術師からして見れば論外だ……。

 魔力の消費が少ない剣士ならではの、脳筋的解決法。やっぱり物理は最強なんだね……。


「まぁ、犯人に関して、私は追うつもりもない。実害があった訳ではないしな。アイリス様は意気込んでいるが……」

「お互い大変ですね……。自分の事で怒ってくれるのは嬉しいですけど……」

「全くだ……。私たちとしては、自分たちはどれほど傷ついても良いから、大切な主人には安全でいて欲しいものだがな……」


「「はぁ……」」と溜息をついて、酒盃に二杯目を注ぐ。

 慣れていないアルコールが回ってきたのか、俺もエストロ先輩も少し酔っていたのだろう。

 その後も、苦労話に戦闘話、魔物や魔獣の話など、会話は大いに盛り上がった。果てには、主人への愚痴まで。

 時間の経過は分からないが、酒瓶は一つ空いていて、二つ目も半分になってきた頃……


「……シン、すっごく不満だらけなんだね」

「あらあら……わたくし、エストロの本音を聞いたのはこれが初めてかも知れませんわ」

「「っ!?」」


 気付けば、主人二人が、生暖かい目でこちらを見下ろしていた。


感想評価、お願いします!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ