二十七話:容疑者
二十五番隊の兵舎が消えてから、およそ二週間が経った今日。
朝食を食べ終え、出かける準備をしていた俺の念話石に、スーピルから通話が届いた。あの日配られた、仕事用の念話石だ。
『ヤッホー!! シンくん! エミっち! 元気してるー?』
「あ、スーピルさん! 私は元気ですよ!」
「……スーピル、まだ朝ですよ? ちょっとテンション下げてください」
『あ、そうなん? いやぁ、連日戦ってるとねぇ! 相手のことをなんか気にしなくなるよねぇ!』
「……あの、シン。念話石の向こうから爆発音が聞こえてるんだけど……」
『よく気が付いたねエミっち! うん、絶賛戦闘中! でも、幹部は出てこないし、倒しても次の日には補充されてるし、お姉さん萎え萎え……』
「戦闘中って……余裕ですね」
実は、スーピルとカイヤの二人は今、正神教徒の足止めをしている最中だ。
頭の回転も早く、精霊術師で何でもこなせるスーピルは、幹部について情報がない今、一番戦場に必要な人材だ。
戦闘好きで、傷付けば傷付くほど力を増す固有能力を持つカイヤは、終わりの分からない乱戦においては最強レベル。
さらに、ストッパー役(をこなせるとは思えない隠れ戦闘狂)のコウもいる。
『いやぁ、私は雑魚処理を任された感じだからね。中には手応えが豆腐の奴もいるけどさ。強い相手にはカイヤくんが適任だから仕方ないけども』
「じゃあ幹部とはカイヤが?」
『あ、ううん。カイヤは幹部の下の連中。大司教とか司教の下ってなんて言うの?』
「いや……俺に聞かれても……とにかく、取り巻き連中って事ですか?」
『うーん……正確には、取り巻きの部下って感じかな……』
「……正神教徒の戦闘部隊?」
『お、そうそう! それだよそれ!』
正神教徒には、いくつかのレベルがある。と言ってもこれは、便宜上こちらが定めたレベルで、彼らがどう思っているかは知らないが。
まず、一番上の幹部。宗教なのでつまり司教だ。これは最悪で、討伐での最高記録でさえ、Sランク冒険者が二人。しかも片方は死んでいる。
冒険者ランクなら……Sに収まらない事は確実だ。
その下に、司教の取り巻き連中。こいつらの中には、英雄になれなかった英雄や英雄のコピーがいたりして、冒険者ランクならA〜Sは下らない。
その下が戦闘部隊と呼ばれる奴らで、宗教で言えば、普通の聖職者だ。だがそれでも、冒険者ランクならB〜Aだ。
数が多く、こいつらと戦って生き帰るためには、Aランク冒険者並みの力が必要と言われている。
その下にいるのが、スーピルの戦っている奴らで、一般的な戦士にとってそれほど脅威ではない。宗教でいえば、ただの信者。自分が信じる正しさもない。
そのさらに下が、邪教を信じているだけの、普通の人間だ。
学校に通い、真っ当に働いて生きる、極々普通の人間だ。
下の二つは、出会っても通常戦闘には発展しない。
『ま、私が疲れる事はないよ。これくらいの相手、欠伸で倒せる。あ、勿論みんな峰打ちだよ』
「まぁ、強くても豆腐って言ってましたしね……」
『食べたくても食べれないよ〜』
「いや食わねえから!」
「食べちゃ駄目だよ、シン!」
「だから食わねえって!」
二週間毎日戦っていても、テンションが変わっていないこの人は本当に化け物(褒め言葉)だと思う。
そしてこの人と話しているのに、一切疲れを見せないエミリアもすげえな……。
「でもまあ……安心しましたよ」
『ウンウン、私も、峰打ちにした奴らが回復して戻ってくるから、新しいコンビネーション技を試し放題で嬉しいよ!』
「何してるんですか!?」
『え? キャッチアンドリリース?』
「リリースしてて偉いね〜……じゃねえわ!」
『おー、ノリツッコミ! でもね、私も馬鹿じゃないんだよシンくん』
「いや、馬鹿じゃないのは知ってますけど……」
スーピルの頭の回転は、控えめに言って異常だ。
魔術の才能は絶望的にないが、もしあったとしたら……別種の魔術を並列して十個同時発動とかしてたかも知れない。
本当、敵にだけは回したくない。
『時間経過でしか治せない呪いをかけても、何故か解呪されてるんだよ。多分あいつらは、私たちの知らない技術を持ってるね……』
「未知の技術……」
思い出すのは、賢狼に起きた変化だ。あの男の居場所はスーピルでさえも掴めていないらしいが……あの謎の変化が、もしかしたら……。
だが、俺はそれを言わなかった。言えば、スーピルは賢狼の元へ駆け付けるだろうから。今は戦いに集中して欲しい。
……いや、冗談じゃなくて、本当に賢狼の元に行きかねないからなこの人。
『シンくん、戦いながら報告書読んだんだけどさ、私これまで八日目までしか読んでなかったんだわ』
「それは……なんと言うか……怒っていいやつ?」
『ん? 駄目。というかさっき読んで思ったんだかどさー』
「マイペースすぎる!?」
やべえ……注意して聞いていないと、どんどん話が進んでしまう。
『シンくん、雪風くんと遊んでないでしょ?』
「はい。今は、雪風の自主性に任せようと思いまして」
「雪風ちゃんからも、時々誘ってくれるの」
『へー、それはいい傾向だね。んじゃさぁ、今シンくん何してんの?』
「最近は、一人で山に行って下見をしてますね……」
「私も一緒に行くんですよ」
最近は、賢狼と一緒に山を歩いて、いずれ住む拠点の場所を決めている。
今は、とても良い場所を見つけたので、どんな家を建てるかだが……それは王様に頼んでいる。
「もう場所も決めましたよ、だから認めてくれますよね?」という圧力だ。
『……シンくん、それ、ヤバイよ』
「……え?」
『シンくんはさー、山に入っていてアリバイがないよね?』
「「アリバイ?」」
『うん、今も呪いの被害者は出ているよね。その犯人でないアリバイ』
「いや、でもなんで俺が疑われてるんです?」
一応、王女の護衛だぞ? 普通そんな事しないだろ。
『……被害者だよ』
「被害者?」
『うん。被害者は優勝候補とかがほとんどだろ? それに、シンくんの予選通過方法もある』
「予選通過方法?」
「シン、何かしたの?」
「いや、会長と行動した以外には……」
アイリス生徒会長のペアと行動したが……何か悪いのか?
『君たちの予選の通過方法は、ぶっちゃけ強者チームへの寄生だ。予選敗退者から見ると、やっぱ納得が行かないんだねぇ』
「……………………確かに」
言われてみれば当然だ。
しかも、俺たちが本戦で倒したのは一年ペア。相手が弱かっただけだと思われていても、全くおかしな話ではない。
「……………………」
絶句した。
特別生徒寮と、山の行き来しかしていなかったから、生徒がどう考えているかなんて少しも見ていない。
自分が犯人でない事は、自分が一番知っている。だから気付かなかったが……言われてみれば、俺が一番怪しい。
『それにシンくんさぁ、相手のペア……えっとリュー家だっけ? そのペアが倒れる直前、黒い魔力を出していたんでしょ?』
「幻術のために、パフォーマンスとして……」
『それ、呪術だと思われるてるかもよ。まぁっくろだしね!』
「た、確かに……」
アイリス会長とエストロ先輩なら、俺が犯人ではないと分かってくれていると信じたいが……。
『ま、お姉さん、シンくんの実力を見せれば、誰も文句を言わないと思うんだなぁ!』
「……なんでですか?」
『だって動機が消えるからね! アリバイがないのも、黒い魔力も、全部シンくんが犯人だという前提がなければ成り立たないから!』
「そりゃ、確かに点と点は繋がらないですけど……」
『いやぁ、めっちゃ強い人が相手を闇討ちすると思うかぁ? 少し怪しい程度だぜ?』
「……他の犯人を探すんじゃないかなぁ……?」
「ああ、エミリアの言う通りだな……」
呪術=黒い魔力という考えも、俺が犯人だと思っているから、そういうものだと思ってしまっているだけだ。
俺が犯人の可能性が薄いと分かれば、黒い魔力は何かの魔術だと勝手に理解してくれるはずだ。
そもそも、アリバイがないのは俺だけじゃないはずだし、俺が王都の外にいた事は門番が証言してくれる。
『ん? 何々、言いたい事があるん? オッケー』
「誰ですか?」
『……カイヤだ。シン、多分もう力を隠すとか言ってる暇はねぇ。幹部を見てきたが、アイツはやべえ。司教レベルの幹部じゃない。大司教クラスだ』
「「……………………!」」
俺だけではない。エミリアもハッと息を飲んだ。
念話石の向こうでは、スーピルさえもが『マジかよ……ヨヨヨ……ヨヨヨのヨ……』と驚いている。
……多分、驚いている。多分、おそらく……。
大司教は司教の上。幹部の中でもトップレベルで、討伐報告は今までにない。
Sランク冒険者五人が立ち向かい、三分で壊滅、一人だけが生きて帰ったという記録さえある。
『こっちは大丈夫だ。見た感じ、ヤベエし話も通じなさそうだが、近づかない限り安全だと思う』
「…………気を付けて、くれよ?」
『おいおい、気を付けるのはお前の方だぜ。噂によると、例の失神事件、アイリス会長さんが調査してんだろ?』
「ああ」
『となるとな、聡明なアイツだ。容疑者がお前しかいない気付くはずだ』
「アイリス会長はそんな人じゃ……」
『すまん、言葉が足りなか……なんだ? は!? ちょっ、それ俺の分の朝飯……すまんシン! 餓死したくないから切るな!』
「はい!? ちょ、どんな理由で切って……切られた!?」
──プツン。という、魔力の繋がりが消えた音がした。
と、その直後、扉をノックする音がした。プツンからの、コンコンだ。
「? こんな朝からお客さんなんて珍しいね?」
「あ、ああ……誰だろ?」
疑問に思いながら扉を開けると……
「シン・ゼロワン。すまないが、私と同行してもらおうか」
「タイミング良すぎでしょ…………エストロ先輩」
一瞬で抜刀した刀を俺の喉元に突きつけながら、エストロ先輩が俺に命令した。
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カイヤとシンが戦うと街が消える理由は、カイヤの能力を発動させないために、シンが最初から最大火力の魔術を撃ち続けるからです。




