二十五話:一番の変人が一番まとも。
午後五時〜午後七時に投稿してます。
「そうだな……全員知っているだろうが、正神教徒が帝国領付近に確認されている」
「……被害者はいんのかよ」
「死者は、いない」
「死者がいない? じゃあ怪我人はいるのでござる?」
「トラウマ、とかではありませんよね?」
「そうだな……なんと言えば良いか……」
「煮え切らない返事じゃな。はっきりせい」
スーピルは話に参加せず、眠る雪風を調べている。だが、話は聞いているようで、時より相槌を打っていた。
カイヤは変わらず安楽椅子を漕ぎ、目を瞑りながらも、話には参加している。
協調性が一番ない二人が、共に話に参加している事態……これは本当に、王国が窮地に陥っているのかも知れない。
「一週間前、帝国領側の山の麓で戦闘が起きた。夥しい量の血が現場には残っていたらしいが、遺体は一つも見つかっていない」
「団長、正神教徒の争いなら普通なのでは?」
死体が人体実験に使われないよう、勝利した正神教徒は殺した相手の遺体を必ず現場から消す。そういう決まりらしい。
「バッカ、違えよ。団長は夥しいって言っただろ。二人以上死んでる。よくて相打ち、悪ければ集団戦闘があったっつぅ事だ」
「あ……ん? そうか、ちょっと待てよ……?」
死体が消えているという事は、正神教徒が勝利したという事だよな。
じゃあ、どんな争いだったんだ?
正神教徒同士の争いは、お互いの正しさがぶつかり合った時に発生する。
前々から何人かで行動していたのは確認済み、争いは早期に起こる筈で、今更争うのは少し考えにくい。
正神教徒同士にしろ、襲撃にしろ、一人対一人での相打ちなら死体が残る。
勝者が消すという決まりは、逆に言えば勝者以外は消せないという決まりでもある。
教典の決まりを大切にする正神教徒が、融通を利かして死体を消すことはないだろう。
とすると、多くの血が流れたのは……。
「正神教徒が、集団を襲った?」
「そうなるだろうな……。近くの村人の話によれば、血の発見場所には少し前まで小屋があったらしい。発見も、小屋がない事を不思議に思い近寄ったために見つかった」
「襲われた者たちは、不運じゃったな……」
正神教徒は、災害のようなものだ。
神出鬼没、気が付いた時にはもう遅く、普通の人間では立ち向かう事すら許されない。
だが……
「……本当に、そうでしょうか」
「どういう事じゃ、コウ?」
「いえ、正神教徒は、帝国領付近を彷徨っていた訳ですよね。そんな状況で、小屋に普通留まりますか?」
「見つからないよう、小屋に隠れていたんじゃねえのか? そして、勇気を出したら殺された」
「……いや、正神教徒はが人を襲うのは、正しさを否定された時か、上から命令された時じゃ。逃げる所を殺される事などありえん」
「自分の前から逃げるのが正しくない事だった……いや、そんなの隠れている方は分からねえな。それなら、最初から逃げてるか……」
最初に逃げていないなら、最後まで逃げない筈だ。
だから、きっと隠れていた所を襲撃されたのだろう。
だが……何故逃げなかったのかが分からない。
正神教徒が居たら迷わず逃げろ、それは冒険者や行商人にとって基本のはずだ。
ただの一般人が、魔物や魔獣の彷徨く外を歩くのは考えられない。農家ならあり得るが、農家にとっても逃げるのは常識だろう。
となると、考えられるのは一つか……。
「うん! 正神教徒は、そいつらを追ってやってきたんじゃないかな!」
「魔力の回復、仲間を待っていた、そのために時間を稼ぐ、隠れる理由はあるのでござる」
「とすれば……アイツらが今どこにいるかで、被害者の居場所も分かるってもんだな。団長、情報は?」
「あ、正神教徒の居場所ね。王都にも何人か確認されとるで〜。ま、ほとんどは、自分の正しさを持たない駒野郎だけど……何人かそいつらの行方が不明になってるね……」
「不明? 出たんじゃなく?」
スーピルによる精霊を使った探索は、あくまで王都の範囲内だけだ。
王都の外に出て他の街へ行ったのなら、不明なんて言葉は使わないだろう。
「うん。突然消えたね。こればっかりはお姉さん分からんなぁ! 転移の魔法、かねぇ……?」
「帝国にいた正神教徒が、こちらに来る可能性はあるんですか?」
「うん、ありあり。というか多分来てるね」
「帝国って事は不死の山の向こうじゃねえか。山を越えんならシン、お前の領域を通るな」
「いや、あそこは別にまだ俺の領域ではないけど……」
不死の山とは、王国と帝国の間にある巨大な険しい山のことだ。
山の麓には広大な森が広がっていて、王都はその森を背にするようにある。戦争になった時、守りが三方向で済むための知恵だ。
ちなみに、俺と師匠の小屋があるのは不死の山の王都側で、魔狼の大群の襲撃を受けたのは森の深部だ。
だから俺はあの時、賢狼を探しに山を登った事になる。崖の上から遠くに紫苑たちの戦いが見れたのも、山と森が続いた地形だからだ。
「確かに、山の一部を貰うのは賢狼にも認めてもらったけど、王様に認められなきゃ意味ないからなぁ……」
「そうか……それなら、俺からも言っておこう。山の主人に認められているのなら、王様も悪いようにはしないだろう」
二十五番隊とは言え、団長は一つの部隊の隊長だ。
いや、むしろ奇人変人揃いの二十五番隊を纏め上げている実績を考えれば、王国軍でも発言力は持ってしかるべきだ。
「一応補足しておくが……山の主人は賢狼ではないからな? あやつは、あくまであの一帯を総ているだけじゃ。帝国側やさらに標高の高い所は、また別の話じゃからな?」
「こまけー事は良いじゃねえか。というか、頂上とか帝国側とかいらねえだろ? 王国側さえ押さえておけば、山を越える侵攻ルートは叩ける」
「まあそもそも、山を越えてくる時点で化け物だとは思いますが……」
「……ウンウン、確かに軍は無理だね。でも、少数精鋭の正神教徒なら、あり得る話さ。ほいで、ここで話を戻すと……」
「恐らく、山を回ってくるでござる」
「あ? 今は正神教徒なら山を越えれるって話だろ?」
「いいえ、カイヤ。そうとも限らないわよ。もし小屋にいた人が死んでいなかったら、追いかけるでしょ?」
コウの言う通り、襲撃を受けた方が死んでいるとは限りないのだ。
それに……正神教徒だって人間だ。
自分の信じる正しさを持ち、それを他者に強要する奴らは確かに壊れている。
だが、疲れた身体で山を渡ろうとはしないだろう。そうしろと命じられれば別だろうが。
まぁ、幹部クラスや、幹部と直接会えるような奴であれば、山を越えてくるだろうな。
だがその場合、俺一人と賢狼たちで足りる話ではない。幹部がいないなら、一人か二人、幹部がいるのなら数人、二十五番隊から欲しいところだ。
ちなみに幹部がいた場合、それでも負ける可能性は普通にある上、殺す事は多分できない。
「やぁ、呼ばれてないけどボク登場〜。話は聞かせてもらったよ〜」
「突然すぎる登場やめてもらえますかね……」
「ん〜、む〜ぅり〜」
「やべぇ、主人の影響を受けている……」
「ボク的には、むしろ逆な気もするけどね。ま、それはともかく、この場合は彼女が正しいよ」
尻尾を一本一本丁寧に舐めながら、脈絡もなく飛び出してきたファントムが言った。
「ボクってば上位精霊じゃん? だから小さい子たちに声をかけてね、バケツリレー的に情報を集めてきてもらってたんだよ」
「完全なる伝言ゲームじゃねえか……信用できねえ……」
「あはは、シンってば。精霊は嘘つかないから安心して、女神を信用してはいけないけど、精霊は信用できるから」
「女神ってあれだろ? 人神戦争の神側の女だろ?」
師匠とかレイ先輩とかエミリアではない方の女神の事だろ?
「そういう事〜。約束破りまくりの自己中ばっか、これだから神族は嫌いなんだよ」
「精霊ジョーク?」
「マジもマジだけどねぇ〜。それよりシン、伝言ゲームの解答を聞きたいかい?」
「え、それなら聞きたくない」
「オッケー。正神教徒は山の麓の森を移動中。山を回ってきてるね。それともう一つ、幹部クラスがいたよ。なのに山通ってないからさ、小屋の人たち生きてるんじゃないかな?」
「本当に話聞かねえな……っておい、今なんつった?」
「小屋の人たち生きてるよ、多分全員。血は逆だね、正神教徒の方の血だ。魔力に特徴的な淀みがあったらしい」
「そっちじゃねえよ! いやそっちも気になるけど!」
正神教徒特有の魔力が淀みってなんだよ、正神教徒になると魔力が漏れなく淀むのかよ。
あの短時間でそこまで調べたファントムも流石だし、褒めてあげたいが、一番問題なのが問題すぎてそれどころじゃない。
「ウンウン、ありがとねーファントム。幹部クラスってばヤバメの情報、よく掴んだね」
「これでも、まあみんなのアイドルだからね。それよりスーはもういいの?」
「ウンウン、オッケーオッケー。完璧のぺきだね! 私の見立てじゃ、このままなら大丈夫ってとこかな。……シンくん、シオンくん」
「ん?」
「どうしたのでござる?」
突然、スーピルは真剣な顔をして、俺たちに向き直った。ファントムがスーと呼んでいた事よりも、この人の真面目な表情の方が驚いた。
「雪風くん、転校したばかりなんだろ? なら、まだ色々と分からない事だらけだろうからさ、楽しい気持ちを奪っちゃダメだよ?」
「は、はあ……それは、勿論……」
「事件の事は気にしないでいい。あの事件で、調査のための休みが生まれるはずだ。君たちは調査せず、存分に雪風くんたちと遊んでくれ」
「……確認のために妾を見るな。……多分、そうじゃな。授業もない。まったく……正神教徒含め何故今年に入ってこうも事件がポカポカと……」
「事件ってポカポカ起こる物なのか?」
「……さあ、カイヤ、残念だけど私にも分からないわ……」
「ああ……俺も、ポカポカとは言わないと思う」
三人がコソコソと後ろで話しているが、丸聞こえだ。俺たちに聞こえているのだから、耳の良いキラにも聞こえているはずだ。
だから、俺はフォローを入れた。
「やめてあげなよ! いいじゃんポカポカ! 可愛いだろ!? キラリちゃんらしいだろ!? 俺はこれから、連続して起こる時はポカポカって言ってもいい!」
「じゃ、じゃあ拙者も!」
「お、それなら私もそう言おうかな! ポカポカサイコーォォ……イェーイ!!」
「なら、流れ的にボクもだね〜」
「お〜ぬ〜し〜らー!! 特に最後の四人!!」
キラの髪が紅くなり、瞳は灼眼へと変わる。
背中からは黒翼が、腰からは長い尻尾が生え、口元には何やら複雑な魔法陣、火の粉が見えた。
「燃え尽きるのじゃぁぁぁぁ!!」
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王都から一つの建物が消えた事件は、その日の夕刊の一面に載った。
『二十五番隊兵舎また消失!?
犯人を目の前で見たと言うS氏は語る!!』
────いや、本当に死ぬかと思いましたね。手加減してくれたから、防御が間に合いましたけど。でも、彼女が怒る姿もかわ(以下は、S氏が「殺気を感じた!」と言って走り去ってしまい不明)
──黒い翼を生やした「ポンポンなのじゃぁ!」と叫び空を飛ぶ紅髪の少女に、少年が抱き締められ連れ去られているのを見たと言う人が何人も現れ、それが翌朝の一面記事に載る事を、今はまだ誰も知らない。
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正神教徒に誰が襲われたか、分かりますか?




