十九話:〇〇卒業?
後書きでは文脈がおかしくなるので、ここで先に言っておきます。
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紫苑はビクビクしていたが、特別生徒寮の食堂は普通の食堂となんら変わらない。
というか、特別生徒寮と言っても、卒業しないで研究する生徒や、レイ先輩のように頼まれて在籍している冒険者がほとんどだ。
中には高名な研究者とかもいるのだが、気さくな奴が多いし、徹夜で研究するので朝は寝ている事が多い。
師匠が朝に弱いのも、似たような理由だ。俺の毎日の注意で、それなりに改善されてはいたが。
今日も、食堂にいる人間はそれほど居なかったが、まぁいつものメンバーは揃っていた。
奥のテーブルでは、カードを並べて賭け事をしているし、一つ間を挟んで隣のテーブルでは、〈ウォーターボール〉の操作権奪い合いゲームをしている。
〈ウォーターボール〉の操作権奪い合いゲームとは、簡単に言えば〈ウォーターボール〉で行う綱引きみたいなものだ。
アーサーも丁度タイミングよく来ていたらしく、三人で一緒に食べる事になった。
紫苑は少し不満そうでもあったが、すまんな。食堂に親友一人残して二人で食べられるほど、俺は薄情な人間じゃないんだ……。
「ひゃっ! シン殿、あの方は確かスラなんとか研究の第一人者……!」
「ちゃんとボカすんだな」
「お、王族の方も!? 後継者はいないと言っていたじゃないですか!」
「第なんとか王子だな。後継者ではないぞ? なんなら私も違う」
「むっ……美味しい! 一般寮と同じ料理なのに、何故かいつもより美味しい……? むむ、素材でしょうか……」
「素材も同じだ。じゃあ、なんで美味いんだと思う?」
「はて……何故でござる……?」
「あ、おはようエミリア」
「はうっ、エ、エミリア殿!」
「おはようシオンちゃん。隣、良いかな?」
「は、はい! 勿論でござる!」
「あ、俺の皿から取っただろアーサー!」
「さてね? そんな真似はしないさ」
「失くなったエビフライ片手に言うことじゃない!?」
「ふーん……じゃあ、言ったんだ」
「…………」
「そんな顔しないで。私は……うん、大丈夫だから、ほら。シンのエビフライ」
「犯人はお前か!」
「わー! ごめん、ごめんってぇ〜!」
「二人は、仲が良いのでござるな」
「「ひょうはな???」」
「お互いのエビフライを食べさせ合いながらよく言えるね……」
いつもからかなり賑やかだが、紫苑がいる事でいつも以上に賑やかだったな。
王族とか特別生徒とか言われても、まだまだ子供だし、研究者とかは身体が大人でも心は子供のままだ。
むしろ、ほとんど変人なせいで、一般寮よりも騒がしいかも知れない。時々、マジの喧嘩が始まるからな……。
まぁ、そんな騒がしい朝食を終え、俺たちはとある一室に集まっていた。
「みんなに集まって頂いたのは他でもない」
「…………のじゃ」
「…………うん」
「…………」
順に、キラ先生、エミリア、アーサーだ。三人とも、微妙な表情を浮かべている。アーサーに至っては、朝放ったらかしにされた仕返しもあってか返事すらない。
おい、どうしてくれんだこの空気。
まあ、確かに今は朝だけどさ。
でもね、円卓が囲んだらさ、誰かがこれを言わなければ会議は始まらないでしょ。
わざわざカーテンを閉めて、明かりを消して蝋燭に火を灯したというのに……。
「…………!?」
そんな中、紫音だけは真剣な表情で、いかにも『続きが気になるっ』といった具合に、僅かに身を乗り出す。
うん……天然なのか、それとも彼女(妻は恥ずかしいからこう呼ぶ事にした)として話に付き合ってくれているのか分からないな。
俺にとっては反応に困る返事だったが、白けそうな場面を変えるだけの力はあったみたいで。
エミリアも、ハッと気付いて挙手をする。恐らく、肯定的だと示しているのだろう。
「う、うんそうだね……っ! シンがふざける時は大体大事な事だから……!」
「え? ちょっと待って、今聞き捨てならない言葉が聞こえた気がしたんだけど」
ま、まあ確かに? 人をまとめた事なんてほぼ皆無だから、話を切り出す時とかはふざけてしまう事も多いけど。
なんなら自分でも結構あったと思ってるけど、だからと言って、ふざけた途端大事な話だと思われるのは釈然としない。
「ま、まあ良い。……二人も大丈夫か?」
「妾に聞くな。既に知っておる」
「シンじゃあるまいし、ここで場を乱す訳がないだろう。私も構わないよ」
「朝の一件は俺も予想外だったんだって! 俺はお前に用事があったの! いたずらに部屋に爆竹投げ込んだ訳じゃない! エビフライも冤罪でしたねすみません!」
「え、部屋に?」
「爆竹、とな?」
「待ってそこに食いつくの?」
今のはサラリと流して欲しかったんだけど……。
ああ、話がどんどん逸れていく……。
「いや、本当はもう何も思ってはいないのさ。だがね、一国の王子として何もしない訳にはいくまい。許せシン」
「くっ……大人だ……」
実質三十近い俺に比べ、こいつはまだ高校一年生だというのに……!
王家っていうのは、全員こんなに大人なのか?
「どうしたの、シン?」
「いや、なんでもない。世の中、例外はあるんだなと思っただけ」
「???」
不思議そうに首を傾げるエミリア(例外)。
まあ、エミリアも心が広いと言えば広いのか。
知らなかったとは言え俺がグラムに求婚紛いの事をしても、毎朝毎晩師匠に感謝の念を送っても、毎日レイ先輩を褒めまくっていても、結局最後には穏やかに微笑んで許してくれた。
さっき、部屋では俺に「シオンちゃんも女の子だからね?」と忠告してきた。
紫苑から聞いたのだろう。申し訳なさでいっぱいの俺に対して、エミリアは「大丈夫」と言ってくれた。
俺の事を男と思って見ていない訳では、ないだろう。
と言っても、責任を取って余裕ができた(?)から気付けただけで、今までは希望的観測くらいだったけど。
まあつまり、紫苑という恋人をゲットした事で心に余裕が生まれ、エミリアの行動の意味を知る事ができたって訳だ。
結論から言えば、エミリアは俺に好意を抱いている。なんで今まで気付かなかったんだってくらいアピールされてたな。
それも、友人に対するものではない。家族か異性か、俺にはまだよく分からんが…………多分、異性なんだろうな…………。でも、あの近さもエミリアだと考えると一気に家族愛っぽく…………。
(もし異性だとすると……これまでの俺はかなり最低な事してるんだよな……)
怖いのはそれだ。
これまで演技だと思っていた事も、すべて本心だったなら…………。
俺が偽装恋愛だと言ったことも、演技でエミリアとイチャイチャしたことも…………。
というか、紫苑に責任を取るのなら、エミリアにも責任を取らなければ…………。ああいやでも、全部俺の勘違いで、エミリアが俺のことを弟くらいにしか思っていなかったら─────。
……普通に、あり得るな。
いやいや……でもなぁ……エミリアが俺のことを好きだとしたら……グラムも紫苑も許さないよな?
くそっ、分かんねぇ! 家族愛か、異性間の愛か……。
(い、いや、どちらにしろ、俺の気持ちに判断がつくまでは答えが出せないんだ……)
だから俺は、今まで通り気付いていないシンを演じて……いや、やっぱ少しだけエミリアに優しくしてあげよう。
これで異性として好きなら、本当に可哀想だしな……。毎日、好きな人の惚気(師匠+レイ先輩)を聞かされるとか、俺なら軽く飛び降りる。
「シン? 本当に大丈夫?」
「っ…………あ、ああ、大丈夫だ……」
右隣に座っているエミリアの手が、いつの間にか固く握っていた俺の右手を優しく包んで、そして俺の拳をほどいた。
エミリアの手は、俺よりも少し冷たい。心が温かい証拠だろうか。
俺の心が冷たすぎるのもあるのか。
「……………………」
紫苑が、辛そうな、申し訳なさそうな、いまにも泣きそうな顔をする。
これは、一体どういう感情からの表情だ? 分からない……。
ああっ、俺に恋なんて分からないんだよっ!
「大丈夫だ。ちょっと自分が最低な人間だって気が付いただけだから」
「「ぜんぜん大丈夫じゃない!?」」
エミリアと紫苑が、仲良く声を揃えてツッコム。
……よ、よし、これでいつもの仕返しは完了したな! …………な!
言われた側がどれほど心配するか、身にもって知るがいい。……いい!
「……………じ、じゃあ昨日のことについて、みんなに言っておきたいと思う」
決して忘れないよう、その気が付きを脳裏に刻んで心に留めておいて、俺は話を切り出した。
結構前から、一つの区切りとして考えていたシーンです。当初のキーパーソンは、紫苑じゃなくてレイ先輩だったんですがね……。
ちなみに、〇〇の中身は『鈍感』でした!
え?まだ卒業していない?…………確かに。




