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十二話:侵入者

 

 暖かい光が、医務室のベッドに寝かせられた金髪くんとアルの身体を包む。


「呪い、じゃな」


 二人の身体を見ていたキラ先生が、静かに言った。


「呪いって……レイ先輩と同じ種類の?」

「いや、それは分からん。似ている気もするが……すまぬの。妾は呪術の専門家ではないのじゃ」

「だが、この学院で一番詳しいのもキラ先生だ。彼女が分からないとなれば……」

「私たちに、分かるはずがないですわね」


 厳しいエストロ先輩の言葉に、生徒会長も賛同を示した。

 勿論、俺も呪術は詳しくない。呪いと言われても、和風ホラーゲームしか心当たりはないし……この世界にビデオはないので髪の長い女の人もいない。

 雪風に聞いてみても、やっぱりよく分からないのか、首を傾げている。


 今この場にいるのは、俺と雪風、キラ先生に生徒会の二人だけ。

 まあ、その五人全員が、この事態に戸惑いを見せていた。


「……彼自身が何者かに狙われていたという可能性は……」

「それはないでしょう」

「?」

「リュー家は、確かに貴族主義な思想が残っている反王家側の家ですが、基本中立、民衆への税も軽く、恨みを買う家ではありません」

「しかも、奴は後継者争いから一番に降りて、個人的な配下はこの少女だけ。後継者争いとは無縁の男だ」

「とすると、無差別?」

「警備は万全だった。考えにくいが……しかしそれしかないだろう」

「身代金、とかでもないじゃろうな。ここまでの力を持つなら、冒険者でもやっておればよいからな」


 再び考え込んでしまう俺たち。特に俺は、金髪くんの家名がリューだった事に驚いていた。ああいや、今はそういう場合じゃない。


 うん、無差別、そう考えるのがいちばん楽だ。

 ……でも、俺の目の前で起きた事だけに裏がある気がする。いや、そう考えてしまうのは流石に傲慢か?

 ううん、そうだな、全てをエミリアと結び付けるのは良くないよな。

 というか、これじゃあむしろ俺たちの警戒レベルを上げてしまって、エミリアの誘拐も叶わなくなるんだし。


 今でこそ話し合いのために集まっているが、解散すればそれぞれ準備を整える筈だ。

 キラ先生は教師たちに警戒するよう伝えるだろうし、エストロ先輩は生徒会長の守りをより固める。

 生徒会長は従者などを使って情報を集めるだろうし、俺は特別寮の周囲に張った罠を増やす。

 雪風だけは唯一する事が特にないが、それでも警戒はするだろう。雪風という美少女を誘拐するのが難しくなる。


「こうして対策を取られるのは分かっていた筈……」


 一応、俺たちは軍人だ。

 国への忠誠は微塵もないとは言え、国のために働く軍人である事に変わりはない。

 公の部隊だとか関係なく、いや、むしろ二十五番隊だからこそ事件を見つけた途端にこうして集合するのは想像しやすい筈だ。

 犯人が馬鹿ならそれで解決なんだけど……


「対策か?」

「はい。他に目的があるのかと思ったのですが、警戒させるだけで……いや、まさかっ……エミリア?」

「ちょっ……窓を割るなシン!」

「すみませんエストロ先輩っ! エミリアが心配になって! 失礼します!」

「エミリア様が? 一体何を…………って、そうか、他に意識が向いて、その分彼女の守りが薄くなっている……!」


 エストロ先輩は無視して、医務室の窓を蹴破った俺は、〈飛翔〉を使って特別寮を目指した。


「もし、もしこれが陽動だとしたら……っ」


 答えは簡単だ、エミリアが危ない。


 ♦︎♦︎♦︎


「〜〜〜〜♪」


 今日の試合でかいた汗を流すために、私は寮の部屋でシャワーを浴びていた。


「最後のあれって、シンがやったんだよね?」

「多分、そうだと思いまする。直前に攻撃を避けていたのを、拙者は確認したでござる」


 私のペアでもあるシオンちゃんも一緒に、お風呂に入っている。

 浴室は広い(と言っても王城よりは狭いけど)から、二人同時に身体を洗っても全然大丈夫。


「そうかぁ……良かったぁ……」

「エミリア殿は、最後まで心配しておられましたからね」

「む、そ、そりゃあシンが勝つと思ってたけど、それでも最後は……全く、シンはすぐ無茶するんだから。……あ、背中洗ってあげる」

「い、いえそんな事させられませぬ!」

「良いの良いの、私、こういうのに憧れていたから。一人でお風呂に入るのだって初めてなのに、友達と一緒なんて夢みたい!」


 シオンちゃんの手からタオルを奪って、背中に触れる。

 うわぁ……すっごい綺麗……。

 本当に、これって洗う必要があるのかな……?


「は、はあ……シン殿と入った事があると聞きましたが……」

「へ!? シ、シンは少し別だよ! ほ、ほら、だって……その……」

「む? 拙者はよく分からないのでござるが……やはり想い人は違うのでしょうか……」

「想い人……うん、同じに見えて、やっぱり何かが違うかな……」


 小さい頃だから、シンを好きだったとは言え、友達みたいに思っていたけど……。

 それでも、やっぱり今の気持ちと、当時感じた思いは違う。


「次は拙者の番でござるよ」

「うん、お願いね」


 シオンちゃんにタオルを返し、席を交代する。


「シン殿ではありませぬが、そこは我慢していただきたい」

「な、何言ってるのよ! べ、別にそんな……シンに背中を…………うぅ……」

「背中まで真っ赤でござるよ〜?」

「も、もうっ、からかわないでよ!」

「いえいえ、拙者はただ状況を説明しただけで……」

「そ、それがからかってるの! もうっ、折角考えないでいたのにぃ!」

「おやおやぁ? 何を考えていなかったんでござるかぁ?」

「あ、ちょっと、シオンちゃんっ」


 シオンちゃんが後ろから背中に覆い被さってきて、耳元で囁く。

 そのシオンちゃんの声が、徐々にシンの声に似てきて……。


「ほら、エミリア。もっと力を抜いて」

「…………っ!」


 一瞬、本当に死んじゃうかと思った……。

 恐る恐る後ろを振り向くと、だけどやっぱりシオンちゃんでシンはいない。

 シオンちゃんは、ニコッと笑顔。

 ほっとしたやうな、少し残念なような……い、いや今は裸だから残念でもなんでもないけどね!


「……………」

「あれ? シオンちゃん……?」


 謝るのかと思っていたけど、シオンちゃんは固まってしまっている。

 ジッ、とある一点を見つめていて……


「……どうしたの?」

「あ、いえ。……あっても邪魔だと、そう思っておりましたが……やはり羨ましいでござる……」

「?」

「ああいえ! お気になさらず! こ、コホン。これは、拙者の羨望のようなものですから! ささっ、早く湯船に浸かりましょう」

「あっ、タオルは……」

「二人で入るのですから、必要ないでござるよ!」

「……わ、分かった! 裸の付き合いってやつだね!」


 シオンちゃんの勢いに負けて、一瞬に湯船に浸かる。

 二人が一緒に入っても、お風呂は全く狭くない。


「んんっ〜〜、気持ち良い〜!」

「や、やっぱり()もあれくらい……でもこの体型の方が空気抵抗は少ないし……ブツブツ」

「あれ、どうしたの?」

「なんでもない……です。ただの羨望ですから」


 少しいつもと雰囲気が違うのが気になるけど……羨望?

 羨望と言えば、私はシオンちゃんの身体、すっごい綺麗で羨ましいなぁ……。

 小柄で、細くて、すっごい女の子らしいの。

 肌もツルツルで柔らかくて……女の私が触ってもドキドキしたくらい。シンが触ったりなんかしたら……ううん、シンは小さい頃から女の子に触る事だけはしなかったもんね。

 そこがシンの良いところだし、だけど……まあ、少しくらいはシンが私にドキドキしてくれでも良いのになぁって思ったり……。


「ブクブクブクブク…………」

「エミリア殿!? 何をして……ッ何奴(なにやつ)だっ!」


 シオンちゃんが、急にあたりを気にし始めた。

 なんだろう? でも、今のシオンちゃん、シンみたいで格好良かったなぁ……。


「エミリア殿、この音はなんでござるか?」

「ど、どこからクナイを……あ、ううんそうじゃなくて……この音?」

「部屋の方から……窓の外でござるか?」

「窓の外…………」


 シオンちゃんの真剣な表情に、私は素直に目を閉じて耳を澄ませる。

 窓の外……確か、シンがたくさん罠を張っていた場所……。


「これは……シンが作った罠の音だね。すごいくらい、全部に引っかかってる。ち、ちょっと可哀想なくらい……」

「罠、でござるか?」

「うん。魔法陣が彫られていて、範囲内の不審者に魔法を浴びせるの。シンがすっごい悪い笑みを浮かべていたから、普通の人じゃ通り抜けられないと思うけど……」

「それを聞くだけで、拙者には無理でござるな」

「シンが言うには、急げば急ぐほど引っかかるんだって。焦ると駄目らしい」

「シン殿の楽しそうな顔が目に浮かびまする……」


 シオンちゃんが苦笑いする。それは、シンの作った罠なら突破される事はない、そういう信頼から来ているんだろうな。

 私も、突破されるとは思わない。だけど……。

 うん、シンを信用していない訳じゃないけど、こうしてお風呂に入っている時に誰か知らない人が部屋に入ろうとしているのは怖いから。


「ね、ねえ、シオンちゃん。もうお風呂を出た方が…………」

「…………」

「シオンちゃん?」


 シオンちゃんの表情は、少しだけ困っているように見えたけど……。

 シオンちゃんの視線の先には……


「…………っ」


 浴室の磨りガラスで出来た扉の向こうに、男の人のシルエットが浮かんだ。男は、腰に何かを巻いている。


「────ッ!」

「これは、シン殿直々に頼まれた事。たとえ命に代えても……エミリア殿をお守りする!」


 シオンちゃんがクナイを構えて、浴室の扉へ飛びかかるのと、


「オラッ!」


 腰にタオルを巻いただけの刺客が、浴室の扉を蹴破って中に飛び込んでくるのはほぼ同時だった。


「はぁっ!」


 シオンちゃんは、その男の目にタオルを巻いて、背中に回って張り付く。


「うぐっ……!」


 男は腰にタオルを巻いただけだ。素肌がその男の肌と直接触れ合っているのも気にせず、シオンちゃんはタオルを後ろへ引っ張った。

 男の人は、頭を後ろに引っ張られて苦しそうにしているけど……。


「この悪党っ…………ん?」

「ぐる……じぃ……」


 シオンちゃんは、足を男の腰に回して、その足を腰の前でクロスさせる事でしっかりと男に密着している。

 その状態で、男の目を覆うように引っ掛けたタオルを後ろへ引っ張っている。

 すごい、捨て身。恥ずかしい筈なのに、私のために……。

 でも…………


「…………まさか」


 全裸の自分が、誰と密着しているのか気付いたのか、顔を真っ赤にして狼狽る(うろたえる)シオンちゃん。

 うん、それも……分かる。

 シオンちゃんが憧れを感じている事は、私も似たようなものだから分かる。

 そのシオンちゃん自身も気付いていない感情を知っている私だから、今のシオンちゃんの気持ちが分かる。


「シン殿ぉ…………」


 頭が恥ずかしさに耐えきれなかったのか、フラリと力の抜けたシオンちゃんが後ろに倒れ込み。


「おっ?」


 そのせいで、シオンちゃんを咄嗟に支えて助けようとするシンの目を覆っていたタオルが……


「ダメェーーー!」

「ぐはぁっ!」


 気付いたら、私は落ちそうなタオルを咄嗟に手でシンの顔に押し付けていて、そして──


 私が押した勢いのせいだ……。

 勢いを受け流したのか、シンはその場でフラフラして耐えていたけど……


「ふえっ?」


 ギュッと抱き寄せられ、私は、そのまま浴室の床に倒れていった。


感想、下の方(多分)からポイントの評価お願いします!もちろん誤字方向も!


実は戦闘描写が苦手(一人称が戦闘描写に向いていないのもある)で……それに比べて今回は随分楽に書く事ができました(笑)。


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