十話:主人自慢
これまでの話を確認したところ、レイ先輩の年齢が時々間違っていましたが、現時点で二十七歳(シンと十二歳差)です。
二人と協力関係を結んでから、二回夜を越えた。
今日の朝八時に予選は終わるから、もうほとんどすることはない。
せいぜい、最後に獣を一匹残らず駆逐するくらいだ。
いや、別に壁の中にいる訳じゃないから、そんな事はしないけどね。
「ふっ……」
とまあ、こんなどうでもいい事を考えている間も、俺は実は戦闘中だった。
ただ……やはり相手が弱いな。
やはりそこら辺の魔獣や魔物程度では、賢狼に勝利した俺にとって話にならない。
断末魔もなく、身体を切断された魔獣は死ぬ。
血飛沫が上がる前に、俺はその切り口を炎で焼き炙った。
今朝は焼肉だぜ。一応食べれるかもしれないから〈ストレージ〉にしまっておこ。
俺がコソコソと倒した魔蛇を〈ストレージ〉にしまっていると、丁度戦闘を終えたのかエストロ先輩が苦笑いしながらこちらに戻って来た。
なんだよ、酒になるかも知れないだろ。ハブ酒みたいに。
「君は……中々面白い戦い方をするな」
「そうですかね?」
「ああ、君は……無詠唱の魔術師だ。だが、敵に接近されれば刀を振るう。かと思えば、先程のように後始末は魔術だ。剣一本の私とは随分違う」
「その剣一本が、最強の証でしょうに」
「そうか? ……そうか。ありがとなゼロワン」
そう言って、エストロ先輩は軍服の左腰に付けた鞘を手で軽く揺らした。
丁度その時、強い風が吹き、先輩のマントを揺らす。
右手で抑える軍帽の下から、長い紺色の髪が風に靡いて踊り、そのポーズが赤茶色の軍服に似合っていた。
笑顔で立つ彼女は、男の俺よりも身体が小さいはずなのに……。
なのに、こんなにも格好良い。
冗談抜きで、エストロ先輩には憧れる。
女性ファンが多いのも、遭遇した女子生徒のペアが「お姉様とは戦えない」と言って降参したのも、俺にはとてもよく分かる。
「でもお前だって、魔術は言うまでもないが超一流だし、我流の剣は一番隊でも通用するレベルだ。お前に敬意を表するよ」
「魔術だけじゃ、エミリア……王女様を守れませんからね。剣を覚える必要があったんですよ」
師匠がいなくなって、魔術の方面は何をすれば良いのか分からなくなったというのもあるが。
というか、二十五番隊の団長にボコボコにされたのが悔しくて、剣を覚える気になったんだよな……。
歳が一桁の少年に、刃の潰していない大剣を持ち出してきてたからなぁ……あの人。
大剣で叩きのめす隊長。
双剣で翻弄する隊員にも。
他にも色々な人に剣を教えてもらった。
「ふふ、そうか。……まあ、私に魔術は分からん。お前が言うのなら、きっとそういうことなんだろう。剣だけの私には……なっ」
最後、一瞬だけ力んで、真横から飛びかかって来た猿のような魔獣を切り捨てた。
見てもいないのに、その刃は正確無比に頭を切り落とす。
「? なんだ、こっちを見て」
何事もなかったかのように鞘に納める刀には、血糊すらついていない。
猿の首からも、俺とは違い血が噴き出ることはなかった。
剣一本、剣一本で究極に至ってしまった人。それがエストロという、アルヴァス伯爵家令嬢直属の護衛だ。
「いや、先輩らしいなって」
「なんだそれは。私はいつでも私だぞ?」
「そ、そうですよね……」
エストロ先輩はエストロ先輩だ。それは分かる。
だが、エストロ先輩と話していて、時々感じる違和感は確かにあるのだ。
二重人格という程でもないが、本当に、ほんの少しだけズレているのだ。注意していても見逃してしまう程に。
これまで聞いていた話と誤差があるのは、まあ仕方ない。噂はあくまで噂だからな。
だが、こう実際に話していて、微妙に矛盾していたり、人間観察が趣味の俺ですら見逃しそうな僅かな違いはやはりあるのだ。
協力関係を結ぶのも、俺を監視するのも、エストロ先輩らしくない。そんな気がする。
「まあ、二人きりの時だけはいつもの先輩なんだけど……」
不寝の番は基本ローテーションだが、実は比重に偏りがある。
これは、成り行きというか体力的な問題で決まったのだが、俺とエストロ先輩の担当時間が他二人に比べても多い。
だから、必然的に俺とエストロ先輩が寝ないで周囲の警戒に当たることが多くなる。
今は、雪風と生徒会長がテントで眠っている。
「夜ももう明けた。そろそろ戻った方がいいだろうな」
「途中から、ペアが入れ替わってましたしね。ローテーション無視して」
「はは、確かにそうだな。いっそのこと、ペアを変えるか?」
「冗談はよしてくださいよ」
俺がそう言うと、先輩は快活に笑った。
そう、これは二人行動が増えていくうちに気付いていったのだが、先輩は堅物とかではなく冗談もそれなりに言うし、俺のブラックジョークだって好む。
一番隊隊長の愚痴とかもよく話すし、少しだけサボろうかと誘われたりもする。
根は真面目でも、案外気さくな人物だった。二十五番隊に一人欲しい。そして、人数を二桁にしたい。もう九人部隊は嫌だ。
「あと数時間すれば、予選も終わる。久し振りの校舎だぞ?」
「新築の校舎ですね」
「あ、あはは……。アイリス様も、あれで中々過激な人だからな。一度戦場を見学したことがあったのだが……『味方じゃないなら敵ですねっ』とか言って……って、この話は内緒だぞ?」
「分かってますって。ちなみに、エミリアは二十五番隊の訓練に参加した時に…………」
「む、な、ならアイリス様だって入隊希望者を……」
「エミリアは小さい時に三階から……」
俺とエストロ先輩は、朝早くから起きていたアイリス様に見つかるまで、主人の武勇伝(黒歴史)を語り合っていたのだった…………。
「「す、すみません……アイリス様」」
「……………………何してるです?」
そして、雪風が眠そうに瞼を擦りながら起きてくるまでの間、正座で並べさせられて怒られたのだった。
♦︎おまけ♦︎
一番怖いのは、生きた人間である。
それを、俺たちはいま実感した。
「エミリア様を侮辱した罪は重いぜ?」
その女は、何日も執拗に俺たちを追ってきていた。
原因は簡単な事。
一人の護衛しか付けていないと噂の王女様。
だから、護衛とは恋仲なのだろうと俺たちは思っていた。
そして、
『王女だけど、他にも男っているのかな?』
俺の隣で震えるバカが、つい要らない一言を言ってしまった。
『おやおや、何をおっしゃいますか? ……エミリア様は一途なんだよ! 糞共ガッ!!』
途端、あの女がどこからともなく現れたのだ。
「二日間、休みなしで追ってくるかよ普通……!」
あえて捕まえないのがいやらしい。
逃げられそうだという希望を持たせ、そしてその希望を潰すのだ。
「…………」
あと五分。あと五分で、帰還用の魔法が作動する。
それまでの辛抱。
俺たちは、恐怖と疲労を抑えて隠れ続けていた。
あと四分。
三分。
二分。
………よし、ついに逃げ────
「あ……あ……」
なんだ、このバカが、あと少しで俺たちは……
「みぃ〜つけた」
──気が付いたら、俺たちは医務室にいた。
聞いた話によると、俺たちは無事、予選を突破できたらしい。
だが────
「本当に、いいんだね?」
心配そうにこちらを見る担任の先生。
「…………はい。武闘会を……辞退します」
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