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八話:邂逅

 

「あと五分、です……」

「ふむ、遅いのぉ……一体どこで道草を食っているのやら…………お?」

「ごめん、待たせたよな! ちょっと用事があってさ」

「大丈夫です。それより……」

「あ、あぁ……準備はできている」


 雪風と頷き合って、軽く拳をぶつけ合う。

 そう、エントリーから一週間後こ今日は、武闘会初日であり、俺と雪風のペアが初めて公の舞台に晒される日である。


「うむ。調子は良いようじゃな。それでは、転移魔法陣を起動させるぞ。手を繋いで乗るのじゃ」


 キラに言われ、俺たちは手を繋いで魔法陣の上に乗った。


 初日は、数多くのペアを一気に振り落とす形式の予戦だ。

 サバイバル形式で行われ、終了時間に生き残っていたペアが本戦進出となる。

 サバイバル試験の会場はいくつかあり、南東から北東にかけて広がる大森林や、普通の草原や荒野などの中からランダムに転移する。

 いつもは、俺と師匠の住んでいた山の麓の森も転移先なのだが、魔狼事件の関係で今回は転移先から外されたらしい。


「命を落とす事はこれまでなかったが、何があるか分からんのが実地じゃ。かつてには、ドラゴンに遭遇した者もおった。くれぐれも、気を付けるのじゃぞ?」


 キラ先生というドラゴンに遭遇した事なら沢山あっても、魔物や魔獣のドラゴンとは出会った事はほとんどない。

 俺に兜の緒を締めさせたキラ先生の声が、徐々に遠くに聞こえ……そして──


「──試合開始まで、残り十秒です。十、九、八、七、六、五────」


 初戦が、始まった。


 ♦︎♦︎♦︎


「…………大森林か……」


 瞼を開き視界に映ったのは、鬱蒼と茂る木々だ。

 木々の隙間から漏れ出る陽光が、湿った地面を所々照らしている。


「まあ、確率的にもそうだろうな。転移場所が一番多いんだし」

「大森林でも、まだ浅いです。有名な霧がないです」

「鏡の霧だっけか? 伸ばした手が見えないとか言う」

「はいです。心を病んで、霧が自分に見えてしまう事から名付けられたそうです」

「まじか、意外に恐ろしい理由だった……」


 もっとこう……なんかハッピーな由来を期待していたのだが……まあ森の霧につく異名なんてこんなもんか?


「生き残るなら、まずは食料と寝床か……」

「最初の一時間程は、他の敵も大きくは動かない筈です。今のうちに、迎撃の準備を固めておくのです」


 早々に目的を定め、俺たちは移動を開始する。

 地面がぬかるんでいたので木の枝の上を走って移動する事にしたのだが、雪風はやはり身体能力も高いようで、すぐに俺よりも速く走れるようになった。

 弟子が自分を追い抜いていく感覚って、多分こういうものを言うんだろうな……。俺、何も教えてないけど。


「……何も、いないです」


 地上を走らないことによる移動の楽さに反して、時間が経つにつれて切実な問題が見えてきた。

 獣はおろか、魔物や鳥すらいない。


「もう狩られた後なのかも知れないな。浅い森なら、動物も臆病なんじゃないのか?」


 木々の上をビュンビュン走る二人の人間、臆病じゃなくても怖いな。

 やっぱり、出遅れたのかも知れない。


「…………それにしては、予想以上に行動が速いです」

「速い?」

「はい。雪風たちは戦闘の一度もなく捜索していますが、それなのに見つけることができていないです」

「となると、かなり高レベルな生徒が居る……っ雪風!」

「はいですっ!」


 悪寒を感じた俺が指示を出すと、雪風は迷いなくその場でしゃがんだ。

 その頭上スレスレを通った俺の放つ〈炎槍〉が、飛来する風の刃を撃ち落とす。


(展開数が十を超えていた……二人だから一人五だ。同時展開していたのに、ギリギリまで気付かなかった……?)


 これは、普通にやばい。

 何がやばいって、何がやばいのか分からないのが一番やばい。

 敵の意図も、居場所も把握できていない。

 こちらに敵意があるのか、ないのか……。


「…………左右に一人ずつ、です」

「雪風……居場所が分かるのか?」


 俺の側に戻ってきた雪風と背中合わせになって周囲を警戒していると、雪風が敵の居場所を察知したのか、そのまま前を向いていろと指示を出してくる。

 弱くはないと思っていたが、やっぱりこいつは俺の予想を軽く上回ってくるな……。

 俺では、居場所に予想するつけるすらできない。グラムでも完璧に察知できないんじゃないのか?


「足元の警戒は緩めて大丈夫、です。沼になっているそう、です」

「え? 沼……。それって、落ちたらこっちも……」

「…………」


 返事はなかったが、雰囲気でコクリと頷いたらしいことは分かった。 

 湖に落ちてスケスケキャーエッチ的なサービスイベントも、泥沼では起きるはずもなく……ただただ臭くなるだけとか誰も求めていない。

 せいぜい、泥を落とす水浴びの時に何かを期待する程度か……。


「シン、使える範囲魔法で高火力なのはあるです?」

「……〈獄炎魔法〉と〈絶対零度〉とか?」

「シンは生態系を破壊する気なのです!?」

「いやぁ……大森林の生命力を信じてますから」

「生命のない所に新たな生命は生まれない……生命力です?」

「雪風さん?」


 雪風が、ハッと何かに気が付いたように黙ってしまう。

 顔を見たい、何をしているのかすごく見たい。

 うん、ちょっとくらいなら……バレないよな?


「警戒してです」

「はいすみません」


 一瞬でバレた。

 慌てて俺は警戒に戻る。

 周囲の反応は……うん、何も引っかからないわ。


「シン、雪風が合図したら、目の前に魔術を撃ち込むです」

「合図、合図って……え?」


 俺が言い終える前に事は起きた。

 突然地面が揺れたかと思うと、大木に巻き付く蔦がシュルシュルとまるで生き物のように……成る程、あれを攻撃するのか。


「よし、〈獄炎……」

「合図するまで待つです! あと、単体攻撃で十分、です!」

「すみません親方!」


 詠唱短縮で放とうとしたら、ものすごく怒られてしまった。

 弟子に怒られるとは……情けない……と言いたいところだが俺も師匠を怒っていたので、これはつまり師匠に近づけたという事だな。


「怒られて嬉しそう、です……?」


 雪風から困惑した雰囲気が発せられるが気にしない。

 若干俺から離れたような気がしなくもないが、そんな事ないよな?

 と、そんな事を考えていると、少し遠くから男の悲鳴が聞こえた。


「今です!」

「罪悪感すごいな! よし、〈水刃〉かける十個くらい!」

「大雑把です!?」


 一応今の悲鳴で居場所は分かったが、目に見えていない的なので、取り敢えず十の斬撃を飛ばす。

 あるものは蔦を切り、またあるものは何故か天空へとすっ飛んで行ったが、少なくとも半分は(てき)もとい(てき)に当たったみたいだった。


「片方を完全に無力化した、です」

「ねえ、俺相手の状況分かってなくてすごい不安なんだけど。殺してないよね?」


 悲鳴の一つでも聞こえれば、その声で状況は大体予測できるが、蔦による悲鳴が聞こえた後は、そちらから何も聞こえていない。

 首を切ったとかないよな?


「それはありませんわ」

「────ッ!」


 一瞬で反応し、声のした方に〈水刃〉を放つ。


「ご機嫌よう、シンさん、雪風さん」

「お前は…………!」


 それを難なく躱し、丁寧にお辞儀をする金髪の女性。

 俺たちに全く気取られず、ここまで近づいてきていたのだ。

 エミリア並みのステルス能力の持ち主かも知れない……。……いや、エミリアは別にステルス持ってなかったっけ?


「ほお……(わたくし)を知っているのですか?」

「「いえ、知らないです」」


 俺と雪風の声がぴったり重なった。

 その重なり具合と言ったら、俺たちが思わずグータッチしてしまう程息が揃っていた。

 俺たちはかなり失礼な事を言っていたが、その女子生徒は柔らかく微笑み、


「ふふふ、無理もありませんね。(わたくし)も初めてお会いしますから」

「それで、結局誰です?」

「では、改めて自己紹介を。ご機嫌よう皆様、(わたくし)はアルヴァス家長女アイリス・アルヴァスと言いますの。学院では、生徒会長を務めさせて頂いておりますわ」


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次回の投稿は、土曜日ならいつもの時間に、日曜日だと遅くなるか月曜日に伸びるかになると思います……。

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