七話:お巡りさんこの人です!
俺の戦闘スタイルは、特殊だ。
魔術師であると同時に、剣士でもある。
プライドを捨ててまで遠距離近距離どちらも対応できるように努力した結果だが、こんな努力をする奴なんて中々いない。
俺も、エミリアの護衛を一人で任されていたから剣を覚えただけだ。結果として、一人で仕事をこなせるようになってしまい、今も一人のままなんだけどな……。
ともかく、魔法剣士を志す人間でなければ普通はどちらかに絞る。
グラムは、簡単な魔法も使えてあの腕力だ。だからこそ俺と相性が良いと言われた。
だが、魔法も近接もこなせる生徒であれば、グラム以上に相性が良い生徒、つまり俺に戦闘スタイルが近い存在がいるのだ。
紫苑ではない。紫苑も確かに似ているし、グラムと同等の結果を出せるだろうが、大きな問題がある。
エミリアの護衛として、紫苑はエミリアと組ませておきたいし、もし負けた時に二十五番隊のメンバーが全員消えてしまうことになる。
そうなれば優勝(つまり神薬の回収)はエミリアに任せるしかないが、そうするとエミリアのペアを探すのが面倒だ。
エミリアも中々人を選ぶ戦い方をするからな……。
紫苑とグラム以外で、俺と戦闘スタイルが似ている生徒。
俺が思い付いたパートナーは……
「武闘会、です?」
「違う、舞踏会じゃなくて武闘会だ」
「ん、雪風、ちゃんと理解してるです。馬鹿にしないで欲しい、です」
「……すみません」
エミリア達と別れた俺は、廊下で雪風と話をしていた。
雪風は転校生なので、道ゆく人に聞いても居場所が分からなかったのだが、『あー! こんなところに年季物のお酒があるー!』と叫んで、居場所を知っているであろうマスターを召喚したので何も問題はない。
ちょっと周りの人に、『やだ、あの人幻覚が見えてるわ』と言われて凹んだくらいだ。
「お前……君しかいないんだよ! 頼む!」
「それは……命令です?」
「……へ? なんで?」
「シンは、雪風の教育係です。これは、教育的指導です?」
廊下を行き交う生徒全員の目が、一瞬でこちらに向いた。
状況理解すること三秒、チクタクチクタク、俺に犯罪者を見るような目をよこした。
日本の幼馴染からは、人を殺してそうと言われた事もある俺だ。そんな俺と、こんな幼気な少女が二人でいる。
彼らの都合の良い耳は、「命令」だとか「教育的指導」しか聞こえてないんだな、うん。
このままでは、もしもしポリスメンをされる。
……そう、俺がグラムの代わりに提案したのは雪風だった。
先程の特別試験、近接で挑み、その次に泥沼を使った。……単純化した詠唱で。
身のこなしは近接職でもかなり高レベルで、詠唱短縮まで使えるのだ。
……あまりに、俺と似ている。
「……確かに教育係ではあるが、俺にそんな権限はないって」
実は、俺の部屋に移動する直前、俺は雪風の教育係に任命されている。これも雪風を選んだ理由の一つだったりするのだが、それはまた後で。
「そもそも、教育係と言っても研究仲間みたいなもんだしなぁ……」
俺がレイ先輩になら命令されても良いと思うのと、実際のルールは別物だ。教育係にそんな権限は存在しない。
「……雪風で良いのです?」
「むしろ、お前が良いんだ」
「…………」
俺が断言すると、感情をほとんど見せなかった雪風の頰が少しだけ赤く染まる。
だがすぐに、フードを深く被って隠してしまった。
「シン・ゼロワン、あなたが良いのなら、雪風は全然構わないです」
「それって、つまりOKって事か?」
「……はい、です…………」
さらにギュッと深くフードを被る雪風。
戸惑っているのだろうか、俺も、ただのクラスメイトに突然話しかけられれば警戒する。
できれば、あまり目も合わせたくないだろう。
(……とは、流石に思わねえけどな)
まあ、流石にそこまで鈍感でない。照れている事くらいは分かる。
だが、戸惑っているのは事実だろう。
負けず嫌いな割に、若干卑屈なところがあるみたいだし、『なんで自分が』くらいは考えていそうだ。
教育係なんて言われても、日本の教師陣を除けば師匠しかモデルがいない。
だから、俺も手探りでやるしかない。そういった意味でも、雪風と出場するのは正解だろう。
必然的に一緒にいる時間が増え、それは、お互いの事をよく知らなければいけない俺たちにピッタリだ。
教育係と武闘会のパートナーは、とても噛み合う。
「宜しくな、雪風」
「はい、宜しく、です」
お互いに握手を交わし、俺達はチームを組んだ。
「それと…………」
「ん?」
握手した状態で、雪風が。
「雪風にも、紫苑やエミリアのように、お前とか言っていいです」
「えっと……あれは、なんというか……」
エミリアは何年も付き合っていて、紫苑は隠しきれないポンコツ臭のせいでいつの間にか定着していた。
俺が意図的にそう呼んでいる訳ではない。
「でも、お前って言いかけたです。だから、シンには遠慮しないで欲しい、です」
雪風は「何故なら……」と続ける。
「シンと雪風はパートナー、です。色々教えてくださいなのです」
生徒が一斉に通報の構えを取った。やめよ?
♢Another view♢
武闘会出場選手受付からあまり離れていない物陰に、一人の少女がいた。
先程受付を終え、とある男子と別れた彼女が、何故こんな人気のない所に来たのか。
少女は、周囲に誰もいない事を確認すると、小さく咳払いをした。
「どうかネ、お嬢さん?」
すると、どこからともなく音もなく、一人のバーテンダーが現れた。
気安げに話しかける彼だが、対して少女の反応は冷たい。
フードを被ったまま、俯いて喋らない。
「無視は流石に泣いちゃうヨ……。まあ、いいサ。これで、君は彼を一番近くから見る事ができるのだから」
「…………」
「暁月紫苑、キラ・クウェーベル。実際に見て、彼女たちの実力には驚いたが、ペアであれば邪魔が入る事もないだろうネ」
「…………」
「私の仕事は終わった。……そろそろ帰ることにするヨ。後の事は、全て君に一任する。好きなようにするがイイ。……まあ、楽しそうなら冷やかしに来るけどネ……」
一言も喋らない少女を一度も見る事なく、話し終えたバーテンダーはその場を立ち去っていく。
聞こえる筈もない距離になって、その背中を黙って見送っていた少女が、少女自身にも聞こえない声の大きさでポツリと漏らした。
「雪風は、分からないのです……」
それは、果たして意識して言った言葉だったのか、それは、神のみぞ知る事である。
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