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六話:パートナー

 

 神薬。

 それは、神の薬と書かれている事から分かるかもしれないが、常識を超えた回復薬だ。

 たとえどんな状態だとしても、使えばたちまち完全回復。

 死体に大きな欠損がなければ、蘇らせる事だって可能だ。

 最高位の治癒魔法である、神級治癒魔法〈蘇生〉と全く同じ効果を持つ回復薬。


 それは、誰もが喉から手が出る程欲しい回復薬だ。


「…………」

「信じられんのも無理はない。妾だって、最初は冗談だと思ったものじゃ。しかし、それは本物じゃった」

「先生は、見たことがあるんですか?」

「うむ、一度だけな。大魔女ノートが、妾に見せてくれた事があった」

「…………は? ノートって、あの!?」

「うむ、魔法師でありながらマーリン側に付き、そして裏切り者として迫害され封印された悲しき魔女じゃ」


 予想外の大物が登場してきて、改めてこの人が昔から生きてきていたのだと感じる。

 これからは、キラリちゃんとはうかつに呼べないな。


「ふふ、そう身構えんでも、今まで通りで良い」

「そうか……なら今まで通りキラリちゃんと呼ばせてもらうね」

「おい待て、それはやめろ」

「そんな……! 先生の嘘つき!」

「いや、妾それ一度も認めてないからの!? 今まで通り否定するがの!?」


 前言撤回までが早すぎる。これが大人のすることなのか……。


 俺が世界の醜さに愕然としていると、話が進まないと思ったのか、マスターがやれやれとばかりに俺の肩に手を置いた。心なしかチョッキが輝いている気がする。気がするだけだった。

 結構な部外者なのに、しれっと紛れ込んでいるマスター。流石だ、少し尊敬する。


「神薬……。いつもこんなに豪華なんですか?」

「む、いや違うぞ。今回だけじゃ、じゃからシンに頼んでおる」


 エミリアが尋ねると、キラリちゃんはやっと話が進むとホッとしていた。

 いや、あなたも大概話を遅くしていた原因ですけどね?


「つまり、回収及び調査ってことですか?」

「うむ、今まで何十年も発見されなかった神薬。それが一般人の手に渡れば大きな混乱を生む。お主なら、不要な騒ぎは起こさんであろう?」

「だから、半分正解で半分間違いなのか。うん、そういう事なら任せてくれて良い。……師匠を見つけた時、生き返らせるかも知れないしな……」

「シン…………」


 最後のは小さな独り言だったが、側にいたエミリアには聞こえたみたいで、ギュッと俺の手を握ってくれた。

 少しばかり恥ずかしかったが、俺もエミリアの手を強く握り返す。


「…………あの、お二人とも」

「どうした紫苑?」

「あ、いえ、こういう時に言うのもどうかと思いますが……今、とても恋人らしいでござるよ」

「…………」

「…………」


 俺とエミリアは、お互いの顔を見合わせて。

 次に、強く硬く繋がれたお互いの手を見て。

 最後に、もう一度お互いの顔を見合わせて。


「アヒュッ……」

「エミリアっ! エミリアァ!」


 顔を真っ赤にして倒れ込むエミリアを、俺は介抱するので手一杯だった。


 ♦︎♦︎♦︎


「それで、パートナーは決まっているんですか?」


 場所を変えて、俺の部屋。

 レイ先輩をベッドの上で寝かせ、俺達五人は集まっていた。

 五人とは、俺、エミリア、紫苑、キラ先生、レイ先輩の五人だ。

 ……俺の部屋が侵略されている事を気にしてはいけない。


「む? パートナーであれば、エミリアがいるであろう?」

「いや、武闘会のパートナーですって」

「おやおや、妾は武闘会のパートナーのつもりで言ったのじゃがぁ? もしかして他のパートナーでも思い浮かべていたのかの?」

「シ、シン……! そ、それって……」

「うぐっ……確かに思い浮かべていた! はいはい、夫婦のことだと思ってました! これで満足か!」


 嵌められた……。

 手繋ぎで延々とからかってくるから、今回のもそういう意味だと勘違いしてしまった……。

 俺は開き直って、想像した事を認めた。


「う、うむ……そう恥ずかしげもなく認められると、こちらも困るな……」


 キラが頰を掻き、


「成る程……やはりシン殿はエミリア殿を……」


 紫苑は何やら眉を寄せ、


「シンと私が……えへへ、えへへへへ」


 エミリアは壊れた。


「なあ……話が進まないからさ、もう帰って良い?」

「どこに帰るのじゃ?」

「どこに帰るでござる?」

「はうぅ……幸せ…………」


 即刻で二人が現実に帰られた。

 なんで俺を攻める時だけは息ぴったりなの? なんなの、君たち俺に何か恨みでもあるの?


 あとエミリアさんは早く帰ってきてください。


 ベッドの上のレイ先輩が、ジト目でこちらを眺めている気がした。


 ♦︎♦︎♦︎


 武闘会は、簡単に言えば生徒同士のペア戦である。

 死に至る攻撃を受けると結界の外に飛ばされる例の結界の中で、二人一組のチームがオラオラする伝統行事である。

 ルールは簡単。二人のどちらか片方を結界の外に出させるか、降参させた方の勝利。

 このルールの特徴は、二人のうち片方がやられた時点で敗北という点だ。

 つまりチーム間の意思疎通が重要で、実力が離れすぎているのも相応しくない。


 俺で言えば、レイ先輩とのペアが一番相性が良いだろうな。

 背中合わせになって、魔術を適当にぶっ放すだけで良い。

 何もさせずにゲームセットだろう。


 逆に、俺とアーサーのペアはあまり好ましくない。

 お互いの戦い方が違いすぎて、連携し難い可能性がある。完全ソロ型と、指揮官タイプ。合わなすぎる。

 実戦なら兎も角、戦闘範囲の指定された試合ではどちらかが不自由になってしまうだろう。まあ、それでも簡単には負けないだろうが。


 そこで、キラ先生が提案したパートナー。


「……グラムですか……」


 ソロにはソロ。

 火力バカには火力バカ。

 そんな事を言われているような気もするが、心の広い俺は怒らない。

 確かに、妥当な考えかも知れないからだ。


「賢狼との戦いでは、一緒に戦ったのであろう?」

「ん……まあ、はい……?」


 あれを()()に戦ったと言えるのかという疑問は、この際一先ず(ひとまず)置いとくぞ。

 俺が疲れさせて、グラムでフィニッシュ。

 おお、なんて連携だ、素晴らしい。……やっぱ連携してねえだろこれ。

 お互い好きなようにやって、なんか上手く行っただけだろこれ。


「まあ、彼女も強いですから……」


 師匠とレイ先輩以外で俺と連携できる奴は、多分エミリアくらいだ。

 連携しないという前提の元なら、グラムで何も問題はない。というか、グラムが最適解かも知れない。


 だが、一つだけ気になることがある。


「あの、グラムと俺が今色々と面倒なの分かってますよね……?」


 エミリアは勿論、この二人も、俺とグラムが決闘する事を知っている。

 それなのに、エミリアの前でこれを提案した。

 エミリアは認めてくれたとは言え、良い気はしないだろう。元婚約者で現恋人が、他の女と婚約しそうなのだ。

 好いた惚れたとか以前に、礼儀だとか色々ある。


「まあ、エミリアでも良いのじゃが……。それだと少し問題があってな……」

「問題?」

「うむ、ペアは作戦を練ったり一緒に居る時間が増えるであろう?」

「だからこそ、同じ部屋に住んでいるエミリアの方が良いと思うんですが……」

「実は、エミリアと紫苑には、妾が直に教えることがあってな」

「教えること?」

「それは……まあ、乙女の秘密じゃ」


 金髪の先生は、軽くウインクしてみせた。

 そう言われてしまうと、男の俺には何もできない。


「……エミリアと組む事は諦めます。でも、グラムとは組めません」

「…………」


 ここで、グラムと組む事自体に何か問題がある訳ではない。

 たとえ組んだとしても、誰からも文句は出ないだろう。

 だが、グラムとは問題を解決するまで、不用意に関わってはいけないと思った。

 ここで組んでしまうのは、エミリアにもグラムにも失礼だ。


「では、一体誰と組むのじゃ? 紫苑はエミリアと組む。アーサーとは相性が悪いじゃろう。対戦相手には、上級性のSクラスがいるのじゃぞ?」

「…………」


 Sクラスは、俺たちの学年だけでない。

 勿論、二年生三年生にもSクラスはあるし、レイ先輩のように、研究のために卒業しない生徒もいるだろう。

 中途半端なパートナーでは、負ける。


「Sクラスの中で、お前と相性のいい奴はグラムくらいじゃ。だから諦めて……」

「いや、それは違います」


 一人、一人だけ、相性が良いであろう、ともすればグラムよりも相性の良い人がいる。


「まさか……!」


 紫苑が気がついたように目を見開く。

 次いでエミリアも気が付いたようだった。


「そうか、ケビン君……」

「いや違うよ!?」



♢武闘会♢


 トーナメント形式で行われるペア戦の伝統行事。

 学外からも多くの人が観戦しに来る一大イベントで、結果を残せば騎士や傭兵にスカウトされることもある。

 参加は自由。

 生徒のみ参加資格を持つ。

 他クラス他学年とペアを組む事も可。


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それによっては、パートナーがエミリアになることも……?(ないです)


パートナーが誰だか当てられますか?



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