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エピローグ2──謎の集団──

  

 ────王国領に程近い、帝国領領内。


 王国領である山の麓に、一つの小さな小屋があった。

 なんの変哲も無い、ただの小屋。夜の月明かりに照らされている光景に、幻想的な感覚を抱くこともない。ただのありふれた小屋だった。

 だが、その小屋の中にいた面々は、異常の一言。


 その小屋の中では、四人の男女が一つの円卓を囲んで話し合っていた。


「そうか……魔狼の群れは無害化されたか」

「ああ、特に危なげもなく、さっくりと。ああただ、姫さんが言った俊足の賢狼じゃなくて、なんか怪力の賢狼だったらしいが」


 部屋の入り口とは反対側に座る女性に答えたのは、虎顔の大男だ。

 筋骨隆々の肢体を無理矢理鎧で抑え込み、獰猛な笑みを浮かべた虎の獣人は、隣の空席に立て掛けてあるある大剣の柄を握りながら言った。


「怪力……? いやでも、ぼくが確認した時は確かにあの賢狼は俊足だったよ?」

「それでしたら、獣達から妙な情報があります。深く轟くような咆哮がいくつか聞こえ、可哀想な彼らが怯えていると、そこに例の少年と賢狼が飛び込んできたと彼らは言っておりました」


 シルクハットに燕尾服、黒いステッキを持った男が静かに答えた。

 呼吸口のない奇妙な仮面を付け、時より手元で弄るステッキから鋭く光が反射する。それは、刀の鯉口を切った時に見られる現象と酷似していた。


「その時の賢狼の様子が、明らかな異常であったと。即ち血のように赤黒い目に、瘴気を纏い毛皮が黒く変色した身体。……()()の使う、薬の症状に似ております」


 ────チン、


 どこか苛立ったように燕尾服の男が言うと、一瞬抜刀するような音が聞こえ、円卓の中心に灯る蝋燭の火がフッと消えた。


「…………失礼、少し熱くなってしまったようだ。わたくしは、先に外へ出ておりましょう」


 薄暗い部屋の中、音もなく立ち上がった燕尾服の男は、一礼して部屋の扉から出て行く。

 後に残った三人は、光源が窓から差し込む月明かりだけの暗い部屋で、お互いの顔を見合わせた。


「…………クロウの爺さんは、()()に全てを奪われたも同然だ。仕方ないだろ?」

「ああ、ぼくもその気持ちは同じだからね。異論はないさ。君はどうだい?」


 虎顔の男が肩を竦めながら言うと、少女も同じようで静かに目を閉じながら賛同の意を示した。

 そして、その少女に問いかけられたもう一人。


「どうでも良い、です。クロウさんが解決出来ないのに、わたしが解決できるはずないです。雪風は、命令されたことに従うだけ、です」


 問いかけられた少女は、黒色のフードをさらに目深にかぶり、俯きながら答えた。

 その答えに、虎男はすぐに興味を失ったようで、一つ大きな欠伸をして、


「んで、姫さん的にめぼしい反応は見れたのか?」

「……いいや、全く、彼はここに来ても本気を出さなかった……。やはり、ぼくたちも殺す気で行かないと駄目なのか……」

「さあな? でも要は、あの男……えっと……」

「シン・ゼロワン、です」

「ああそうそう、そのシンって野郎をブチ殺せばいいんだろ?」

「違うです。殺しちゃ駄目です。頭様(かしら)が泣いちゃうです」

「な、泣かないよ! そもそも彼が死ぬだなんてぼくは考えてないしね! 僕が言っているのは、殺す気で行かないと本気は見れないってこと!」


 かしらと呼ばれた少女的に今のは聞き捨てならなかったのか、バンバンと卓を叩きながら勢いよく立ち上がった。


「ほう……姫さんがそこまで信頼してるなんて……いっそ俺が本気で襲撃かけるか……?」

「駄目だぞ!? 君がやったら学院は……って、待てよ?」

「どうしたです?」


 雪風が首を傾げて聞くと、「よくぞ聞いてくれた!」とばかりに手をパンッと一つ叩いて、言い聞かせるように喋り始めた。


「襲撃だよ、襲撃。自分が危険に晒されても本気を出さないのなら……彼の周囲を狙ってみればいい」

「十年前はあんなに小さかった姫さんが、こんなにも歪んじまって……。いや、昔から歪んでたな?」

「狂気的発想、です。普通は考えない、もしくは考えてもデメリットが大きすぎて実行しないです」

「うがぁ! いいだろ、別に! ぼくの案が外れたことがあったか!? 現に今も、僕らを捜索する正神教徒にバレていない!」


 胸を張って自慢げに宣言する少女を前に、虎男と雪風は顔を見合わせる。

 二人の顔は、「そもそも案が大外れしたせいで狙われることになったんだけど……」とでも言いたげだった。


「……まあ、それはいいとして、実際誰が向かうんだ? 襲撃なら俺だが……」

「無論駄目だ。そうだな……雪風と彼に行ってもらおう」

「「…………彼?」」


 ♦︎♦︎♦︎


 ハンゲル王国王都。裏路地を進んだ先に、知る人ぞ知る名店があった。

 入り口には特に豪奢な飾りがなく、店名の書かれた看板が申し訳程度に飾ってあるのみ。

 恐る恐る扉を開ければ、その内装はお洒落、というか無駄な物が一切ない。

 その店は、アラフィフの経営する、どこか緊張感のあるバーだった。


 そして、今日もまた、新たなお客が一人──


「ヘイ、らっしゃい! お客さん今日は何にします? ジン? テキーラ? マグロ?」

「色々と雰囲気台無しだよ! バーテンダー!」


 入店した途端かかってきた声に、思わずお客は声を荒げてしまった。

 そしてすぐに、「うっ……」と顔を歪める。


「まあまあ、見たところ大火傷を負っているようだ。そう叫ばない方が良いサ」

「くそっ…………一番面白い酒」


 全てを見透かされているような気がして、客の男は嫌そうに顔を歪めながらカウンターに座って注文した。

 その注文に、バーテンダーは驚く。

 当然だ、そんな注文の仕方など見たことがない。


「フム……魚の鮭とか、腐った酒とか色々あるが……」

「やめろ! 普通に珍しい酒でっ……くそっ」


 思わず突っ込みを入れてしまい、また痛みに悪態を吐く。

 灰色のローブを纏った男の全身は、痛々しい物だった。

 露出しているところすべてに、包帯が巻かれていたのだ。

 まるで全身に火傷を負ったかのような姿だ。

 が、バーテンダーが理由を尋ねることはない。客について詮索しないのも、このバーの良いところだ。


「どうぞ、最近手に入った果実でね。まあ、飲んでみなさイ」

「…………ああ」


 男が、小さく口を付けた。

 そして、次の瞬間。


「くそっ、毒かよ! 出でよ我が眷属!」


 カウンターから一瞬で飛び退いた男が指輪をかざすと、地面に魔法陣が描かれそこから魔獣が現れた。

 召喚したのは、魔兎や魔蛇といった、狭い空間でも戦える魔獣だ。


「洞窟での恨みを、貴様で発散させてもらうぜ!」


 男がそう叫ぶと同時、魔兎が全方向からバーテンダに襲い掛かる。

 体を引き裂かれたバーテンダーは、一言も発することなく絶命────なんてことにはならない。


「なっ……!」


 驚き目を剥く男の前で、魔兎達が目に見えない壁に弾かれたように、バーテンダーに向けて無防備な腹を晒している。


「酒のつまみにはならないかネ」


 そして次の瞬間、身体を貫かれた魔兎達は全滅した。


「た、偶々に決まってる!」


 追加の魔兎と、さらに魔蛇が再び襲い掛かる。

 だが────


「量が多すぎる酒は嫌いでネ」


 全て、弾かれた。

 男の顔が絶望に染まる。


 そして────


「あ……ぁ………」


 次の瞬間男は、自分の身体が真上にあるのを見た。

 首から先のない自分の身体が、ゆっくりと後ろに倒れこむのを見ながら、


「────────!!!!」


 声にならない断末魔を上げ、男は死んだ。


「…………見てないで、要件を言ったらどうかナ。麗しきお嬢さん?」

「…………」


 自分が殺した男には目もくれず、バーテンダーが扉の方に呼び掛けると、黒いフードを目深に被った少女が無言で出てきた。

 少女は首と身体がサヨナラした死体を無言で眺め、手を合わせてお祈りをする。


「敵である()()()()にも、こうして手を合わせるのか君は」


 それには答えず、少女はカウンターまで歩いて行ってから、バーテンダーに一礼して話し始めた。


「どうも、雪風、です。話は、頭様(かしら)に聞いていると思いますが……」


 それを遮り、バーテンダーは言った。


「…………私は、飲んだ酒と頼まれたことを忘れない主義でね。無論、引き受けるサ」


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