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最終話:ラストバトル

 

『シン・ゼロワン! 貴様、私と勝負するにゃ! 日程は後で伝えるにゃ! そこでお前が勝てば、お前を私の伴侶と認めるにゃ!』


 その声が、湖に響き渡った。

 どこか興奮して少しばかり早口になっている、ネコ科っぽい少女の声だ。


「…………」

「…………」


 爆発音、命中音、魔狼が上げる叫び声に、湖で魔狼を徐々にさりげなく倒す水の龍の咆哮。


 その全てが音を立てることを嫌ったのか、一瞬だけ空白の時間が生まれた。


「……あの、シン殿は忙しい時に何をしているのでござるか?」


 紫苑が、クナイを構え直しながら独り言を呟く。


「知らぬ。まあ大方、してはいけない事をしたんじゃろうな。グラム……猫系獣人が婚約すると言えば、十中八九尻尾じゃろうが」


 それに、空からゆっくりと滑空して降りてきたキラが答える。

 戦闘時、それも王狼に囲まれながらする会話じゃないが、背中合わせになる二人の瞳はしっかりと魔狼を見据えているので無問題。


「すまぬ、翼が邪魔かの?」

「……少しだけ。ですが、キラ殿の空からの援護射撃は何度も拙者を救っておりまする」


 教師というか流石は副長というか、キラの場を見る力は相当なもので、的確な援護射撃を紫苑だけでなく森の中戦うアーサー達にも行なっていた。


「ですが、このままではジリ貧でござる。キラ殿、龍化して焼き払うのは……」

「無理じゃな。今の妾じゃ完全な龍化はできん。狼共に遅れを取るのは、妾の龍種としてのプライドを傷付けるが……できんものはできんのじゃ」

「了解。……暁月紫苑参りまする」


 ウダウダ言っている時間はない。紫苑はクナイを構えて飛びかかる。

 当然、王狼達は紫苑に反応して回避行動を取ろうとするが……


「見え見えの動きじゃな」


 キラが放った炎弾によってその身を焦がされる。

 キラは放った十六の炎弾が全て着弾したことを確認し、己の手の平を開いたり握ったりと確認をして、一つ頷いた。


「紫苑、妾は今完全な龍化はできんが……それでも、真の姿の片鱗ならば見せることができる。どうじゃ? 乗るか?」

「……勿論乗るでござる。して、拙者は何をすれば良いでござるか?」

「ふむ、そうじゃな……準備が整うまで、妾を守ってくれ」

「了解。……術式解放」


 紫苑は二つのクナイを甲高く打ち鳴らし、


「暁月家忍術奥義」


 さらにもう一度、今度はさらに甲高くクナイを打ち鳴らした。

 途端、クナイを小さく構えて呼吸を整える紫苑の周囲に、薄黒い魔力が(かすみ)のようにかかる。

 徐々に渦を巻く黒い魔力、その異様な雰囲気に呑まれたのか、警戒した王狼達がキラを攻撃することはない。


「蜃気楼」


 ふと、紫苑の姿が消えた。

 そして次の瞬間、紫苑に一番近かった王狼の首に、横一文字の赤い線が引かれる。

 

 呆気にとられる王狼とキラの前で、その首に線の入った王狼は、何が何だか分からないままその首を落とした。


「「────!!」」


 やっと状況を理解したのか、王狼が咆哮をし、再び元の場所に現れた紫苑に飛びかかる。


 だが、紫苑が慌てることはない。

 冷静な、少しばかり冷静すぎる目を向け、


「技名をしっかりと確認することでござるよ」


 蜃気楼のように消えた。


「一閃」


 王狼の背の上に現れた紫苑が、小さく呟きクナイを振るう。

 あまりにもリーチが短いというのに、その一撃は確実に王狼の息の根を止めた。


 そして────そこからは一方的だった。


「隠れ蓑」


 攻撃を外した王狼が、他の王狼の攻撃を受けて負傷した。

 二匹とも、何が何だか分からない。


「蜃気楼……一閃」

「蜃気楼……一閃」

「蜃気楼……一閃」


 確かに、王狼の攻撃は通った。

 がむしゃらに爪を振るったらそこに偶々紫苑がいたり、攻撃して戻った瞬間を狙って体当たりをしたり。


 だが、何をしても紫苑の速度が緩むことはなかった。

 明らかに負傷して無理をしているのに、その脅威は変わらない。


 だが、王狼も王たるプライドがある。

 ただの小娘にこうも翻弄されて、彼らは怒り狂った。


 そして──今度は王狼達の番だった。

 キラを中心にして動くことしかできない紫苑の攻撃は既に見切られ、紫苑は、与えた傷よりも受ける傷の方が多くなっていることに気付いた。


「蜃気楼」


 これまではカウンターに使っていた技を、今回は回避に使う。


「すみませぬ。拙者では三匹が限界でござった」


 このままでは、いずれ四方を囲まれる。そう判断した紫苑は、妙な執着心を見せることなくキラの元へ戻った。


「……いや、よくやったのじゃ。では、次は妾が参ろうか」


 応急処置で済ませていた傷口が悪化してきたのか、苦しげに膝をついた紫苑の肩を、キラが優しく叩いた。


「キラ……殿……」


 振り向いた紫苑は、その代わり様に驚く。


 あの金色の髪は、灼熱の様な真紅の色に染まり、瞳も同じく灼眼。黒い翼もどこか威圧感が増し、尻からは太くて長い尻尾が生えている。

 頰や手の甲には鱗が薄っすらと生え、その姿はまさに、龍になりかけの人間だった。


「妾は、魔術が生まれたその瞬間を、この目に収めておる。その時と比べて遥かに鈍ってしまったが、それでも、王狼如きに遅れは取らぬ」


 キラの足元に、紅い魔法陣が展開される。


「龍の怒り、とくと見よ」


 ああ、そして────────


 ♦︎♦︎♦︎


 賢狼と戦ったその翌朝、俺は師匠と過ごした小屋の俺の部屋で賢狼と向き合っていた。

 予想通りあのタイプチェンジ効果は一時的なもので、一晩かかったが賢狼は元の俊足の賢狼に戻った。


「んで、お互い助け合いの精神ってことでいいか?」

「────」

「いや、何言ってるのかわかんねえよ……」


 相変わらず何を言っているのかは分からないが、肯定だろう。

 こいつも、どこぞの猫みたいに人間の言葉でにゃーにゃー鳴いて欲しいのだが、そう上手くはいかない。

 そうそう、賢狼との契約も考えたのだが、それは断られた。


「……俺達が、家族を減らしちまったみたいですまねえな」

「────」

「だから何言ってるのか分からねえんだよ……」


 王狼は、紫苑とキラが殺してしまったと聞いた。魔狼や改狼に狂狼も、最初に比べて本当に数を減らしており、割合的には洞窟内で俺が見逃してやった奴がほとんどだ。

 アーサーの指揮が上手すぎて、気付いたら殲滅していたらしい。

 そしてまた、軽薄そうな男は死んでしまったのか、賢狼達は男との繋がりが消えている。

 どちらにも痛手がない訳ではないが、最悪の展開は避けられたのでよしとしよう。


「────」


 最後に一度振り向き、賢狼は部屋の開いた窓を飛び越えて何処かに行ってしまった。

 俺はなんとなく立ち上がって窓の外を見るが、賢狼の姿はない。

 振り向いて、部屋の入り口に立つグラムに声をかける。


「……グラム、俺はここで寝て行くけど、お前はどうする?」

「うにゃ? …………私も寝て行くにゃ。賢狼を見張って寝てないのは辛いにゃ…………」

「そうか、んじゃこっちの客間……って何勝手に寝てる」


 客間から布団を引っ張り出してやろうと思ったのだが、グラムは手近な扉を開けてベッドにダイブして行った。

 あそこ、俺の部屋なんだけど…………。


「スー、スー、スー、スー」


 引き剥がしてやろうと思ったが、枕に顔を埋めて寝息を立てているグラムは、一応今回一番の功労者だ。

 起こすのも気が引けた。


「そのままじゃ窒息するぞ」


 眠ってしまっている身体を一度抱き上げ、仰向けに寝かせる。もう春とはいえまだ寒いから、一応毛布をかけてやり、俺は仕方なく隣……まあつまり師匠の部屋に来た。


「と、その前に…………エミリア、紫苑?」


 既に今日は小屋で休憩する連絡を入れているが、俺は念話石を起動し呼びかける。


『はい、こちら紫苑です』

「ああ、紫苑か。……エミリアは寝てるのか?」

『あ、いや……その……放心状態というか……怒り心頭というか……』

「そうか……それは困ったな……。まあそれは明日考える。だからさ、エミリアにごめんって伝えといてくれないか?」

『ごめん……でござるか』

「ああ、まあ、色々とな。それじゃ、また明日」


 言いたいことだけ言って、通話を切る。

 そして、そこで体力が底をつき、俺はベッドに倒れ込み、死んだように…………


「やべえ、先生の匂いが仄かに残ってる……」


 十年近く経つのに少しだけ不思議だが……まあ、()()()()()


感想評価お願いします!


伏線でもなんでもないですが、

全てのことは、『師匠だから』で説明がつくと最初に言っています(笑)


回収していない伏線とかは、二章から回収していくことになるかと思いますので



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