十四話:作戦会議③
「やはり慣れしかないでしょう」
「慣れ?」
青髪の小さな魔術師──レイの口から出た案を、エミリアは復唱した。
時刻は夜、パジャマ姿になった三人はエミリアの部屋に集まり、大きなベッドの上で作戦会議をしていた。
エミリアが着ているのは、控えめにフリルや小さなリボンがあしらわれていて全体的に可愛らしいもの。年明けに母から貰ったもので、エミリアも気に入っている。
レイが着ているのは、深い紺色一色のもの。気に入った服のサイズを小さく作ってもらった特注品だ。ただレイが着ると、やはりどうしても子供用に見えてしまう。やはりセクシー路線か、色気が足りないのか。近々挑戦するつもりらしい。
メアの着ているものは、二人とは少し趣が異なる。上にはゆったりとした白いシャツを着て、そしてお尻やホットパンツが包み込んでいる。二人に比べて肌面積が多い格好、着ているメアは少し肌寒そうだ。
議題は勿論、エミリアのこと。
「はい。慣れです。告白するまでは何ともなかった……むしろ仲は私たちが嫉妬するほど良好でした。ですが正直に告白したことにより、貴方の中で気持ちに変化が生まれた。彼をより意識してしまうようになったわけですね」
「だからまた新しくシンに慣れるってことか? それはオレも考えたけど……でももうあれから結構経つぞ? それでもまだ慣れてないのに難しくないか?」
「そうですね。これまでのようにただ同じ空間にいるだけでは慣れていくのにも時間がかかるでしょう。エミリア、貴方は痛みや恐怖心を我慢できるようになる方法を知っていますか?」
「楽しいことを考えるとか……痛くないって思い込むとか……ですか?」
小さな頃、転んだ時に『痛くない痛くない』と言われながらシンに抱き締められ、不思議と痛みが引いていったことがあった。
父親は苦しい時には明るい未来とか昔の成功を考えてやる気を出すと言っていたし、ご褒美があると三倍頑張れるとシンも言っていた。
「それもあります。というかそれも結構おすすめです。これを頑張れたら、もっとシンと仲良くなれる〜!と考えるんです」
「もっと……。そ、それってどれくらいですかっ?」
“もっと”という言葉に圧倒されたエミリアが、しっかり挙手してから聞くと、レイは悪人のようにニヤリと笑って
「そうですね……。毎日ぎゅーっとされるくらいでしょうか?」
「「っ…………!!」」
その言葉に大きく反応を見せたメアとエミリア。
エミリアは身を乗り出しいかにも興味津々といった感じに続きを促しているし、なんてことない顔をしているメアも、不自然にレイから視線を外して手を忙しなく動かして明らかに動揺している。
そんな二人の分かりやすい様子に、レイはさらに悪人顔を極め、
「それだけではなく、きっとしたいことを言えばさせてくれるでしょうね。おはようとおやすみのキスだってできます。逆にシンの方から……なんてこともあるかも知れませんね」
「「キ、キス…………!」」
額や頬にすることを想像して顔を赤くするエミリアと、口にされる想像を頭を振ってかき消そうとするメア。
「そういう未来を想像したら、頑張れる気がしませんか? それにきっと、想像するだけじゃなくて、実際全てが解決したらそうなると思いますよ」
「そ、そのためにはどうしたら良いんですか……!」
「先程、痛みや恐怖心を我慢する方法を聞きましたよね? 簡単です、より強い痛みや恐怖を経験すれば良い!」
荒療治。あまりに脳筋でスパルタな考え方。
だがエミリアがその考え方に疑問や不安を抱くことはなく……興味津々でレイに聞いた。
「……ということは、私は何をすれば良いんでしょうか……?」
「例えばシンに抱き付いてみてください。その羞恥心を経験した先に仲良くなる未来があります!」
「「っ!!」」
そして作戦は決まった。




