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十三話:大事なのは所属じゃないから


 オーバートさんに会ってから、それから他の知り合いには出会わなかった。

 ベルフェが注目されることもなく、危険な騒動に巻き込まれることもない。

 俺も強くならなければと焦る気持ちは一旦忘れて、この最後の祭りを全力で楽しんでいた。


 そして気が付けば、もう夕暮れ時。空が少しだけ赤くなっている。

 

 そして、ベルフェもまた、注目を浴びなくなって余裕が生まれたのか王都を楽しんでくれていた。


「…………!!」

 さっきは甘味を口に入れ、驚き声を失ってた。


「あ、あれ……見に行きたい、です……!」

 今は興奮した様子で俺の手を掴み、少し向こうでやっているショーを指さしている。


 意見をちゃんと言えるようになって、顔色を伺いながら話す癖も少し改善されて。

 まだ距離を感じることはあれど、より友達らしい関係になったんじゃないか?


ああいう(ショー)のを見るのは初めてですか?」

「はい。ずっと……図書館に、いたので……」


 少しだけベルフェの顔が曇った。


 図書館の司書とはいえ、ベルフェはサキュバスのお姫様。司書をやってるってことは第一王女とかではないんだろうが……王城とかで見る機会もあったと思う。

 

 友達になったとはいえ、俺はベルフェのことをよく知らない。どうして図書館の司書をやっているのかとか、どうして正神教徒になったのか、聞いたら教えてくれるのだろうか。

 まぁ、今はいいか。


「だ、だから見るのは初めてです! だ、駄目、ですか……?」


 少しだけ不安そうなベルフェ。

 女性の姿になった俺の身長は女性の中でも高い方。対してベルフェは高くも低くもない身長で、俯きがちに話す癖がある。だから自然と上目遣いになる。

 

「いえ、できたら見せたいと思っていましたし構いませんよ。ただ、初めてならちょっと驚くかも知れませんね」

「……?」


 俺はベルフェの手を引き、ショーが一番見えやすい所まで連れて行く。

 こういったショーも王都では珍しいものではない。観客は観光客が中心で数はそれほど多くなく、前の方の席も空いていた。


「わぁぁ…………」


 舞台の上で行われていたのは、俺が予想していた大道芸のような芸ではなく、どちらかと言えば演劇に近いものだった。

 魔法によって生み出した水や火や風を上手く使い、幻想的な世界感を作り出している。

 一つの物語を演じているのに、途中から見ても面白い。


 いつのまにか、演劇の生み出す世界に飲まれていた。

 

「…………」


 演劇が終わり、徐々に人が帰って行った後も、俺たちはまだ席に座っていた。

 感想を言い合い、考察し、その先の話を予想する。そしてもう十分なほど話して、誰もいなくなり、空も真っ暗になってしまった頃、隣で静かに星を見上げていたベルフェがふと話を始めた。


「正神教徒って、知ってますよね……?」

「え? ああ、そりゃ勿論……」


 突然の話の内容に俺は驚いたが、余計なことは言わないで続きを促す。


「じゃあ、どうやって幹部になるとか、構成員の情報とか……そういうのは知って、ますか……?」

「いや、それは知らないですね……」

「じゃあ、私たちが普段、何をしているのか……とか」

「それも知らないです」


 何度か共闘したことのあるアルディアでさえ、ザーノスを殺すために色々やっていたのは知っているが、ザーノスが死んでから何をしているのかは知らない。

 ルシフィエルの時もあるし、絶対に何か工作はしているはずだが……。


「【調停管理】の目的は、エミリアさん、です……。エミリアさんの持つ、宝具を、狙っています……」

「だから、エミリアが狙われていたんですよね」

「はい……。でも、みんなが狙っているわけじゃ、ない、です……」


 アルディアもルシフィエルはエミリアのことを狙っていなかったし、ザーノスがエミリアを狙った理由は宝具ではない。

 マーリンがいた時代から生きているザーノスや、今尚信じるべきが迷うアルディアは、きっと宝具のことも知ってそうだが。


「私も、宝具は要らない、です……」

「大丈夫ですよ、信じてますから」

「……はい…………」


 ベルフェの言葉は暗い。正神教徒の幹部として、この件を申し訳なく思っているのだろうか。

 ベルフェが人格を取り戻したのは、つい最近。誰もベルフェのことは疑っていないのに。


「正神教徒だからって、疑いませんから安心してください」


 アルディアは困った時に何度も助けてくれたし、ルシフィエルのことは共感できる部分もあって結構好きだ。ザーノスは憎いが、気持ちは分からないでもないし、俺に似た部分があるのも事実。

 正神教徒全員が敵というわけではないのだ。

 

 ベルフェだって、恋愛小説を愛読したり、お洒落に気を使ったり、友達らしいことができて喜ぶ普通の少女だ。

 疑うわけがない。


「相手の宗教で友達やめるほど薄情じゃないですよ、俺は」

「シンさん……」


 ベルフェは、もしかしたらそのことで俺に遠慮していたのかも知れないが、俺は気にしていないのだからその必要は全くない。

 これからはもう遠慮なんてやめて、気兼ねなく俺と接して欲しい。そう伝えると、


「ありがとうございます、シンさん」


 ベルフェはそう言って、嬉しそうに笑ったのだった。

 

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