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九話:作戦会議①


 所変わって、屋敷の中。

 暖炉の前の安楽椅子に腰掛け、エミリア、紫苑、メア、咲耶の四人は話をしていた。


 話の内容は、シンとエミリアの間に漂う空気感を変える、というものだ。

 二人の仲が険悪という訳ではない。むしろ、見ている方が恥ずかしくなるような、二人だけの空間を作り始める時だって稀にある。


 問題は、エミリアがシンに遠慮していることだ。エミリアが自分の気持ちを隠すことを止めたことで、これからさらに親密になっていくことが予想されていた。しかし、まだその兆候はない。


 エミリアがシンのことを好きなのは明らかだ。

 日頃からシンを避ける行動を取りながらも、それで自分が寂しくなったのか、数日に一度少しの時間だがシンに甘える姿が目撃されていることからも間違いない。


 エミリアの想いは日に日に少しずつ強くなっていると言っても過言ではなく、際限を知らない。

 公に認めてしまってから、自分でも驚く程恋心が加速していくのだ。


 そして、そのことを全て事実確認のため咲夜に聞かれたエミリアは……


「はい…………」


 恥ずかしさで真っ赤になった顔を手で覆い、消え入りそうな声で肯定した。

 まるで、エミリアの心を読んだかのような、咲耶の指摘。隠していたことがこうして皆に知れ渡ることになって、恥ずかしくないはずがない。


 その上、


「でも、妄想してどうにか自分を保とうとするのはいただけない。我慢は身体に毒だよ?」

「も、もうやめてぇ…………っ」


 シンを避け続けているため想いを発散(?)できず、時よりベッドの上で布団を抱きしめ妄想しながら眠りにつく。

 そのことだけはまだ誰にも知られていない、そう思っていたのに……。エミリアは部屋に閉じ籠りたい気分だった。

 

「……まぁ、君を責める気はない。ボクにも気持ちは分かるしね。むしろ、発散方法を知らない君を少しだけ可哀想に思ってるよ」

「経験者は語るって奴か?」

「う、うるさいな。今は関係ないだろ、ボクのことは。あと、これは絶対シンに言うなよ!」


 ニヤニヤしたメアに揶揄われ、余裕を崩す咲耶。

 紫苑もうんうんと頷き、咲夜の言葉に賛同を示した。


 仲間が少なくとも二人いる、それが分かってエミリアは気持ちが楽に……というか恥ずかしさが少しだけなくなった。

 余裕が生まれると、人はこれまで考えることができなかったことについて、落ち着いて考えることができるようになる。


 それは通常良いこととされ、『時には休息も必要』という事実の理由にもなるのだが、時々考えない方が良いことを考えてしまう事態を引き起こすことがある。


「ボクが無駄に負傷した気がするけど、落ち着けたようで何よりだよ。恥ずかしがられてばっかりじゃ、話は一向に進まないからね」

「ねぇ、少しだけ聞きたいことがあるの」

「うん? なんだい?」

「咲耶とシオンちゃんは……どうやって発散してるの?」

「…………紫苑に聞いてくれ」

「咲耶殿!?」


 エミリアと紫苑から顔を背けた咲耶に全てを託され、紫苑が慌て出す。

 咲耶は顔を合わせようとしないし、メアに視線で助けを求めると、メアは顔を仄かに赤くしてそっぽを向いた。

 

「うっ…………」


 興味津々のキラキラした目を向けてくるエミリアに、紫苑はたじろぐ。

 この期待の眼差しを裏切って良いものか、しかし純粋無垢なエミリアに自慰について教えるのも気が引ける。

 そもそも紫苑も、何度か試してみたことがある程度でそこまで詳しくない。そんな浅い知識で教えて良いのだろうか。

 

 とにかく何か話さねばと、紫苑は考えがまとまらないまま口を開く。


「えっと……それはでござるね……、その……なんと申しますか……、拙者はその界隈には浅く、数える程度しか経験はないのですが……」

「うんうん」

「た、例えばでござるよ? その、好意を持った殿方……拙者の場合はシン殿のことを考えながら、自身の身体を触って……」

「こう?」


 頬に手を当て、聞いてくるエミリア。


「いやっ、その……違いまする」

「?」

「触る部分が重要でして……個人差はあると思いまするが、基本は大体同じ場所を……」

「それってどこっ?」


 一度火のついた恋心は中々言うことを聞かない。エミリアのシンへの想いも同じで、シンのことを考えてしまい目の前のことに集中できないなど、少し困ってしまうこともあったのだ。


 想像で我慢する以外の方法を知りたい……!


 エミリアはワクワクした、極めて純粋な瞳を紫苑に向ける。


「そ、それはっ…………」


 そしてそんなエミリアの瞳は紫苑を追い詰め……


「っ……例えば、ここなどを……!」


 どうにでもなれ。恥ずかしさが限界を超えて半ば自暴自棄になった紫苑が目を瞑ったその瞬間、


「ううっ……冬はやはり冷えるのぉ……」

「寒い……凍る。風邪ひく」

「まさか炬燵が壊れるとは思いませんでしたね……って、おや?」


 キラ、レイ、ティー、そして雪風が部屋に入ってきた。

 四人は部屋の中をグルリと見渡し、そして最後にはある一人の人物に視線が集中する。


「……紫苑、なんで自分の胸を触っているのです?」

「…………」


 一瞬、ポカンとして固まっていた紫苑だったが、次の瞬間事態を理解して……


「う、ううぅ〜〜!!」


 安楽椅子の上で体育座りをし、腕と脚に顔を埋めて現実逃避を始めるのだった…………。


時々、我に帰って「自分は何を書いてるんだ……?」って思う。

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