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八話:円の中心

 

「…………」


 大通りを歩く途中も、常に俺たちは誰かに見られていた。

 お祭りということで、それなりに人は多い。最終日で、さらにクーデターのこともあったから例年ほどの賑わいはないが、快適に道を歩くことはできないだろう。


 普通なら。


 人混みの中に、俺とベルフェを中心にポッカリと穴が生まれていた。

 一歩進めば、それに合わせて前にいる人が離れる。進むのは快適だが、こうして明らかに異質なものとして見られているのは不快だった。


「…………」


 ジロジロと見られるベルフェは、俺以上にその不快さを感じているのだろう。

 だかベルフェの顔に浮かぶ表情は、悲しみでも怒りでも恥ずかしさでもなく、申し訳なさだった。


「ベルフェ、これってどうにかできたりするのか?」

「す、すみません……、私も、初、めて、なので……」

「そっか…………」


 なら、もっと楽しいものにしたいな。


 フェロモン、とかなのだろうか? それなら、こんな近くにいる俺に効かないのも不思議な話だが……。もしかして慣れた? いや、今でも理性が飛びそうになることはあるな。


 と、そんなことを考えていると、俺の沈黙をどう受け取ったのか、ベルフェが謝ってきた。


「すみ、ません……」

「ん? ああ気にしないでください。みんなに見られるのは慣れてますから」

「エミリアさん、ですか……?」

「そうですね。エミリアじゃなくても、みんな個性的だから。やっぱ隣にいると視線は浴びやすいんですよ」


 容姿は当然だが、雪風なら両手いっぱいに大量の食べ物を持っていたり、紫苑ならその目立つ服装だったり、よく珍しがられるのだ。

 後は見た目が特殊なキラとレイ先輩か。


「…………」


 ベルフェはどうだろう。

 身嗜みに一切気を遣っていなかった頃とは違い、今のベルフェはちゃんとした格好をしている。


 髪はちゃんと梳いてあるし、顔も洗ってある。服装は当然ジャージではなく、誰か着ても似合いそうな、清楚で落ち着いた印象の服を着ている。

 俺が評価するのもおかしい話だが、全体的に今のベルフェらしいというか、一切攻めた要素がない。人によっては、地味と言う人もいるかも知れない。


「シンさん?」

「あ、いや、なんでも。…………眼鏡、変えたんですか?」

「は、はい……変、ですか……?」


 眼鏡に触れ、不安そうに聞いてくるベルフェ。

 ジャージ時代の頃、時々かけていたぶ厚い眼鏡もそれはそれで服装と似合っていたが……


「いや、可愛い。すごく似合ってる」

「へっ!? あ、いや、そんな……」


 ベルフェには、今の眼鏡の方が似合う。

 かつてからベルフェは綺麗だったが、身嗜みをちゃんと整えることでさらに綺麗になった。


 匠の技だ。今にも某有名BGMが聞こえてきそうだ。


「…………」


 こうしてお洒落している以上、フードを被ったりして顔を隠すことはしたくない。

 だが通行人の目を気にしているベルフェにとって、姿を隠す物は必要なのかも知れない。


 どちらを取るか、だ。


 それとも、木を隠すなら森の中、ということでエミリアたちを呼んでしまうか。視線が分散して楽になるかも知れない。いやいや、むしろそっちの方が緊張するか……。


 二十五番隊の面々に手伝ってもらうか? あいつらのことだし、祭りには来てるだろ。やりたいようにして良い、って指令が団長から出たって教えれば、爆発の二つか三つ起きるんじゃないか?

 いや、それは色々問題があるか……。


 せめてスーピルさえ来てくれれば、ファントムの力でどうにか……


「あ、そうか」

「……?」


 突然立ち止まった俺を見て、不安そうにベルフェが首を傾げる。

 私、何かしてしまいましたか……?とでも聞きそうな表情だ。


「能力は使えないんですか? 周りからの認識阻害とか、ベルフェなら得意なのでは?」


 ベルフェは幻術が得意で、それは新たな人格を生み出してしまう程で、きっとファントムより実力は上。ファントムを呼ばなくても、ベルフェなら好きに気配を消すことはできるだろう。


 シンプルな答え、むしろ今まで何故気が付かなかったのか。

 

 ……と、思ったのだが、ベルフェの反応が悪いな。眉尻が下がって、困り顔だ。


「えっと……それ、は……」

「何か問題でもあるんですか?」

「問題……はい……。調整、が……難しいん、です。私、だと、シン、さんも……見られなくなると……思い、ます……」

「それは……困りますね」


 成る程、ベルフェ程の実力者だと力が強すぎて、周囲全てから認識されなくなってしまうのか。


「何か対処法とかはあるんですか?」

「一つ……あるには、あり、ます……。でも……」


 どうすれば良いのか聞くと、ベルフェはさらに困った顔をした。それだけじゃなく、顔を仄かに赤く染めて何かを恥ずかしがっている。


 しばらく黙って答えを待っていると、ベルフェはギュッと目を瞑り、口をいつもより大きめに開いた。


「シン、さん……私、と……!」


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