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五話:求めるもの

遅れました!

 

 特別うんたらかんたら補佐、という役職が俺に与えられたのは新年を迎えてすぐのことだった。

 目的は分かりやすい、隔離と監視だろう。自由時間を減らし二十五番隊との接点を少なくすることによって、二十五番隊が国に歯向かうことを抑制する。


 一応俺には王国の魔法剣士を育てるという仕事があるのだが、そっちはもう来なくて良いとか。どう考えても警戒されてるよな。俺はエミリアの護衛だって言ってるのに。

 まぁ、万が一エミリアが国の敵になるなら、俺もエミリアについて行くけどさ。


 エミリアの護衛を理由に断れば良いし、断ることも実際できた。でも俺がこうして大人しく言うことを聞いているのは、雪風のためだ。

 雪風の二十五番隊への入隊の確約と、雪風へちょっかいをかけないこと……これを条件に、俺はこの話を引き受けた。


 引き受けた以上、それなりに真面目にやるか。衛生兵か、俺回復魔法苦手なんだよなぁー、とか思って始めたこの仕事……


「こ、こうでしょうか……」

「うーん、ちょっと違うんだよなぁ……もっと激しい感じなんだよ。こう……バリバリッて感じな」

「はぁ……こうですか?」

「だぁーっ! ぜんっぜんちげぇ! もっとこう! ビシッ! ビリッ! ズバァンッ! って感じだ!」


 ヤベェ全然分かんねえ。


「お前筋は良いんだし、才能もちょっとはある。だから後はもう感覚だけなんだよなぁ……もっとこう、男なんだしガッて行けよガッて」

「ガッ、とは言われましても……」


 俺は自分の両手を見る。

 ものにするってのは難しいものだな……。


「まぁ、ちょっと休憩してろ。無駄撃ちしすぎて魔力もすっからかんだろうしな」

「いえ、魔力はまだ結構あるので大丈夫です」

「こっちがそろそろきついんだよ! お前が激しく馬鹿みたいにぶっ放すからなぁ、被害を抑えるあたしの魔力がもうねぇんだよ! んなこと言わせるな! 察しろ!」

「すみません!」

「おうっ! 分かったら休憩休憩、魔力回復したらまた再開な!」


 無茶苦茶で理不尽で自分勝手な所もあるが、やはり基本は良い人だ。訓練場の休憩スペースに戻って、俺は訓練の様子を眺めることにする。


「しっかし、本当にベストタイミングだったよなぁ」


 今回俺が指導(の補佐)をすることになった特別衛生兵の正体は、俺の予想とは大きく違っていた。 

 有事の際の衛生兵ではないし、そもそも衛生兵ですらないだろう。


 衛生兵とは仮の名前。その実態は、悪魔、天使、神に対抗するための術式を身につけた変態集団だ。

 俺も、そういう技術や人間が存在するのは知っていた。この世には『守り人』と呼ばれる、人とは異なる生物が外界から人間界に侵入することを防ぐ者たちがいる、と……。


 だが実際に見たのは初めてだ。普段は冒険者として生計を立てている人が多いからな。悪魔祓いの仕事とかは基本ないし。


「……でもまさか、あの人が守り人とはなぁ……」


 白閃のオーバート。冒険者ランクS。

 

 白閃と言うが、サボテンのことではない。彼女の真っ白なショートヘアと、彼女の戦い方からその名がついた。

 特徴的なのは、左目の刀傷と真っ白な髪、そしてあの性格だ。


 しかしそんなことより冒険者ランクだ。冒険者ランクS、これは超特別な存在にしか与えられない称号で、持っているだけで各方面に威張ることができる。 

 そして勿論、Sランクの冒険者というものは総じて強い。化け物だ。彼女は、そんな数少ないSランク冒険者のうちの一人であり、俺も何回か冒険者ギルドで見かけたことはあった。


「クーデターを見て、オーバートさんからこの部隊を作らないか聞いてきたって話だけと、マジでありがてえ」


 軍の上層部は驚いて気絶したかもな。

 悪魔の対策を考えていたら、悪魔な対する有効な技術を会得している人間が現れたんだから。


 ちなみに俺が指導の補佐をする立場でありながら教えを受けているのも、そんなオーバートさんの提案である。

 図書館で悪魔に負けて、悪魔への対抗策を考えていた俺のとっては渡に船、当然すぐに教えてもらうことにした。

 

「よぉよぉ、ちゃんと休憩してるか?」

「ええ、それなりには」

「ふぅん。やっぱすげえな、王女様の護衛ってのは。……で? どうなんだ?」

「えっと……」


 隣に座ったかと思ったら、突然ワクワクした目を向けてきて聞いてくるオーバートさん。

 急に何の話ですかね……?


「おいおい、決まってるだろ。恋バナだよ恋バナ。王女様、すっげえ綺麗なんだろ?」

「まぁ、綺麗ですけど……恋バナってまさか?」

「聞いたぜおい、父親に娘をくれって言ったんだろ?」


 おい待て、どこでその噂を聞いた。 

 言ったことは何回かあるが、それはあくまでエミリアのいない時かつ、お互いが冗談だと済ませられる場合のみだ。基本、他人に聞かれるような時には言わないんだが……メイドか、メイドなんだな?


「ヒューヒュー、やるぅ」

「いや、別にそういうんじゃ……」


 まぁ、確かに昔はそういう時期もあったし、今は両想いだったりするんだけどさ……。


「えー、つまんねぇ」

「人の恋愛を面白がらないでくれます……?」

「ん? いやちげぇよ。これでもっと性欲の塊みたいな奴だったら、指導も上手く行くのにって思っただけだよ。なんだよ、最近話題の草食系って奴か? 大人しくてつまんないだよなぁ」

「…………その二つ、関係あります?」


 自分が草食系かはともかく、戦いに関してつまらないと言われるのはちょっと嫌だな。いや、別に面白さを求めているわけじゃないが。


「お前のような奴なら、大アリだろうな。勝つために鍛錬する奴は、勝つ程度の力までしか伸びねぇことくらい、お前も分かるだろ?」

「っ…………」


 まさか、気が付いて……?


「目標ってのは重要だ。でも、最終目標を定めちゃいけねぇ、こういうもんはさ。強くなるのに、際限なんてねぇからな」

「…………」

「お前が一番伸びた時期、お前は何を目指してた?」


 俺が一番伸びた時期、それは一つしかない。 

 師匠の所にいた時期、あの時が一番成長した時期だろう。


 師匠の所で、俺は何を目指していた……?

 それは……


「ただ、師匠に認められようとしていました」

「お前にとって、師匠はどんな存在だった?」

「この世で一番、強い存在です」

「そこに、この程度ってラインはあったか?」

「…………そんなもの、ありません。どんなに強くなっても俺は師匠には敵わない、そう思っていましたし、今もそう思ってます」


 オーバートさんの言いたいことが分かった気がする。確かに今の俺は、悪魔に勝つことを目的にしてこの指導を受けている。 

 それをオーバートさんには、見抜かれていたのだろう。Sランク冒険者の名は伊達ではないということか。


 …………でも、やっぱ性欲関係あるか……?


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