エピローグ
遅れてすいません!
「ごめんなさい」
探してもいなかったマスターとベルフェを除いたこの図書館にいる全員の前で、(レイ先輩のローブを着た)ティーは頭を下げた。
自分自身について、一から全て話したのだ。
自分の生まれ、自分がしてきたこと。
「…………」
みんな何も言わず、雪風の方を見た。
何か言葉をかけてあげるのなら、まず最初の一言は雪風にしか務まらない。
そんなみんなの注目が集まる中、雪風はたっぷり考えた後、一言こう言った。
「それなら、ティーは雪風の妹なのです」
なるほど、そうか、そう来たか。雪風の答えは、俺の予想の上を行っている。
「妹……?」
怒られるのだと、そう思っていたのか、ティーは雪風の言葉を聞いてキョトンとしている。
怒られるの? 許されるの? 雪風は何を考えているの? そんなことを一生懸命考えている様子だ。
「です。ティーは雪風よりも後に生まれたと言っても過言じゃないのです。だから、妹なのです」
「それ……だけ? 嫌ったり……しないの?」
「そんなことはしないのです。お姉ちゃんとは、妹を愛するものなのです! ですよね、グラム」
「にゃ……まぁ、そうにゃ……。マリンのことは大事だし、一番大好きだと思ってるにゃ……」
「お姉ちゃん……っ」
雪風に突然話を振られて恥ずかしそうに明かすグラムと、それを聞いて嬉しそうになるマリンちゃん。
「お姉ちゃんが妹を叱るのは、妹が悪いことをした時なのです。ティーは、何も悪くないのです。だから雪風はティーを許すのです」
「でも……私のせいで、嫌な思いした」
「……確かに、あの日々は辛かったのです。追いかけられて、捕まりそうになって……でも気が付いたらみんな居なくなっていて、そこには真っ赤な血の池と沢山の肉片がある。本当に、自分自身が怖かったのです」
「…………」
雪風の言葉を聞いて、再び顔を暗くするティー。
しかし、雪風はそこで話を終わらせなかった。
「でも、そんなことは昔のことなのです! 昔は怖かったですが、今はシンもみんなもいるのです!」
それに、と雪風は続けて
「ティーがいなかったらシンとも会えていないし、ずっと昔に雪風は正神教徒に殺されているのです! だから、気にする必要はないのです!」
「シンだけなのにゃ?」
「も、勿論グラムもエミリアも紫苑も……みんななのです!」
「…………」
ニヤニヤと笑うグラムと、顔を赤くして怒ったような表情をする雪風。
そんな二人をティーは、ポカンと眺めていた。状況が理解できていない、そんなところだろう。自分が許されるどころか感謝されるなんて、きっと夢にも思ってなかったんだな。
「良かったな。ティー」
「シン…………」
ティーのすぐ近くにいた俺は、ティーが許されたということを理解しやすくなるように、その頭をわしゃわしゃ撫でた。
ティーは最初こそ俺の方を見るだけだったが、笑いかけてやると段々と状況を理解してきたのか、
「──っ」
何も言わず、俺の胸に顔を寄せるようにして抱き付いてきた。
拒むようなことはしない。ティーを左脚の太腿の上に乗せると、俺は乱れてしまった髪を整える意味も込めて、その髪を手櫛でとかす。
すると、
「あ、狡いのです! 雪風もティーとくっつきたいのです!」
そう言って雪風が、わざわざテーブルを回ってこちらに来て、ティーと同じく俺の左脚に跨いで乗るとティーを後ろから抱き締めた。
ティーはびっくりして、しかも嫌われると思っていた相手に抱き締められた緊張で固まってしまっている。
「お、お姉ちゃん! マリンたちも負けてられないよ!」
「え? い、いやグラムたちは……ってマリン! まだするなんて一言も……っ!!」
と、精霊姉妹に目を奪われていると、今度は右側から獣人姉妹がくっついてきた。
マリンちゃんはピョンと楽しそうに俺の右脚に跨がり、俺に抱き付いてくる。グラムは少し躊躇いながらも、マリンちゃんと同じように右脚に跨がり恐る恐る抱き付いてきた。
耳元で「ごめんにゃ」と申し訳なさそうに言ってくる。
するとそれを見た雪風が対抗心を燃やし、ティーに頬擦りをした。ティーはもう緊張で気絶してしまいそうだ。
それを見たマリンちゃんが、尻尾でグラムの露出された太腿をサワサワと優しく撫でる。
突然で油断していたのかグラムは俺の耳元で可愛らしい声を上げてしまい、マリンの頭をピシリと、しかし優しく叩いた。
姉妹対決なら他所でやってくれないかな? みんなが動くたびに、俺の脚に色んな感触が伝わってきて大変なのよ。
だが、問題はそこで終わらない。
「お、おい咲……オメガ!?」
隣に座っていた咲耶が嫉妬心を燃やしたのか、俺の右腕を抱き抱えて渡さないとばかりにグラムたちを見たのだ(と言っても仮面はつけているが)。
そしてこういう時に悪ノリする奴というものは、どこにでもいるものだ。
「ならば妾も参戦せねばな。ほれ、一応契約を交わしておるからの」
「意味分かりませんよキラ先生!?」
「む、約束」
左腕を包む柔らかな感触。キラが俺の腕を胸に抱き抱えたのだ。それだけで十分凶悪なお胸の感触なのに、俺が動揺して先生と言ってしまったことが気に食わなかったのか、さらに強く抱き締めてくる。
まずい、これで手足が全て拘束されてしまった。右脚は雪風とティー、左脚はグラムとマリンちゃん、左腕は咲耶、右腕はキラ。
これ以上は増えないでくれ……、そう思うが時すでに遅く、
「えへへー、楽しそー」
「む、拙者もシン殿は渡しませぬ」
「お、おいおまえら何やってんだ!!」
後ろから抱き付いてくるエミリア、前からは紫苑がグラムたちと雪風たちの間をすり抜けるようにして。
怒った様子のメアだけは俺たちを引き剥がそうとするが、エミリアに丸め込まれたようでエミリアと一緒に後ろから抱き付いてきた。
姉妹対決だったのが、(主に咲耶のせいで)俺を取られない対決になり、今では(主にエミリアのせいで)おしくらまんじゅうの会場である。
まずい、非常にまずい。圧迫感がやばい。全方向柔らかいに包まれてしまっている。身動ぎすらも許されない。
密度がすごすぎて、少し鼻で呼吸をするだけで溢れるような女の子の匂いで頭がクラクラする。呼吸も封じられた。
「し、死ぬ……」
最後の望み、俺はレイ先輩に目で助けを求めた。
「えー……コホン」
俺の望みが通じたのか、レイ先輩はわざとらしく咳をした。
「あと十秒以内に離れないのなら、全員氷漬けにします」
おしくらまんじゅうでむしろ暑いはずの俺たちの身体が一瞬で冷えるのと、みんなが俺から離れるのはほぼ同時だった。




