二十八話:魔狼掃滅戦
♦︎グラム視点♦︎
「ヒャッハー! 死に晒せよ犬畜生共!」
戦闘は、パン屋の一言で始まったにゃ。
犬畜生共、猫系獣人である私に喧嘩を売っていると取ってもおかしくはにゃいが……まあ、別にいいにゃ。
にゃぜなら、私も魔狼の大群には嫌気が指しているからにゃ。
あいつらはいっつも大勢で集まって、キャンキャンキャンキャンうるさ過ぎるんだにゃ!
あたしはゆっくり眠りたいのに…………。遠くから魔法を放つにゃんて卑劣な手段で、このあたしの親友を傷付けたこと……尻尾が禿げるほど後悔させてやるにゃ!
「────にゃ!」
──木の上を疾走し、一瞬で飛び降り、一瞬で再び木に登る。
殲滅力に優れた魔法や魔術と違って、私の戦い方は効率が悪いのにゃけれど、にゃからこそ私は魔狼ではなく改狼や狂狼を狙うのにゃ。
犬畜生共は、誰もが一撃で首裏を貫かれて死亡する。
戦果だけなら、私が一番挙げてるにゃ?
「ムフフ……」
やっぱり、エスクラスって言っても、みんにゃ大したことがないにゃねぇ……。
まあ、アーサーとかシオンとか、あと親友のエミリアとか、私でも猫目を見張るようにゃ奴もいるのにゃけれど……私に勝てるかと言われれば微妙なのにゃ。
エミリアとシオンの二人は、私も少しだけ気ににゃるところがあるのにゃけど……男じゃにゃいから結婚できにゃい。
「アーサーは……多分私の方が強いにゃ。決闘にゃら兎も角、殺し合いにゃら獣人の得意とするところにゃ。私が負ける筈がにゃいにゃ」
私が強すぎるから、結婚相手が見つからにゃいのにゃけど……。
「そもそも、次期族長はより強い伴侶を持つものって、私でも意味が分からにゃいのにゃぁ……」
期限はもうすぐまで迫っているのに、私より強い男が見つからにゃい。
この王国の騎士団長とかは強そうにゃったけど……あいつは結婚してたし、私の好みじゃにゃいにゃ。
「────んにゃ? 一人足りにゃいにゃ?」
猫系獣人の私は、とっても耳がいいのにゃ。
それは、今この場所に何人の人間がいるかも分かっちゃうレベルなのにゃ。
誰か、私より強い人がいないか探していたのにゃけど……うにゃ、十三人分しか反応がないにゃ。
「…………ッ!」
と、その時にゃ。
急に、空を水の龍が飛んだのにゃ。
そのまま、その龍は魔狼を喰いちぎりながら、湖の方に向かって行ったのにゃ。
「……一体誰が、あんにゃことを……んにゃ?」
龍の来た、北側の方を見ると、一瞬だけ小さな人影が見えた気がしたにゃ。
「んにゃ! あっちの方が楽しそうにゃ!」
親友を置いていくのはあれにゃけど、多分あっちは大丈夫にゃ!
そんなことより遊ぶのにゃ!
♦︎紫苑視点♦︎
「シン殿……! 貴方は一体、何を考えておられるのでござるか! 念話石も繋がらないし……」
「まあまあ、そう怒るでない。お土産〈蒼龍〉とは中々面白い。それに湖の中に潜んでいるなど、妾も貴様も知らんかったじゃろ?」
「それは、確かにそうでござるが……あまり派手にやるのは些か問題が……」
「だからなんだと言うのじゃ? シンは賢狼の討伐に向かった。既に、何人かも気付いておるじゃろう。最早、隠すことに意味はない」
「…………」
確かに、それは正論でござる。
事実、賢狼の存在を伝えた時、幾人かは怪訝な顔をしておられた。
十中八九、今ここにいない人物、シン殿について考えていたのでござろう。
シン殿があの歳で王女の護衛に就いている事実、シン殿は身内贔屓だと思っていそうでござるが、王様が娘を溺愛していることは有名。
そもそも、身内贔屓だけで娘の護衛を選ぶようなお人ではございませぬ。
それは、我らSクラスの知るところ。
昼間、圧倒的な実力を見せたエミリア殿の護衛、その事実の持つ大きな意味。最早、その実力を疑う者はこの教室におりませぬ。
故に、シン殿の不在に思い至った者は少なくないでござる。
シン殿が、一人逃げたと誤解されないように〈蒼龍〉の魔術を使ったことは、拙者想像に難くありませぬ。
「ですが……いえ、もう過ぎたこと。うだうだ言っていれば、我が父上の顔に泥を塗る事態。ここは飲みましょう」
「うむ、それでは妾たちも出るとするのじゃ。シンだけに手柄を渡すわけには、同じ部隊に所属する者として納得いかぬからの」
拙者の得物は短刀、『クナイ』と呼ばれる物でござる。
それ故に殲滅力には欠け、魔狼の集団を相手取ることは少しばかり骨が折れる。
事実、今も範囲魔法が不得手な生徒は、湖に残り負傷者の治療や戦場把握に努めておりまする。
指揮を取るアーサー殿、何処かへと行ってしまったグラム殿は別として、ここで拙者が出る理由とは……。
「Gurrrraa!!」
「……参られましたか」
戦場に響くは、大地を震わす咆哮。
数瞬後に、思わず目を瞑って命乞いをしたくなるような威圧感に、身体を煽られた。
森の奥から現れたのは、五匹の王狼。
一目で、他とは比べ物にならない強靭な肉体と知能を持つと、否が応でも理解させられる。
「見せてみよ、九人しか存在しない二十五番隊の中で唯一の"影"、その真の実力を」
後ろからふわりと優しい風が吹き、その風に乗ってキラ殿の楽しげな声が聞こえてきたのでござる。
その背に龍の翼を生やしたキラ殿が、身体中に燃えるような朱色の魔力を纏わせながら、拙者の横に並び立つ。
これが、かつての大戦を生き残った伝説の龍種の力。
二十五番隊"刃"副長、隊長が二十五番隊の団長と考えれば実質的なトップである、キラ殿の力の一端。
「王国軍所属第二十五番隊"刃"、キラ・クウェーベル」
「王国軍所属第二十五番隊"影"、暁月紫苑」
「「王国の為に、我が願いの為に、この力を振るおう」」
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タイトルが『魔狼掃滅戦』の理由は聞かないでください。(最初はケビン視点で書くつもりだったんです……)
次話……『二十九話:それぞれの戦い』