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二十七話:SクラスVS魔狼

 

「賢狼……これは流石にやべえって……!」


 夜の森を、俺は隠密なんて考えずに走り抜ける。

 あの男二人をあそこで暗殺することも考えたが、何よりもまず皆の所に戻りたかった。

 実力の知れない男二人に戦闘を挑むのも危険だが、それ以上に賢狼はもっと危険だ。


「……しかも、エミリアは今酔っているからあの魔法は使えねえ……!」


 あの魔法の威力は俺も知らないが、魔狼の大群を壊滅させるだけでも十分だ。雑魚を減らしておけば、賢狼や王狼に多人数で戦うことが出来るからな。

 恨むぞ紫苑……! お酒を飲ませるなんて……天然過ぎるのも考えものだな!


「……見えた!」


 崖の上から、遠目に灯りが見える。

 目を凝らして見てみると……やっぱり戦ってるな。

 灯りは移動しており、その灯りも点いたり消えたりしている。

 炎系統の魔法が使用されている証拠だ。

 遠目からでも分かる火力は、やはりSクラスと言ったところ。化け物揃いだ。


「賢狼はまだ現れていないみたいだな……。今は王狼が一匹、前線で大群を指揮しているのか」


 ……とすると、賢狼がいると気が付いていない可能性が高い。

 王狼が存在することでさえ、十分な異常事態なのだ。

 魔狼の大群の中に……………待てよ?


「エミリアの誘拐と魔狼が関係している?」


 正神教徒でなく、エミリア誘拐が?


「……ッチ」


 俺は苛立ちに舌打ちをする。

 真実を知れたこと自体は嬉しい。だが、それは正神教徒の行動が再び不明になったことを意味する。

 魔狼事件に関わっていないのなら、奴らは他の計画を進めている筈だ。

 ……正神教徒の動向を見失うことが、何より一番嫌なことだってのに……!


「何はともあれ、賢狼の存在を伝えるべきだよな……」


 走りながら、〈ストレージ〉から小さなオーブを取り出す。


「……聞こえるか、エミリア、紫苑」

『…………はい。聞こえまする」


 オーブに呼びかけると、数秒の沈黙の後に紫苑からの返答があった。

 そう、この魔道具は、レイ先輩と繋がる通話の魔道具と同じもの。そう、念話石だ。

 念話石は、エミリアもレイ先輩が教育係なため、無論エミリアにも支給されている。

 そして、俺に支給された物とエミリアに支給されている物は、同じ型番の魔道具として通話することが出来るのだ。


 そして、俺はエミリアの魔道具に語りかけているのだが……予想通り紫苑が出た。


「紫苑か、そっちの状況は見えている。真北の崖が見えるか? 俺は今そこにいる。エミリアは寝ているか?」

『北側……はい、確認したでござる。エミリア殿は……負傷して寝ておりまする。申し訳ございませぬ、守りかることが出来ませなんだ』

「…………傷は重傷なのか?」

『いえ、命に別状はありませぬ。拙者たちを守るために、奇襲に気付かない拙者たちに代わって魔法の一斉掃射をその身に受けた故、戦線復帰は難しいかと』


 ……それは、かなり重傷な気がするが……いや、何も言うべきじゃないな。

 俺もそうだが二十五番隊の奴らは、負傷者を見れば大体の状態が分かる。

 と言っても、これは冒険者なら必要な技術であって、特に凄い技術ではない。


「……成る程、エミリアは大丈夫なんだな?」

『はい。こちらも、最初こそは押されておりましたが、今は逆に攻勢になっておりまする』


 なら、俺が向こうに行く必要はないな。


「紫苑。実はさっき、エミリアの誘拐を企む奴らを見つけた。魔狼の進化は奴らによって引き起こされているらしい」

『その者たちは?』

「殺していない。理由は分かるな?」

『はい、理解できまする』

「ああ、それでなんだが…………」

『……?』


 オーブを通した向こうで、紫苑が首を傾げているのが伝わる。


「賢狼が、いるらしいんだよ」

『…………はい?』

「いや、だからさ。王狼はそこにいる一匹だけじゃないってこと」

『…………す、少しだけ失礼しまする』


 そう言うと、紫苑は黙り込んでしまった。

 恐らく、驚きを呑み込んでいるのだろう。

 そして、実に十秒を数えてから、紫苑は再び喋り出した。


『はい。となると、シン殿は……』

「ああ、賢狼の方に向かう。多分、王狼が魔狼たちを引き連れてそっちに向かうと思うけど……頑張れよ」

『頑張れと言われましても……あ、シン殿! まさかこのまま切る気では────』

「…………ふぅ」


 魔道具を〈ストレージ〉の中に仕舞いながら、俺は一つ息をつく。

 崖の上から湖の方を見てみると、紫苑の叫び声が聞こえる気がしたが……気のせいだな。

 ここまで声が聞こえる筈がない。


「……と言っても、賢狼の居場所が分からんな」


 ブレスなどは見えないので、まだキラは出陣していないらしい。

 だが、一応先生であるキラが生徒たちから離れることはないだろう。

 他の王狼が出現したら、流石のキラも戦いを始める筈だ。

 紫苑もエミリアの側で待機しているみたいだったし、キラだけでなく紫苑も戦闘に加われば、湖側は安泰だ。

 他にも、グラムやアーサーは勿論強者だし、パン屋の息子であるケビンも中々の実力者だった。


「むしろ、こっちに一人欲しいレベル……」


 だが、ここで助けを求めに行くのは悪手だ。

 今なら、Sクラスを攻撃するために戦力を投下しているので、賢狼の守りは薄い筈だからな。

 ここで、王狼が賢狼を守りに入ったりしては、それこそ最悪だ。

 賢狼とは言え、魔狼は魔狼。

 一度必ず猛攻を仕掛ける習性は、進化しても消えない。


 今なら、賢狼も討ち易い。

 紫苑が助っ人を寄越してくれれば、嬉しいのだが……まあ、考えるだけ無駄か。


「昼間の大群は北東側から来ていたよな。となれば、あっちが怪しいか」


 北東……山の方向だ。俺と師匠の小屋も、北東側の山の中にある。

 北東側で魔獣の大群が隠れられる場所……。

 そして、魔狼が殺されない、つまりそこまで強い魔獣や魔物のいない場所だ。


 ……あそこか。

 強い魔獣や魔物がウロウロしていて、魔狼が住処にしている場所、俺の記憶によれば一つしかない。


「…………」


 少し悪戯心が湧いて、湖の方向に手を向けた。


『蒼龍』


 杖を使っていないので、これは魔法に分類される。

 無詠唱で放った魔法は、水によって作られた龍だ。ドラゴンではなく、あの細長い龍の方だ。


「湖に潜む魔狼を殺してこい。〈蒼龍〉」


 俺がポンと〈蒼龍〉の身体に手を置くと、〈蒼龍〉は小さく嘶いて空を走り出した。


 それを見届けて、俺も北東側に走り出す。


 その後、何分間かずっとオーブに通話が入っていたが……全て無視しといた。


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次話……『二十八話:魔狼掃滅戦』

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