四十二話:最強の連携
──二分四十秒
「くそっ……あからさまに手を抜いて……!」
既に勝敗は決してしまったと言っても良い。
ティーがどれだけ頭を働かせようと、何度斬りかかろうと、【調停管理】には届かない。
確かに今のティーは、慣れない身体の大きさに順応しておらず全力とは程遠いが、そんな言い訳は通用しない。【調停管理】だって、まだ喋れないほど力が回復できていないのだ。
状態で言えば、ティーの方がむしろ有利なのだ。
それなのに、全ての攻撃がことごとく防がれる。元々の力が、違いすぎるのだ。
「あぁぁぁぁぁっっ!!」
叫ぶことで迷いを振り切り、ティーは再び果敢に斬りかかる。
速くなければ……もっと、もっと速く……!
焦りのせいか、ほんの一瞬、ティーの動きが単調になった。
それを、【調停管理】は見逃さない。
「しまっ────」
完全に、背後を取った。
しかし、【調停管理】の丁度真後ろの壁を蹴った瞬間、ティーはゾッとした。
【調停管理】が、こちらを見ていた。
いつ振り向いた? 何故、背後に回ると予測できた?
ティーの頭に疑問が浮かぶ。
──二分四十五秒
ティーの振り下ろした刃を、【調停管理】が避ける。刃には、目を向けていない。
「っ──!!」
──二分四十六秒
【調停管理】が、片手でティーの首を掴んだ。
高々と掲げられ、足が地面につかない宙ぶらりんの状態。
「ぁ…………うぅ……」
凄まじい握力だ。息ができない。血も流れない。それだけじゃなくて、魔力まで吸われているような気がする。
「────」
──二分五十六秒
ティーの手から刀が滑り落ち、床に突き刺さった。
力が入らない。頭も回らない。痛みや苦しみも、急速に感じなくなっていった。
「……馬鹿だな」
魔力を吸い、自分の力へと変えた【調停管理】がそう言った。
もう良いだろう。こいつに魔力はもうほとんど残っていない。ここらで首をへし折るか……。
【調停管理】は、ティーの首を掴む右手に力を込め……
「っ!?」
ティーが、笑ったのを見た。
──二分五十九秒
【調停管理】の右腕が消失した。
「なっ……!」
よろけた【調停管理】は、自分の腕を刹那のうちに切断した相手を見た。
「間に合ったのです!」
一太刀で腕を切断した者は、雪風だった。
暴走はしていない。身体も、いつも通りの普通の雪風。
「まさか本当に……制御できるとはな……」
「それは違うのです」
「えっ……?」
「制御なんて、できていないのです。でも、雪風もティーも、やりたいことは同じなのです。だから、暴走はしないのです」
「────そう、か……」
ティーはしみじみと呟き、笑った。
【調停管理】の力によって人間に対する憎悪が湧き上がり、逆に誰かを守ろと思う気持ちが見えなくなっていた時、常に自分の中で誰かが語りかけていたことを思い出したのだ。
「はぁぁぁぁ!」
雪風が地面を蹴り、腕に回復魔法をかけていた【調停管理】に斬りかかる。
しかし、刀は【調停管理】の左手によって受け止められた。
魔力を押し固めることで、【調停管理】の左手は鋼鉄よりも硬くなっている。
押しても引いても、切れそうにない。
それだけでなく、刀を掴まれてしまった。
速度で相手を翻弄し、急所を一撃、もしくは小さな負傷を重ねることで相手を倒すのが、雪風の戦い方だ。
武器を掴まれれば、機動力が失われる。
それが分かっている【調停管理】は、自分を睨む雪風を見て、勝ち誇ったように笑った。
「っ!!」
しかし、【調停管理】はそこであることに気が付いた。
──シンがいない。
雪風がこうして正気を取り戻しているのならば、その契約相手であるシンも攻撃を仕掛けていなければおかしい。
しかし周囲に、自分を狙った攻撃魔法は感じられなかった。
それどころか、シンの気配すらも……
「──上かっ!!」
その時、上に大量の魔力が集まった。
咄嗟に上を見上げた【調停管理】は、そこに何層にも重なった魔法陣を見た。
「いつのまに……!」
「私の、能力です……」
「ベルフェ……!!」
ベルフェの幻術によって、魔法の発動が完全に隠蔽されていたのだ。
役目を果たしたベルフェは、気を失ったように眠る。魔力を使い果たしたのだ。
「くっ……」
もう、間に合わないのか? 魔法はあと数秒もしない間に発動する。この場から離れている暇は……
「なんだとっ!?」
と、そこで、【調停管理】は左手が掴む刀にさらなる力が加えられたことに気が付いた。
見ると、雪風は今もなおこちらを切り刻もうと、刀を押し込もうとしている。
「貴様……諸共死ぬ気なのか……っ!」
「…………」
雪風は何も言わない。
それは肯定のようにも、否定のように見える。
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
もう逃げられない。そう悟った【調停管理】は、自分が今使うことのできる全魔力を解放して魔法を防ごうとした。
その直後、魔法が発動。天から降りた極光が、【調停管理】と雪風を貫く──
「そんなわけないのです」
その直前、雪風が消えた。
──精霊は、いつでもどんな場所でも、契約相手の元に帰ることができる。
元より雪風は、【調停管理】と心中する気なんてなかった。
【調停管理】に、確実にシンの魔法を当てる。そのためにずっとあの場にいたのだ。【調停管理】が無理にでも逃げようとしたら、即座に切り刻めば良い。
「貴様らあぁぁぁぁっっ!!」
シンの強みは、その魔力量。それ故に、時間さえかければ山をも砕くような魔法を行使することができる。
雪風の強みは、その速度。それ故に、相手が少しでも隙を見せれば即座に切り刻むことができる。
「「これで、終わりだ(なのです)!」」
極光が、【調停管理】を貫いた。
次話は土曜日です




