前夜
いつもより短いです
「はぁ……」
あったかいお湯に浸かりながら、エミリアは長い息を吐く。
考えるのは当然のように雪風のことだ。
ベルフェと雪風を除く全員が集まった医務室で、エミリアたちは雪風について話を聞いた。
別の世界から来た雪風が何らかの方法で、エミリアたちのよく知る雪風を暴走させた。そう聞いた時、エミリアはうまく言い表せない複雑な感情を感じた。
──どうして、自分自身にそんなことができるんだろう……。
そして、別世界の記憶を見せたのだというオメガの予想を聞いた時、その複雑な感情は言語化された。
辛い経験をして、そうならないよう忠告するのなら理解できる。しかしティーがしたことは、辛い経験を見せつけて、お前はこんな人間だと言うことだ。
──どうして、過去の自分に鞭打つんだろう。どうして……そんなの、自分だって傷付くのに……。
エミリアには、ティーの考えていることが分からなかった。
♦︎♦︎♦︎
深夜の医務室。明日に備えて誰もが早くに眠りについている中、オメガだけは目を覚ましていた。
寝るために仮面を外していて、薄手の寝衣に身を包んでいる。
そんな格好でシンのベッドに腰掛け、静かに窓から夜空を見ていた。
「不思議だね。本当に不思議だ」
シンに聞かせるというより、自分に語りかけているような独り言。
「正直ボクは、君に会ったら何回か殴らせてもらおうと思っていたんだよ。それこそ、ボクの拳から血が出るくらいにね」
拳を握って、寝ているシンの頬を優しく小突いた。
「でも、これでチャラにしてあげるよ。ボクは寛容だからね」
小突いた頬を労わるように、そっと撫でる。
「だから……」
そこで言葉を切ると、オメガは身体を動かした。
寝ているシンに覆い被さり、額と額をくっつける。
「明日は絶対に起きろよ? 遅刻は許すが、欠席はもう絶対に許さない。これ以上許してなんかやるもんか」
次話は月曜日に投稿します




