二十八話:街へようこそ
翌日、俺はオメガと街に出ていた。
つまり、オメガの雑用に付き合わされたってことだ。
俺を付き合わせるために、オメガは眠そうなベルフェまで連れてきていたのだ。貴方が断ったら私は何のために叩き起こされたんですか……とでも言いたげなベルフェの顔を見たら、断ることなどできない。
ベルフェに魔界でも活動できるようにしてもらい、俺はオメガと共に街に繰り出した。
そして早速街に出てみて気が付いたのは、予想外に人が少ないことだ。魔界と地獄は一緒なんだろう? 死者とかもっと多いんじゃないか?
そう思ってオメガに聞いてみた所、「はぁ? そんなわけないだろ」と馬鹿にされた。
とは言え、丁寧に説明してくれるあたり、オメガも世話焼きなのかも知れない。
簡単に説明しよう。
まず、この世には五つの空間……小世界とでも言おうか。五つの小世界がある。神界、天界、人間界、魔界、地獄の五つだ。
そしてこれは大体三グループに分けられる。神界と天界、人間界、魔界と地獄。
同じグループに属する小世界は似たような空間で、二つの小世界の狭間は非常に曖昧になっており、その狭間を労せず行き来できる存在がいる。
魔界と地獄の狭間を行き来する、悪魔。
神界と天界の狭間を行き来する、天使。
例外として神や魔物は基本どこにでも行くことができ、人間(当然エルフや獣人なども含む)は基本人間界にしか存在できない。
この制限があるから、悪魔や天使は人間を見下しているってわけだな。
罪を犯した死者のいる世界から来たと言う方が恐れられるって理由で、悪魔は自分たちの住む世界は地獄だと説明しているらしく、それが誤解を生んでいるらしい。
悪魔が住む世界は、地獄じゃなくて魔界。よし、覚えた。
…………ただ、少し残念ではあるな。地獄と魔界が同じ空間だったのなら、死んだ人に会えたのだから。
師匠が死んでいるとしたら、師匠と会う道が完全に絶たれたことになる。……いや、師匠は生きている。そうに決まっている。
…………ところで、もうそろそろ良いだろうか?
俺は、オメガに話しかけることにした。
「まだ決まらないのか? どんだけ悩むんだ?」
「む、仕方ないだろ。お金は有限なんだから。……町の入り口からこの店に来るまでに見た、露店に並んでいた商品の値段は予想より高かった」
「そのことと食べたい料理を選ぶのに、どんな関係があるんだよ」
そう。昼時ということで俺たちは店に入ったのだが、オメガがメニューを決めあぐねているのだ。
俺は待つこと自体全く構わないのだが、オメガは即決しそうなイメージがあったから、思わずツッコミを入れてしまった。
「分からないかい? ボクらの所持金は少ない。君の持つ人間界の通貨を使うわけにも行かないからね。そこに物価の上昇……どこで切り詰めるべきか悩んでいるんだよ」
「……なるほど。そういうことか」
やれやれこんなことも分からないのか……というオメガの態度にはイラッとしたが、言っていることは確かに正しい。
「なら俺も選び直すかな。だからオメガは食べたい物を食べたらどうだ? と言っても、俺はお金を持ってないんだけどな!」
「…………。ボクは君の、迷わずそういうことを言うところが嫌なんだよ……」
「? 何か言ったか?」
「いいや? 別に何も? そうだね、ならこれにしよう。……店員さーん! 注文良いかな?」
俺が提案した途端、即決したオメガ。
しかしオメガが頼んだ物は、この店の平均的な値段を少し下回る程度のものだった。
俺が安い物を頼むから、オメガは好きな物を食べて良いって、ちゃんと言ったのになぁ……。
「君はどうする?」
「じゃあ……俺はこれで」
オメガの物より少しだけ安い物を指差すと、テーブルの下で誰かに足を蹴られた。
♦︎♦︎♦︎
物価なども考え、最適な答えを出したオメガ。
どこに間違いがあったのかと言えば、それはそもそも食事をしようとしたことだろう。
「…………」
「…………」
仮面を外そうとしたオメガはその瞬間全てを察し、自分の前に運ばれてきた料理を俺の前に置き直したのである。
逡巡することもなく、無言で。
「いや、食べろよ」
「それはできない」
間髪を入れずに答える。
どうしても仮面を外したくないらしい。
「俺が目隠しをしたらどうだ? まぁ、その場合食べさせてもらうことになるけど……」
「それは……ちょっと嫌だな」
申し訳なさそうに言うオメガ。
ちょっと傷付いた。
他に良い案も浮かばす、このままでは料理が冷めてしまうため、俺は仕方なくオメガの分も食べることにした。
「ボクの計画がぁ…………」
俺が食事をしている間、オメガは一人顔をテーブルに突っ伏し、ピクリとも動かなかった。
計画ねぇ……。
次話は明日に投稿します!




