二十三話:特別な魔力補給をしませんか?
すみません! 昨日の投稿を忘れていました。
「シン、言われた通りに来たのです」
夜、いつもより早い時間に扉が外からノックされた。
扉越しで顔が見えなくとも、その声で緊張していることが分かる。
「おお! 来てくれたのか雪風」
「は、はいっ」
扉を開けると、予想通り雪風は緊張に顔を強張らせていた。
食堂で話をした時には逃げられてしまったから、雪風がちゃんと来てくれるか心配だったが、どうやら嫌だったのではなく混乱していただけだったみたいだ。
ちなみに食事はここでもエミリアが作っている。料理するのが楽しいそうだ。朝昼晩と食事を作って、雪風のために本を読み漁り……エミリアはちょっと働きすぎな気もする。
しかし夕飯を食べている時にそのことを伝えたら、にっこり笑って「私も同じ気持ち」と言われてしまった。
エミリアには珍しい皮肉だ。もしかすると、俺が昨日ベルフェたちと外に行ったことを知っているのかも知れない。
オメガは食事に来ない。仮面をしているから当然か。ベルフェはいつも少し遅れて来る。
「し、失礼するのです……」
雪風が恐る恐る部屋に足を踏み入れる。
俺が扉と鍵閉めると、雪風は肩をビクッと大きく跳ねさせて驚いた。
動きも若干ギクシャクしていてロボットみたいだし、もうエンターテイメントの域に達している。
まぁ、それも仕方ないだろう。
さっきも言ったが、俺がこの話をした時、雪風は混乱のあまりその場から一旦逃走したのだ。
「…………」
椅子に座る雪風は、まるで推薦入試の面接を受ける中学生のようだ。いや、小柄な小学生か。幼稚園生……は流石に言い過ぎだと思うからな、うん。
「あの……。理由はやっぱり話して……」
「すまん。それは話せない」
「そ、そうですか……」
実はベルフェやオメガと話した後、雪風のことをキラとレイ先輩に相談したのだ。すると二人とも、俺と同じでまだ話さない方が良いという考えだったのだ。
ではいつ話せば良いのかと言えば、それは今日である。
……ちょっと何言ってるか分からないよな。
まぁ、簡単に説明すると、確信が持ててから雪風に話そうってことだ。雪風の魔力を、何者かが奪っているという確信をな。
確信が持てれば、今日にでも話すつもりだ。
今夜雪風にいつもより早く来てもらったのも、そのためだ。
「大丈夫だよ。変なことは多分何もしないから」
「そ、それはあまり気にしていないのですが……やっぱり、恥ずかしいと言うか……え? 多分? ちょっと? シン?」
「あはは……」
「そこで笑ったら終わりなのです! ちゃ、ちゃんと否定して欲しいのです!?」
今の雪風の姿は小学生。マリンちゃんよりも小さい。事情も知っている以上、欲情することはないと思う。
……でも雪風の反応は面白いからな。雪風が楽しめる範囲で遊ぶかも知れない。
そのことを伝えると、
「その言葉が一番ショックなのです!」
交差させた手で胸元を隠しながら前屈みになった雪風が、俺に非難するような目を向けてくる。
でも本気でショックを受けているというよりは、冗談を楽しんでいる感じだ。……いやまぁ、冗談は冗談でも俺は割と本音なのだが。
マリンちゃんで耐性はあるはずだが……やはり見てみないことには分からないからな。
「はぁ〜……今のでなんだか緊張がほぐれたのです。じゃあ早くしましょう、シン。特別な魔力補給を!」
特別な魔力補給。それが俺が提案した方法である。
通常の魔力補給の効率を遥かに上回る、その方法は……
♦︎♦︎♦︎
「シンー! 早くするのですよー!」
浴室から、雪風の呼ぶ声が聞こえてきた。
そう、俺が考案したのは混浴である。
何故混浴するかと言えば、同じ湯船の中で魔力補給をするためだ。
雪風との魔力補給は、基本密着する。雪風が逃げ出したのも、それを想像して恥ずかしくなったかららしい。
では何故、風呂なのか。これには大きな理由がある。
魔術師殺しの毒と呼ばれる毒がこの世にはあるのだが、その成分に使われている花を、昨日助けた女性たちに頼んで一緒に探してもらったところ、予想通りこの図書館の庭に沢山見つかったのだ。
雲の花よりさらに高所に咲く花で、雲の花とは違い魔法魔術の力で人工的に咲かせることはできない花。
何故なら、どんなに魔法を使っても意味が全くない……いや、それどころかむしろ花を枯らす原因になってしまう。
その花は、周囲の魔力を吸収し、大気中に放出しにくいという性質があるのだ。そのため、魔力許容量を超えて枯れるまで常に美しく咲くが、その花の成分を体内に入れると最悪なことになる。
具体的には、魔力が奪われる。死ぬようなことはないが、一般人なら体調不良を起こし、魔術師なら魔力が回復するまで魔術が使えなくなる。
故に、魔術師殺しの毒。
弱体化する毒ということで、護衛なら絶対に知っている毒だ。
では、これをどう使うのかと言うと……それはまぁ見てのお楽しみだ。
「ノリノリだなー、実は楽しみだったりしたんじゃないのか?」
「ちっ、違うのですよ!? これはあれなのです! えっと……とにかくあれなのです!」
「ごめん全然分かんないや」
残念ながら、『あれ』がなんなのかは分からない。雪風もよく分かっていないようだった。
俺は笑いながら、脱衣所に向かった。
次話は金曜日です




